ブログよりも遠い場所

サブカルとサッカーの話題っぽい

web拍手レス

2010-01-22 | インポート

>私的オススメの所に、俺TUEEE系好きに捧ぐってことで
>ロマンティック・サイボーグなる作品が取り上げられてるんですが、
>詳しくはどういうものなんですか?
>アマゾンのレビュー見たら、結構面白そうなんですが、
>出来ればどんな話か詳しく教えてください!お願いします。

面白いラノベないかなーと思って2chを見ていたら俺TUEE系ラノベを語ろう!なるスレを
発見致しまして、そこで絶賛されていたのを目にして買ってみた作品です。
詳しいレビューというか、感想は後ほど書こうと思っていますので、
そちらを見て頂くとして(えー
上の該当スレを見て頂ければ、どういった傾向の物語なのかピンとこられるのでは
ないでしょーか。


【雑記】SSトーク16

2010-01-22 | 雑記

 というわけで、秋SSこと神の居ぬ間の祭り唄、再アップ終了のお知らせ。
 これで『TH2』の長編は撃ち切りました。弾切れです。
 残すは『AD』発売前のメイドロボSSをいくつか? のハズ。

 それはともかく、コレは長いなあ。長すぎる。
 元々、オリジナル長編用のプロット(というか書いたモノをそのまま)を二次創作に転用したとはいえ、再アップすら億劫になる量。こんだけ長い話を再読しようなんて奇特な人はいないだろうな。原作補正がなくなった今となっては、一読目に耐えられるSSではないとすら思います。
 ちゅうか僕自身、一度読んだ物語(漫画は別)を再読する派ではないのです。あらゆるジャンルの本を振り返ったとき、再読した作品って『イリヤの空』と『AURA』だけ。
 こういう再読できる作品ってどうやったら書けんだろーね。


【SS】神の居ぬ間の祭り唄・最終章

2010-01-22 | インポート

最終章 「神の居ぬ間の祭り唄」


 陰暦では、十月を神無月という。
 八百万の神たちが出雲に集まり、そのため日本中から神がいなくなる空白の期間。
 神の居ない月。それが神無月だ。

 例えば、神の意思というものがあるとして。
 人を模した人形に人の心を宿すのは、神の意思に反した行為ではないだろうか。
 意思に反した所業を、神は許さないかもしれない。
 人も、人の心を宿した人形も、神の怒りに触れるかもしれない。

 けれど。
 神の居ない月。
 神無月であれば、そのような戯れも許されるのではないか、と。
 そんなことを考えたりした。

*****

 貴明は脱力していた。
 下は制服のまま、上着はワイシャツ姿で、グラウンドの一角にうなだれていた。日は落ちたのに不思議と寒くはない。文化祭の熱気が、未だ身体の中にくすぶっているからだろうか。
 貴明がぼんやりと目を向けた先には、祭りの炎が揺らめいている。
 紅い炎は闇夜に粉を舞い上げ、火の粉はやがて星空へと吸い込まれてゆく。
 文化祭の締めくくり。
 後夜祭のファイアーストームを、学生たちの輪が取り囲んでいた。
「――――はあ」
 細く長いため息を吐く。
 一体今日という一日は何だったのかと、貴明は考えていた。一か月分、いやひょっとすると一年分くらいの気力を使い果たしたような気がする。それくらい密度のある、とんでもない一日だったのだ。
「……貴明」
 自分を呼ぶ声に、貴明はゆっくりと顔を上げる。
「ミルファ」
「お疲れさま」
 そう言ってミルファが差し出したのは、紙パックのカフェオレだった。
「ありがと」
 受け取ってストローを挿す。口をつけ、一気に半分ほどを飲み干して、
「――はあ」
 もう一度ため息をついた。
 ミルファは、そのまま貴明の隣に腰をおろす。朝と同じ、演劇のときと同じ制服姿だった。ひと月前に見惚れ、今はもう見慣れた制服は、やはりミルファによく似合っている。
「ミルファも、お疲れさま」
 本心からの言葉が出た。
 結局、演劇はあのまま終わり、文化祭の日程は滞りなく終了することとなった。不幸中の幸いと言うべきか、人気投票では僅差で貴明のクラスが珊瑚のクラスを上回ったらしい。得票のほとんどがミルファへの同情票だったというのは、眉唾ながら信憑性のある噂だった。
「優季にはしっかり釘を刺しておいたから。……だから、貴明もふらふらしちゃダメだよ?」
「……分かってる」
 穏やかだが凄みのある口調。
 貴明は横を向く。
 ミルファの瞳が、紅い炎を映して輝いていた。
「終わっちゃったね」
「ああ」
「楽しかったね」
「うん、まあ、そうかな」
「――わたし、みんなにホントのこと話そうと思うんだ」
「――ああ」
 それは、自然と口をついて出た言葉なのだろう。なんてことのない、自己紹介をするみたいな口調で宣言するミルファの顔は、晴れ晴れとしていた。
 そんな予感はしていた。舞台に立つ前に話をしていたときから。だから、貴明もごく自然にそれを受け入れることができた。
「じゃあ行こう」
「うん」
 貴明が先に立ち上がり、ミルファが続く。
 二人は肩を並べて、ファイアーストームの中心へ歩いていく。

