GOODLUCK'S WORLD

<共感>を大切に、一人の男のスタンスをニュース・映画・本・音楽を通して綴っていきたい

『戦争はなくならない』

2009年03月28日 | Weblog
『いつか、外務省という役所がなくなる日がくる。国家という概念がなくなれば、外務省は必要ない。その前になくなるものがある。軍隊だ。
 子供じみた仮定だというのはわかっている。現実は、軍隊も国家もなくならないだろう。利益を追求する企業の代理人としての国家やその活動の保護者としての軍隊は、これから先さらに求められるものが多くなる。
 
 戦争はなくならない。なぜなら戦争は、その行為において利益を生み、さらに結果においても利益を見こめる”経済活動”となりつつあるからだ。民間軍事会社の台頭がそれを証明している。特殊かもしれないが、戦争を莫大な富を作りだすビジネスにできるプロフェッショナルが、国家と企業のあいだに介在してシェア広げつつある。ジャーナリズムもまた然り。戦争が生む悲劇や憎しみには、ニュースとして犯罪や事故などよりはるかに高い換金性がある。

 しかしそれは世界中を呑みこむような戦争であってはならない。すべてを灰燼に帰するような戦争では、得た富を使える場所もなくなるし、悲劇や憎しみに金を払う観客もいなくなる。
 どこか”遠く”の戦争で生み出されるのが”近く”の富なのだ。したがって世界戦争が起こることはもうないだろう。平和を望む人が多いからではなく、経済原理に反する、という理由で…』

 先日読み終わった傑作、大沢在昌の『黒の狩人』からの抜粋です。日本の刑事警察と公安警察との確執、そして外務省が絡み、中国人から見た日本、日本のヤクザ社会や中国の黒社会と中国国家安全部がリアルで硬質に描かれています。

 新宿鮫シリーズのスピンオフ作品で、本作で3冊目。主人公は警視庁新宿署の暴力団担当刑事・佐江。今回は毛という名の中国人と共に謎の連続殺人を追えと命が下る。一匹狼の佐竹は最初から公安が絡み、毛を観察しながら事件を追えという命令に怒りを感じながらも毛を通訳にして次第に黒社会との深い闇に引き吊り込まれていきます。そこに由紀という外務省職員が参入し、三者の立場からの視線が読んでいてソクゾクするくらい共感できるのです。こんなことは本当に久しぶりでした。

 硬質な展開にも関わらず、映画「手錠のままの脱獄」を思わせる友情の芽生えは、今までの大沢在昌作品とはひと味違います。この作品をどう表現したらいいのか、大変難しいのですが、一言で云えば「それぞれの人間が持っている熱さ、その<自熱>が交錯し合って最後は燃え上がる」こんな感じかな。

 大沢在昌氏の作品の特徴は、敬愛する西村寿行氏の<硬質さ>と緻密な展開を見事に継承し、しかも現代の日本のヤクザ社会、中国マフィア、韓国マフィア、ロシアンマフィアとの絡む、刑事警察、公安警察、外事警察をまるでその職場で働いていたようなリアルタッチでそれぞれの立場で人物を描くところにあります。本作は寿行氏の<熱さ>が乗り移ったかのような描かれ方で上下2巻の大作を一気に読み終えてしまいました。でもその熱さは西村寿行氏のもの(情念)ではなく、別人のものだったようです。


 硬質な読み物を以前は読めなかった連れ添いに、「これならドンドン読めるよ」と半ば強引に奨めたのですが、なんと3,4日で読み終え、「こんなに興奮したのはケン・フォレット以来かな」と絶賛でした。


[m:83]ケン・フォレットのお奨め作品
(硬質度はそこそこでいつも女性が絡んで、大のお気に入りのA・J・クィネルより読み易い)

『針の眼』
『トリプル』
『レベッカへの鍵』
『獅子とともに横たわれ』
『大聖堂』
『鷲の翼に乗って』
『ペテルブルグから来た男』
『飛行艇クリッパーの客』
『ピラスター銀行の清算』

 昨夜、偶然そのケン・フォレットの超大作の『大聖堂』の続編を(大好きな児玉清さんの解説)THUTAYAの本屋で発見。(えらいこっちゃ!)現在、福井晴敏氏(『亡国のイージス』)の『Op.ローズダスト』(3巻)にかかっており、見なきゃいけない映画(昨夜は「七つの贈り物」を観賞)も数多く残っており、ゴルフの練習と実践、野球の観賞など時間が本当に足りない生活を送っています。

 福井晴敏氏の作品は『亡国のイージス』しか読んでいませんが、熱くて熱くてびっくりの作家です。「こんな作家が日本にいたのかか!」とうなり声をあげたくらいです。『Op.ローズダスト』も沸点を超えています。次回の本紹介はこの作品になるでしょう。まだ、1巻目ですが、凄い内容です。

 この福井晴敏氏の第一作『川の深さは』が第43回江戸川乱歩賞選考委員会で大きな話題となり、当時選考委員だった大沢在昌が特に絶賛しました。その後も二人の関係は続いているそうですが、私はそんな二人に完全に振り回されおります。大沢氏の熱さはこの福井氏の影響だったようです。