今日はなんて天気がいいんだ
吸い込まれるような青の楽しさよ
藍を流し込んで明るくさせたターコーイズブルー
白梅が雲を浮かべたように浮き上がる
急な階段を登ればそこは梅の園
絵を描いている方々もいる
君はまだちょっと早かったわと心で呟く
百草園の係員の方に後一週間たって
来るといいと言われたね
山がまだ枯れたままで梅はまだ五分咲きだ
家屋の傍の梅はどこか風流だね
寿昌梅はまだ咲いていなかったね
小田原城主の室の寿昌院が寺を再建したんだよ
可愛い桃色の梅をシャッターチャンスと構図を思案して
多くのカメラマンが待機していたね
君はちょこ、ちょこ、とよく撮るけれど
果たして構図は大丈夫かい
ああ、見晴らしのいい場所があるね
橋が向こうに見える
町並みが広がっているな
恋人同士が肩を並べて一緒にベンチに座って眺めていた
昔の君みたいだね
君は若い頃、男性が心配で心配で
自然より彼の心ばかり心配してた
若い頃ってそうだよね
今は吹き抜く風がふわっとたんぽぽの綿で
頬をなでられているように少しひやっと気持ちいい
青空に濃いピンクの花が恋に目覚めてときめき
唇に引いたルージュの色のようじゃないか
なんか艶めくね
水仙が毅然と咲いているよ
君は頼山陽を思い出すんだろ
寒ショウブも端然と咲いていて
武家のご婦人のようにきりっとしているね
福寿草の花は黄色くて笑って咲いている
福が来迎あれってね
陽光の中に煙る梅の花
心字池があって
雪釣りの松があって
芭蕉のや牧水の碑があって
小高い丘に春風がさらさらと吹き通る
君が体調を壊した時
お母さんと春訪れて
お茶席に出たんだよね
あの時の母の優しさをしっかり覚えていて
あの時の百草園の美しさを覚えていて
今日はひとり心弾ませやって来た
赤い椿が鮮やかに咲き、やがて潔く落ちるだろう。
いやな想い出はここで捨てておいき。おもいきって。
悲しいこともここで忘れておいで。風に乗せて去らせよう。
帰ろうとするとあれっと
白梅にうぐいすかなとまっているよ
いや、あれはメジロですよと
傍を通る男性が言っていたね
駄目だな、鳥の名を知らないで生きてきた
花の名前を知らないで生きていくのは淋しいものだよ
鳥の名も覚えてみようか
鳥は世界でとても重要な意味を持っているんだ
ズームアップすると可愛いね
身体が鶯色しているのにね
日溜まりの中で気分いいことだろうよ
君も鳥になって飛んでいきたいだろうね
自由に好きな場所へ
さ、もう時間かな
白梅・紅梅・桃色の梅
ここは俗世間を忘れる場所
ロウバイが見頃だった
ちょっと幽玄な感じだね
また気楽に行っておいで
庭園は君をいつでも待っていてくれるよ
人と違ってね
君を待ってくれなかった人とは違うんだよ
僕はいつもこうして見守っているけれど
人と自然とは違うね
花は咲き、薫風香り、緑は深く、家屋は温かい、人情もまだある
君が生きていれば陽光のぬくもりを感じて人に感謝する日が来る
疲れたら、書物を自宅に置いて自然に触れるんだ
いいかい。もう十分いいね。
若山牧水がよく訪れた場所らしい
幾山河こえさりゆかば 寂しさの はてなむ国ぞ けふも旅ゆく