*****

 ファイアーストームの前に、クラスメイトたちが勢揃いしていた。
 人気投票でトップを獲得したので、その授賞式のようなものが行われるのだ。
「おっ、主役とヒロインのご到着か」
 雄二が言うと、皆の視線が貴明とミルファに集まった。「お疲れさま」「頑張ったわね」という労いや賛辞に混ざって、「ご愁傷さま」という言葉が混ざるのは貴明としては複雑な気分だった。
「……あの、河野くん、ミルファさんも、ご、ごめんなさい……」
 愛佳がおずおずと歩み出て、
「少し悪乗りしすぎました。愛佳さんには、私が無理矢理お願いしたんです。ごめんなさい」
 その隣には優季の姿もある。
「いや、それはもう終わったことだし、……な、ミルファ?」
「うん」
 ミルファは頷き、
「すごく楽しかったし、べつにいいよ。それに、優季のおかげで珊瑚たちのクラスに勝てたみたいなものだから」
 微笑みをこぼした。周りもつられて頬を緩める。
「貴明さんの貞操をお守りできたなら何よりです」
「はは……」
 貴明は苦笑する。珊瑚たちとの賭けを、途中からすっかり忘れていたのだ。
 きっと、それだけ集中していたということなのだろう。これほどまで一つのことに打ち込んだことはなかった。貴重な経験だったと思う。形はどうあれ、無事に幕を引くこともできた。
 あとは、ミルファがけじめをつければ、本当にすべては終わる。
「あのさ、ちょっとミルファから話があるんだけど、聞いてもらえないかな」
 言って、貴明は横を向いた。
 ミルファの顔は少し強張っていた。演劇の前にもこんなに緊張はしていなかったはずだ。
 だが、ミルファは意を決したかのように力強く一歩を踏み出す。
 そして軽く握った右こぶしを胸に当てると、
 ゆっくりと、口を開いた。
「――みんな、これまでありがとう。今日だけじゃなくて、編入してきてからずっと親切にしてくれてホントに嬉しかった。わたしは来週になったらもう学園にはこれないけど、みんなのことは絶対に忘れないと思う」
 クラスメイトたちは黙ってミルファの言葉に耳を傾けている。
「だから、ホントに楽しかったから、隠し事はしたくないから、お別れの前に言わなくちゃいけないことを言うね」
 ミルファの声は少し震えていた。
 貴明の身体にも力が入る。頑張れ、と心の中で唱える。
「わたし、みんなに嘘ついてたんだ」
 ミルファは短く息を吸い込み、
「ヒトのフリをして編入してきたけど、わたし、本当はメイドロボなの」
 言った。
 ミルファは俯いていた。審判を待つ罪人のような面持ちで、全身に力を入れて。
 貴明たちを大きく取り囲む円は、変わらずフォークダンスを踊り続けている。
 クラスメイトたちは、誰も何も言わない。ぱちぱちという火の爆ぜる音だけが、やけに耳に付いた。時が止まってしまったようだった。
「……あのよお、貴明」
 沈黙を破ったのは雄二だ。
「いくつか質問するが、ちゃんと答えろよ? 一つ。おまえがミルファちゃんと知り合ったのはいつだ?」
「……なんだよ、いきなり」
「いいから答えろ」
 有無を言わせない口調で、雄二は貴明の鼻先に指を突きつけた。
「……六月、の中ごろだと思う」
「ふむ」
 雄二は頷き、
「二つ。ミルファちゃんは家事の一切を引き受けている」
「ああ」
