日々の恐怖 4月9日 手
今から約十年前、大学生だった俺は、クラブの合宿で兵庫県の山奥のホテル(冬はスキー客用になる)に泊まっていた。
その日は、合宿最終日の前日の夜で、練習日程はすべて終わっていたので、消灯後も同じ部屋の仲間でマッタリ語っていた。
夜中の12時近いということもあって、だんだん語りながら仲間たちは一人また一人と眠り、最後の3人だけになったとき、そのうちの一人が、
「 じゃ、この雰囲気もあるし、怖い話でもするかな・・・。」
と言った。
それで、3人で怖い話をすることになったが、すぐに一人は寝てしまった。
外は、瀟々と雨が降っている。
窓は閉めているが、カーテンは開いていた。
朝日を入るようにしておくと、自然に気持ちよく目が覚めるからだ。
俺とそいつは、交互にポツリポツリと話した。
暫く話して俺はネタが尽きて聞き役になった。
そいつの話は、他人の話か自分の話か分からなかった。
“ いくつ話を知っているのだろうか・・・?”
俺の疑問を他所に、そいつの話は続いた。
それで、夜中の1時半過ぎた頃だっただろうか、ふとそいつが呟いた。
「 なぁ、さっきから話が佳境になる度に、丁度良いタイミングで稲妻が光るんだけど、なんかタイミング良すぎて嫌だよな・・・・。」
それを聞いて俺は、
“ はぁ・・・・?”
と思った。
そして、言ってやった。
「 いやいや、全然、そもそも雷鳴ってないよ。」
実際、稲妻など一度も光っていない。
だが、そいつは俺の言葉が信じられないようで、
「 いや、光るってのは、部屋が光るって訳で、光だから、物理的に部屋も明るくなるはずで、そうだよな?」
要するに、稲妻が光る度に、部屋が真っ白く明るくなっているということが言いたいのだ。
しかし、いくら力説されても、光っていないものは光っていない。
俺が、
「 ホントに光ってない。」
と言うと、彼は寝ているはずのもう一人の友人に、
「 なあ、○○は、さっきから聞いてて、どう思った?」
と話を振る。
不思議に思った俺は、
「 そいつ寝てるよ?
おまえが最初の話を終わったぐらいに・・・・。」
と言うと、
「 顔をこっちに向けているのに?」
と聞き返す。
俺は確かめてみたが、布団を被ってスースー言っている。
当然、顔は布団に隠れている。
何か不穏な感じがした俺は、
「 とりあえず、もう寝ろってことだろうな。」
と言って、怖い話を中止した。
そいつも、それに反対はしなかった。
ただ、お互いに寝ようと布団を被る前、そいつの動きが一瞬止まり、
「 手・・・・・。」
と言った。
「 あ?どしたん?」
と聞くと、
「 何でもない。」
と答えた。
次の日の朝だったか、そいつに前夜のことを聞くと、
「 ああ、あれか・・・・・。」
と言った。
かなり疲れている様子で、詳しく話したくなさそうだった。
俺もその様子を見て、
“ 手のことは聞けないな・・・。”
と思った。
今でも時々思い出す。
俺とそいつは向かい合って話をしていたのだが、そいつは俺と違う世界で違うヤツに囲まれて話をしていたんじゃないのかなと思う。
その後、そいつに特に何かあったかと言うと、特段何もない。
今でも付き合いはあるから、そのうち聞く機会もあるだろうなとは思う。
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