みなりんの紀行文

写真とともに綴る、旅の思い出を中心としたエッセイ。
主に日本国内を旅して、自分なりに発見したことを書いています。

蔵の街栃木パート2横山郷土館

2013年12月05日 15時58分27秒 | 旅行記

栃木は、東京から利根川を上って92キロの巴波川(うずまがわ)で、船荷を運んだところです。

河川舟運で、農産物や資鉱物資源などを積みだしては栄えた商人の町と紹介されています。

今日は横山家の写真を見ていただきましょう。

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横山家は、水戸藩士の子であった横山定助は武家から商人になり、麻を主にした荒物商を営んでいました。

成功したあかつきには、銀行業務を営みました。

横山家の建築様式は、両袖切妻造りと言い、日本の商家で唯一の建築物で、平成10年に登録有形文化財に指定されました。

ガス灯があるのがハイカラな感じです。

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中に入ると、昔のお帳場があり、神代杉の天上に、大きなけやきの柱がありました。

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一代目横山定助は、水戸からぞうりを売りながら栃木まで来て、手広く商売を致します。

どれも成功し、資本金当時にして10万円の銀行業も開業。

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奥に大きな金庫があり、黒い扉が立派でした。イロハのダイヤルが珍しいそうです。

古いお札やお賽銭が飾れてあります。

昔の秤や、スタンプ、帳簿などもありました。

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  昔のガラスです。奥には、昔の栃木共立銀行の看板もありました。

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この家の奥には、洋風の建築物があり、お稲荷さんもありました。上の右の人形は、洋館の中にあったものです。

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元祖定助は、12歳で商人になり、二代目定助は栃木市長になりました。

趣味人らしいところがお屋敷のいたるところに感じられます。和風建築のほうでは、三味線や琵琶まで置いてあり、楽器の演奏もなさったようです。

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古風なお庭には、綺麗に白い椿が咲いていました。

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200   土地の名士のお宅ということで、都心から多少離れていますが、東京から日帰りできない場所ではありません。

落ち着いたいい佇まいです。

こうして、私は、岡田記念館のほうへ歩いて行きました。

それは次回に。

続く。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        


初冬の新宿御苑

2013年12月01日 23時21分58秒 | まち歩き

今日は天気が良くて、新宿御苑へ今年初めての紅葉を見に行きました。

新しくできた温室を今日は見学して、温室は綺麗で見やすくなって、ほんとうに素敵になりました。家族と一緒に眺めて、良い記念になりました。

中では蘭の展示会があって、可憐な花々を楽しむことができました。

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もう枯葉がだいぶ地面に落ちていて、ああ、もうこれで紅葉も見納めだなあと思いました。

しかし、赤く色づいて、太陽の日差しに燃えるようであった場所もあり、今日は12月1日、温かい色合いを見つけて安堵すると、愛子様のお誕生日でもあり、祝福されためでたい色を見つけた気分になりました。

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「知識よりも徳の実践を求められる」皇室と言うお話を今日はテレビで知って、それは大事だなあと思いました。

昨日は天皇皇后両陛下がご公務でインドへお出かけになり、皇室も重大な責務を背負っておいでなのだと思いました。

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私はけして皇室に気に入っていただけるような人間ではなく、昔はこんなに綺麗な紅葉よりも自分が異性から可愛く見えるか気にするようなところもある俗物でもあったのです。

今はいい年をしてもう可愛いとか言うよりも、傍に誰かがいてくれることを感謝する、普通のおばさんになりました。心の平安も今は昔よりあるのは、傍にいる人のおかげです。

私の傍いる家族には、私は感謝状を何枚あげてもきりがないほど恩があります。

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昔、私の家族と東京タワーに上った時、地震が来たら僕は君を置いて逃げるよ、と言ったのですが、最後まで私の身を心配し続けて「体調が悪いなら、好きなことだけのんびりしていればいいよ」とまで言ってくれたのは家族だけでした。私はそれ以来、元気になろうと決心しました。今は元気になっています。

人の病と言うのは、「捨てられたり、忘れられたり」されて、生きていることに失望した人が成りやすいのかもしれません。だから、体調のことだけではなく、心がいやされることにより、回復することもあるようです。

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私は人から悪口を随分言われたことがあり、そう言われてもしょうがないのかなあと思ったこともありますが、逆にそこまで言われるほどひどいことはしていないのに何でそうひどいのだろうと思ったことがあります。心に傷ができて痛くて、人が嫌いになったこともあります。