「三つ。その家事には、買い物も含まれている」
「そうだよ」
「四つ。その買い物には、おまえもたまについていく」
「荷物が多くなりそうなときは、できるだけそうしてるけど」
「んじゃ最後の質問だ。鈍感で間抜けでどうしようもない河野貴明は」
「……おい」
「そういった買い物をしているところを、誰にも見られていないと思っている」
 ――え?
 貴明の顔に疑問符が浮かぶ。
 俯いていたミルファが、雄二を見て、それから貴明の方に目を向けた。
「……あのな。今が何月だか考えてみろよ。もう十一月だぞ?」
 雄二がため息混じりに、
「よっぽどだだっ広い校区ならともかく、ひょこひょこ歩いて通える場所に住んでるクラスメイトがよ。……メイドさんと一緒に暮らしてるなんて話が知られてないはずねえだろうが」
 お前は本当にバカじゃねえか、という目つきで貴明を睨みつけた。
「……って、ことは、つまり……?」
「ミルファちゃんとイルファさんがメイドロボってことなんざ、こいつらだってとっくに気付いてんだよ。それどころか、珊瑚ちゃんが来栖川とどういう関係か知ってる奴だって稀にいるしな。おまえ、世の中の仕組みに疎すぎるぞ」
 貴明とミルファは目を丸くしている。
「ま、確かに編入してきたときは信じた奴もいただろうけどな。おまえと一緒に暮らしてるとか、そのへんの情報と照らし合わせたら一発だろ。三日もすりゃあクラスの奴らはほとんど知ってたんじゃねえか? ったく、真面目くさった顔しやがって、何事かと思ったぜ」
 それで言うべきことは言い終えたといわんばかりに、雄二はあくびをしながらクラスメイトたちの中に戻っていく。
 身動きの取れない貴明の前に、今度は愛佳がやってきて、
「や、や、べつに隠してたとかそういうのじゃなくて、ホント、あたしたちも半信半疑というか、そんな感じだったの」
 愛佳はミルファに顔を向け、
「あたしったらうっかりしてて、お菓子を薦めたりしちゃったし、……あのときはごめんね」
 ぺこり、と小さく頭を下げる。
 そんなことはどうでもいい、と貴明は思う。
 本当にそんな些細なことはどうでもよくて、
「……みんな、わたしがメイドロボだって知ってたのに親切にしてくれたの?」
 力のない声でミルファが漏らす。信じられないといった口調で、信じてもいいのかという希望を篭めて。
「陳腐な言い方になっちゃいますけど、ミルファさんはミルファさんですからね」
 微笑を浮かべながら、優季が言う。
「きっとこれも運命的な出会いだったんですよ」
「優季……」
 ミルファは堪えきれなくなったのか、両手で自分の顔を覆ってしまった。
「編入が終わっちゃっても、ちょくちょく遊びにきてよ」
「河野くんにいじめられたら、いつでも愚痴りにきて!」
「こいつに飽きたら、俺のところにきてくれてもいいぜ」
「ミルファちゃん、また一緒にお出かけしようね」
 口々に勝手なことを話すクラスメイトたちは、いつの間にかミルファの周りを囲んでいる。ミルファは涙を流せないが、きっと涙を流しているに違いない。
 そしてそれは、悲しみではなく、喜びの涙に決まっていた。
 貴明は、それ以上ミルファたちのやり取りを見ていることができなかった。そのままだと、みっともなく涙を流すところを見られてしまいそうだったから、貴明は歯を食いしばって夜空を見上げる。

