8月8日 (月) 平成17年1月1日より 2,411 日目
歩いた歩数 その距離 m
本日 19,297 歩 13,508 m
総計 33,624,644 歩 23,537,251m
イラン・トルコ、ギリシャを経てシシリー島カタニアを経てイタリヤ半島ナポリに向かう。後 11,007 m
「軍隊で”タバコを喫う者は手を挙げろ”と言われたら必ず手を挙げるように」と助言されたこともあって、手を挙げた。私は”一年繰り上げ徴集”で入隊したが19歳で未成年者だ。未成年者は喫煙してはならないことに なっているが、現役兵が未成年者かも知れないと疑う者は居なかったし、実際にタバコを喫わない者も見当たらなかったようだ。
タバコを喫わないからタバコが貯まる。物資不足の折りから軍隊にも酒保は開かれず、専ら公平に支給される。と言ってもタバコを喫わない者には支給されない。それでもヘビースモーカーは勿論平常なタバコ愛好家に十分喫える量が支給されるものではない。羊羹などの甘味品は全員平等だ。そこで、ヘビースモーカーは羊羹を食べずにタバコと交換することになる。
私がたばこを喫ってる姿を見ないのを知った古兵が羊羹との交換を要請する。私は喜んで交換に応じる。分けて貰った者は良いが遅れて貰えない者は気分が悪い。「あいつはタバコを喫わない。あいつに支給するのは止めるべきだ」と露骨に言う者が出て来た。そこで自衛上私もタバコを喫わない訳にはいかなくなった。
タバコを喫って、口から出すと、喫った鼻から出せという。鼻から吸って口から出すには一旦肺まで行かねばならぬ。さぁ大変!2~3回繰り返したところ、立って居られなくなってしまった。ベッドに横たわると体が地下に沈んで行く。停まる所が無い。真っ暗な奈落の底に何処までも何処までも落ちて行く。このまま死んでしまうのかと思った。
タバコを止めようか思ったが、羊羹はうまい。羊羹など娑婆に居ては食ベられない嗜好品だ。あまい羊羹を食べたいばっかりにタバコを少しづつ喫い続けた。そのうちにタバコの煙は石炭の煙とは違う味だと判って来たし、喫ってもベッドに臥せなければならない程でも無くなってきた。
有り難いことに、文句を言った古兵も羊羹と取り換えて呉れたし、タバコの欲しい古兵たちは私を別扱いにしてくれるようになった。夜の点呼で「手を出せ」となって爪の伸びた者はビンタを食うのだが、私は大目に見られた。タバコ様々と云うことになって遂に常習者になってしまった。