しかし、家族も周りで優しく見つめてくれる人も稀にいて、救われたのはやはり人の情けです。

瀬戸内寂聴さんが、「私は正しいことを言う人より、悲しくて膝を抱えて寝るような人が好きです」と本にお書きになり、世の中そういう人もいるんだなあと、うつろな目で寂聴さんの笑顔を思い出したことがあります。以前は関心がなかったけれど、ほんとうに淋しい人を御存じなのだと思いました。

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マザー・テレサは、「この世で一番悲しいのは人から忘れ去られた人です」と述べておいででした。

私には覚えていてくれた人がいて、じっと傍にいてくれて支えてくれたり、私の体調不良を許してくださった企業もありました。

人によっては、途中で会社を辞めるなんて無責任だと冷たい人も大勢いましたが、みんながみんなそう言う人ばかりではなかったことに感謝します。

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あるスーパーで買ったものを袋からこぼしてエスカレーターで戸惑って、泣きたいような気分の時に、傍にいたレジの女性が飛んできて、「大丈夫ですか?」と一緒にひろってくれた時、その女性が観音のように思えたことがあります。

また、同じスーパーで身体障碍者の方がお財布をスーパーのレジの女性に全部預けているのを眺めて、私はそのスーパーを信頼しようと思えました。

あの時は体調が非常に悪くて、それでも食事の支度をして買い物に出かけて、必死でした。だから、人の情けに涙が出そうでした。

この世には「捨てる人もいれば助ける人もいた」のです。

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今日は御苑で紅葉をよそ見しながら歩いていたら、ボール遊びしていた人のボールが傍に飛んできて、転がっていたのに気付かずにいたら、人が近くに走って来ました。

とっさに、「すみません。気がつかなくて」と謝ると、その人は「いや、ボールが当たらなくて良かったです」と言うので、「ありがとうございます。すみませんでした」と言って、気分が温かくなりました。私の身体に配慮してくれたなんて、急に言える言葉ではありません。

紅葉を眺める気分も、ますます陽気になり、綺麗なレースのような葉の芸術、池の面に映る木々の色合いなど、心がときめきました。

この広い公園にいる人のおかげで、自分は淋しくない。家族もいるし、こういうつかの間の癒しは得難いと思いました。

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赤く燃えるような紅葉には、人の魂の輝きみたいで、晴れやな気分で仰ぎ見ました。

自分の悲しみは自分が温め、他人の冷たい手に気付かなくてはほんものではないのだと思います。今日も自分のことばかり話して恥ずかしいけれど、要するに、人の情けなしでは全く誰も生きていられないのです。

自分が住んでいる地域に感謝しなくてはなりません。

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073_2新宿御苑は、私にはなじみのある場所です。

今日は家族と12月最初を美しい風景を愛で嬉しく感じました。今は淋しい人でも、自分がまだ心から誰かをもし愛せる力があれば、将来また微笑むことができますように、私は祈っています。

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小説『カフスボタン』(続き)

2013年12月01日 14時26分00秒 | 本と雑誌

次の日、店に行くと、隣の店の陶器屋の店員が昼休み、ふっと菜美野の店に寄った。

 

「ねえ、先日、お店の子で綺麗な子がお客様から贈り物を渡されそうになって、懸命に断っていたわよ。これで二度目ですって。下手すると、あとが怖いわよね。」

 うふふ、と他人事と、しゃべっちゃった!と無邪気に笑って、帰って行った。

菜美野は、喉をつまらせるように、枯れたような気分になった。 

そうね、お客様のきまぐれに乗って、恥をかくのは私よ。

 

しかし、黙ってものを受け取ったままでは困る、菜美野は思案した。 

メールアドレスに、メールをした。

 

「昨日は、素敵な花束をありがとうございました。お礼の言葉を申し上げます。恐縮いたしておりますので、今後はもう無理なさらないでください。○○菜美野」 

と書いておいた。

 

すると、返信があって、 

「クリスマスも近いですね。忘年会でも致しましょう。帝国ホテルのロビーで午後6時半、○月○日お待ちしております。」 

とあって、菜美野がそれから「困ります」とメールしても返信はなかった。

 

そこで、しかたなく、菜美野は、一大決心をして帝国ホテルへ行くことになった。 

クリスマスイルミネーションの煌びやかなロビーには、あの紳士がグレーのコートを翻して、こちらへ来る姿が見えた。

 