 神無月は終わり、祭りも終わる。
 ――だが、それですべてが終わってしまうわけではない。
 人と人の繋がりはずっと続いていく。
 神の居ぬ間の祭り唄が止んでも、次の祭りを待てばいいだけなのだ。
 一際大きくファイアーストームが燃え上がり、歓声があがった。
 グラウンドに流れる祭囃子は、マイム・マイムだった。


END


【SS】神の居ぬ間の祭り唄・第七章

2010-01-22 | インポート

第七章 「星使いの掌 10/30 ②」


 舞台裏は騒然としている。
 特に忙しそうに動き回っているのは、草壁さんと小牧さんの二人だ。
 草壁さんは監督としての最終確認のため、小牧さんは草壁さんの手伝いのため、ただでさえ狭苦しい舞台袖を所狭しと行ったりきたりしていた。
 彼女たちの指示に従い、大道具係が努力の成果を舞台の上に設置している。傍で見るとさすがに粗の目立つセットだったが、遠目に眺める分には十分な出来栄えだと思う。僅か二週間で仕上げたとは思えないほど、元が薄っぺらいベニヤ板だなんて信じられないほど、書き割りの背景たちはリアルに描かれていた。
 開幕の時間は四時ジャストの予定で、既に残り二十分を切っている。
 ――もうそんな時間なのか。
 二時に集合したのが、ほんの数分前の出来事だったような気がする。
 俺や雄二は、既に舞台衣装に着替えていた。舞台衣装といっても学園モノの設定で演じる物語だから、ほとんど制服姿で行われることになっている。今着ているのは、導入の場面のために用意された私服とそれほど変わらない衣装だった。
 ちなみに、当初予定されていた白馬にまたがるシーンだとか、かぼちゃパンツみたいな王子の扮装だとか、そういうのは全面カットしてもらっている。主役を引き受ける際の唯一にして絶対の条件だった。
 クラスメイトの皆は、雑談を交えながらテキパキと作業を進める。
 すぐ後に演劇の本番が控えているというのに、普段と変わらない様子だった。
 だが、それはリラックスしているのとは少し違う。
 緊張しているからこそ普段通りに振る舞おうとしているだけだ。
 失敗したからといって、何がどうするわけではない。これはただの演劇、単なる文化祭の出し物でしかない。どれだけ観客が集まってもそれは変わらないし、ひょっとしたら「素人学生らしく」失敗することの方を期待している人もいるかもしれない。
 それでも、俺たちは緊張していた。それはつまり、真剣だということだ。
 真剣だから成功させたい。させてみせる。
 失敗を恐れるからではなく、成功を祈るからこその緊張。
 それは、心地よい緊張感だった。
「よう。顔が強張ってるぜ」
 そんな風に声をかけてきた雄二には、普段と変わった様子は見受けられない。
「……おまえは余裕あるな」
「ま、主役と脇役の差ってやつさ。それに俺は、いつも生死の境に置かれてるからな。こんなのは朝メシ前なんだよ」
「ちっとも羨ましくないぞ、それ」
「へっ、減らず口は叩けるじゃねえか」
 雄二は肩をすくめ、
「だったらてめえのことで手一杯みたいな顔してないで、今のうちにポイントを取り返してきやがれ」
 顎で指し示した先には、パイプ椅子に腰かけたまま、皆の動きを眺めるミルファがいる。役者組は演技に集中しろと言わんばかりに手伝いの申し出を拒否され、舞台袖に追いやられているのだ。
 ミルファは無表情だった。
 無表情に見えた。
 無表情に見える顔をして、ミルファは腰のところで両手を握り合わせている。唇を噛み締めているわけでもなく、握り合わせた両手が震えているわけでもない。背筋をピンと伸ばして前を見据える姿は、俺のよく知るミルファのものだ。
 支えなんて必要ないのではないか、という逃げの思考を頭を振って追い払う。
 思い出すのは、屋上で感じた温もりと肩の震えだった。
 この一ヶ月を誰よりも真剣に過ごしたミルファは、誰よりも強く演劇の成功を願っているはずだ。だからこそ、誰よりも緊張していておかしくない。きっと緊張している。不安に思っている。
 だから俺は、ミルファの前に立った。
「――貴明、緊張してるでしょ」
「え」
 先制攻撃を食らう。動揺する。
「え、いや、ちが」
「してないの?」
「し、してるけど、でも、俺よりミルファの方が」
 緊張してると思ったから、緊張をほぐそうと。
「わたし? わたしは全然緊張してないよ。緊張してる時間も勿体無いもん」
 あっけらかんとミルファは言った。無表情が消え、華の咲いたような笑みを見せる。ぶらぶらと足をぶらつかせながら、
「わたしね、もう終わっちゃうんだなーって思ってたんだ。あと少しで劇が始まって、始まっちゃったら終わるしかないでしょ? 後夜祭があったり、後片付けがあったりするけど、文化祭はもう終わりなんだな、って」
 何かが吹っ切れたような、晴れ晴れとした声だった。
「ひと月前は、こんな風に感じるようになるなんて思ってなかった」
「――そっか」
 ミルファの横に空いているパイプ椅子があったので、俺はそれに腰を下ろした。ミルファに倣い、慌しく準備するクラスメイトたちに顔を向ける。互いに視線は合わせないで舞台の上を見つめた。準備のペースは上がり、こちらに注意を払っている者は一人もいない。
「ちゃんと馴染めるかどうか不安だったけど、愛佳のおかげですぐに友達ができてよかった」
「ああ。小牧さんは、みんなの委員ちょだからな」
「雄二は、貴明のいないときに助けてくれることが多かったよ」
「あいつは妙なところで頼りになるんだ。普段があれだから気付きにくいんだけどさ」
「優季は、ちょっといじわるなところもあるけど、色々と気遣ってくれてた」
「そうだな。……でも俺は、できればもう少し手加減して欲しいよ」
 ミルファがくすりと笑いをこぼし、
「他のみんなも親切にしてくれたし、毎日がすごく楽しかった」
「家の仕事との両立、大変じゃなかった?」
「それは全然違うよ。貴明のお世話は、わたしがするって決めたんだもん。最優先事項だから、それは別」
 ここまで断言されると、嬉しさよりも気恥ずかしさが先に立つ。
 ミルファは続けて、
「うん。ホントに楽しかった。文化祭も楽しめたし、楽しいこと尽くめだったよ」
「……今日、ホントに楽しかった?」
「うん」
 淀みのない笑顔を見ても、イマイチ信じられない。平手打ちを始め、なんだか怒らせてばかりいたような気がする。
「確かに恥ずかしい思いもしたし、貴明が節操なしだっていうのはよーく分かったけど、よく考えたらああいうのっていつものことだから」
「う……」
 機嫌を損ねられるのも困るが、それはいくらなんでも割り切りすぎだ。その理屈だと俺が節操なしというのは揺るがないことになってしまうし、納得したうえで受け入れてもらうというのも複雑すぎる。
「姉さんたちの喫茶店はともかく、このみのお化け屋敷は面白かったね」
「……あれはお化け屋敷というか、怖がるこのみを観察する場所になってなかったか?」
 ミルファが微苦笑する。あのクラスは、うちのクラスと同じような匂いがした。悪ふざけがすぎるというか、そのために生きているようなフシがある。同じ学園だから似たような学生が集まるのだろうか。
「でも、勇ましい女の子もいたね」
「そういえば……」
 確かにいた。混沌とした中にただ一人、このみ側に立ってお化けに扮したクラスメイトを追い払う女の子がいたのだ。その姿はやけに印象に残っている。
「あの子、いくのんとか呼ばれてたっけ。このみと仲のいい子なのかな」
「どうだろうな。このみにはこのみの友達付き合いがあるんだろうけど」
「そうだね」
 どちらともなく笑いをこぼす。
 二つの笑い声が重なり、会話が止まる。
 そろそろ大道具の設置が終わりそうだった。草壁さんは、照明係の生徒に声をかけている。マイクの調子を確かめてみたり、本当の意味での最終確認をしている。
「いよいよだね」
 そうだ。
 いよいよ始まる。演劇の本番が、文化祭の終わりに向けて進み始めてしまう。
 ミルファと話をしていて、緊張はどこかへ吹っ飛んでしまった。十分かどうかはともかく、できるだけの練習は積んできた。とうの昔に、腹は決まっていた。
「キスシーン、がんばろうね」
「ああ」
 ごく自然に返事をする。
 さあ、演劇を始めよう。
 草壁さんが、ちらりとこちらに視線を向けた。瑠璃色の瞳が、「準備はできましたか」と問いかけていた。
 唾を飲む。
 俺の返事は決まっていた。
 力強く、頷いた。
「――開幕しますので、舞台の上に作業用具を残さないようにしてください! 役者の皆さんは心の準備だけよろしくお願いします!」
 草壁さんが叫ぶと、秩序なく動いているように見えたクラスメイトたちの集団が、一斉に舞台から舞台袖になだれ込む。
「それじゃ、気張っていきますか」
 いつの間にか隣にやってきた雄二に従い、
「分かった」
「うん」
 二人で返事をして立ち上がる。
 それを合図にしたかのように、舞台の照明が落ちた。
 緞帳の向こうから、開始のベルが聞こえてくる。厚い幕を隔てたそれは、くぐもって聞こえるせいで夢の中で鳴っているような気がした。
『――これより、二年生の代表クラスによる演劇を上演いたします。ご覧になる方は、お近くのお座席におしゅ…………。お、お座りください』
 小牧さんが噛んだ。
 暗闇の中から、皆が脱力する気配が伝わってくる。
 緞帳の向こうから、小さな笑い声も聞こえてきた。
 だが、時の流れはこちらの都合などお構いなしだ。
 一瞬の沈黙が降りてきて、
 ゆっくりと幕が上がった。