たいへん、上品な男性に見えた。

 

菜美野は見苦しくないように念入りに化粧して、派手にならない感じでスーツにした。

 

紳士は、菜美野の姿を見て微笑んで、さっそく食事にしましょうと言う。

 ホテルの食堂でコースを頼んだ。 

白いテーブルクロスの上で、ワイングラスを片手にしている男性の手は白魚のように指が長く細く美しかった。

 

菜美野は体育系のクラブで指立て伏せなどした自分の節くれた指、そうみっともなくはないが、美しくもない指を見て、手をひっこめようとすると、すかさず、男性が手を取った。

 

「おや、結婚指輪をなさっていないのですね」 

ちょっと怪訝な顔をした紳士に

 「ええ、商品を傷めないように、いつもは外しています」

答えた。 

「(この人は、重い荷物や水仕事をしたことのない人だわ)・・・」

 黙って思案していた菜美野は、身分違いと言うか、何か違和感を得た。

 「僕はダンスを踊るのですが、貴女は?」

 と言うので、菜美野は頬を赤らめて、

 「いいえ、私は踊れません。」

 と蚊の鳴くような声で答えた。 

白いワイシャツ、カフスボタン。ネクタイピン。輝くような美貌。 

「(私が一緒にいる相手じゃないわ)・・・」

 うつむいてしまった。 

「私をからかっているんですか?」 

とやっと言うと、紳士は驚いたように目を見張って言った。

 

「とんでもない。楽しくて美人と食事をしているだけですよ。それはいけないことですか?」 

菜美野は、当惑して、余計むずかゆくなった。 

陶酔しそうな自分と、理性的な自分が葛藤していた。

 

お店の接客にあたって、雇い主からこう言われた。 

「いろいろな方がお客様としておいでになりますが、店の恥になるようなことは厳禁です。身が硬いことがとても大切です。お客様にも恥をかかせてはなりません」

 と。 

ホテルといえば、外国の来賓はじめ様々な自分の知らない層の方々に接して、自分は幼子のように見えるに違いない、安全パイでおもしろがられるだけだわと思った。

 

夫は、自動車の設計などをしていて、ふだんは仕事場でラフな格好をしていた。

 

菜美野には、今は亡き父親が昔、よくカフスボタンをしていたし、ひとつ、形見に残っていた。

 

赤い石のカフスボタンは、父が昔身につけていた石に似ていたし、紳士が懐かしいおしゃれな父とだぶった。

 

菜美野は紳士が嫌いではなかったが、仕事場を知っている上に、教養も身分もある人で、好きになって傷つくのは自分だと思った。

 

「あの、今日はお食事をありがとうございました。先日は素敵な花束をいただいたばかりで、その上のこのお招きは過分なことでございます。

 

私には、あなたのカフスボタンがとても気になっていました。今の時代、身につけている方が珍しいですもの。

 

私から、あなたにプレゼントがあります」

 

菜美野は、小箱をバックから取り出して、テーブルの上に置いた。 

開くと、中から真珠のカフスボタンが見えた。

 

「ほー、なかなか・・・これは高価なもので・・・どうして僕に?」 

紳士は意外な展開にいぶかしんだ。

 

菜美野は、まじめな顔で、少し淋しく微笑んで述べた。

 

「私の父の形見で、箪笥の肥やしになっていました。あなたならとてもお似合いになります。私は、こんな素敵な場所でお食事をして十分楽しませていただきました。花も実はほしいものでしたが、自分で買うのもためらっていました。

数日の間、夢のような時間を持ちました。しかし、夫がいて、夫に恥をかかせたくありませんし、私もあなたとダンスを踊れるような女性ではなく、残念ですが、これ以上のおつきあいはふさわしくありません。

 

でも、父と再会したようで、非常に懐かしいいい想い出になりました。

 

これは、どうかあなたが身につけてくださると嬉しいのです。」

 

紳士は、表情豊かな方で、微妙に目を細めたり、丸くしたり、驚いたようで困ったような、それでいて、不愉快そうでもなく、最後に下を向いて、顔を上げると、

 

「ありがとう。そこまで思案してくれるなんて。しかし、ふさわしいかどうかは自分だけで決めるものではないんですよ。貴女はずいぶん困ったのでしょう。優しい人だ」

 そういうと、紳士はじっと菜美野の顔を見つめて、 

「今夜のことはよく覚えておきましょう」 

そう述べて、しばらくして、ホテルの食堂から出て、街の外の交差点にふたりは立った。

 粉雪が降りそうな小寒い夜だった。 

菜美野の傍にいた紳士は 

「今日はありがとう。」 

そう述べると、ふわりとコートで菜美野を包み込んで、抱き寄せた。甘い薔薇の香りがした。

 

「これ以上、貴女を困らせてしまうのはやめましょう。これが僕の最後のわがままです」

 そう言うと、すーっと抱いた肩から離して、前に立ち、 

「今度は、また普通の客として、貴女の近くに伺います。じゃあ、これで、ごきげんよう」 

と手を挙げて、交差点を横断して行った。

 

菜美野は、青信号が赤信号に変わってもそのまま立ちすくんでいた。 

「エリザベサン ローズ」

 そう呟いて、その香りを一瞬嗅いだのだが、紳士の今日のカフスボタンは・・・思い出せない。

 しかし、あの赤い石のカフスボタンだけは強烈に目に焼き付いていた。 

「パパ、これでいいわよね?」 

夜空の星を見上げて、そう呟いたが勿論返事はなく、菜美野は帝国ホテルのツリーを思い出して、マントを翻してやってきた紳士の後ろ姿がもう豆粒のようになって行くのを眼にして、メトロの入り口の階段を下りて行った。

 

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小説「カフスボタン」

2013年12月01日 11時24分00秒 | 本と雑誌

 

 

菜美野が、あるシガー兼男性用香水などを扱った店で働いている時だった。

 お客様で、薔薇のオードトワレを購入なさった方がいた。

 「ご婦人への贈り物でしょうか?リボンをかけてお包み致します」 

そう話しかけると、綺麗な細面の紳士はくすっと笑うと、 

「いいえ、これは僕自身が使うのです」 

とにこやかに答えた。

 

菜美野は顔をあげて、お客様を一度はっきりと拝見した。 

白皙で、鼻が高く、瞳の涼やかな四十歳くらいの美男子であった。

 ふと、シックな紺のネクタイにネクタイピンをして、袖に素敵な赤い石のカフスボタンをしていた。 

まあ、このクールビズの時代に珍しいと、カフスボタンをつくづく眺めた。

 

菜美野は急にぼやっとした自分に恥ずかしくなって、 

「申し訳ございません。お客様。ただ今、すぐお包み致します。」 

と何気なく交わして答えた。

 

菜美野は、接客なので、綺麗に髪をカールさせ、品よくまとめていた。 清楚かも知れないが、そう大柄な美人というわけではない。 

ただ、家の躾が厳しかったのと、土地付き家があるという経済的な安心感から採用された。

 もう35歳、このアルバイトもいつまでできるかわからない。 

一応、夫がいて、海外勤務など激務で、家にはほとんどいなかったし、子どももいなかった。

 

ある日、菜美野が勤務土から近い花屋で、綺麗な大輪の花々を眺めて、 

「ああ、こんな花がほしいなあ」 

と眺めて、帰宅しようとすると、

 

「このご婦人にこの薔薇の花束をひとつ差し上げて」 

と男性の声がすると、花屋にお金を渡していた。 

「え?」 

と思うと、花屋さんはにこにこと営業上微笑んで、菜美野に渡した。

 花束が、手元に置かれて、びっくりして男性に向かって振り向くと、そこにはカフスボタンの紳士が佇んでいた。 

「あ、これは・・・(いただけませんわ)」 

と言うところ、

 

「僕のささやかな気持ちです。貴女にふさわしいですよ。なあに、花と女性は不可欠です」

と囁いて、さっと名刺を渡した。

 

菜美野が戸惑っていると、すぐ去って、向こうの道へ横断して行ってしまった。 

菜美野は、花屋にそのままいるのも不自然で、静かに花を持ったまま去った。

 

しばらく、ぼんやり、歩いていて、ふと名刺を見てみた。 

「○○ホテル ○○部 課長 ○○潤一」 

と書いてあった。 

下に、小さくメールアドレスが書かれてあって、「連絡ください」と横書きがしてあった。

 家路に向かう時間帯で、多くのサラリーマンやOLが菜美野の花束を横目で見てみないようで、しっかり眺めているのを知って、そこにぐずぐずできなかった。

前を見据えて、しっかりとした足取りで歩いて行った。