*****

 演劇は順調に進行した。
 ミルファや雄二が問題ないのは分かりきっているにせよ、自分も大根なりにミスのない味のある演技が出来ていると思う。俺が本番に強いなんていうのはありえないので、ひょっとすると厄みたいなものを最初に小牧さんが全部持っていってくれたのかもしれない。
「……ふう」
「お疲れさま」
 舞台袖に下がった俺に、厄払いの女神がタオルとペットボトルを差し出してくれる。
「ありがとう、小牧さん」
「いえいえ」
 舞台の上では、雄二とミルファが熱演を繰り広げていた。舞台に立つ二人の姿は確かに俺の知る二人のはずなのに、どうしてか別人のようにも見える。自分もあんな風に見えているのかと思うと、照れくさいやらくすぐったいやら妙な気がした。演劇に打ち込んでいる人は、いつもこんな気持ちを感じているのだろうか。
 物語は佳境に差し掛かっている。
 始まる前は尻込みしていたにも関わらず、少しだけ終わってしまうのが惜しくなっているのだから現金なものだ。舞台というのは、立ってみればなんということもなく、本番とはいえ練習のときとさほど変わらない。照明の加減で客席から舞台の上はよく見えても、その逆はよく見えないため、思ったよりも観客の視線が気にならなくて演技に集中できるのである。
「俺……、ミルファちゃんに話があるんだ」
「わたしに?」
 タオルを握る手に力が籠もる。
 舞台の上では、雄二とミルファが向かい合っていた。この二人の対話のシーンが終わったら、俺は再び舞台に上がらなくてはならない。そこから先が演劇のラストシーンだ。
「ミルファちゃんさ、俺の気持ちなんて全然気付いてなかっただろ?」
 真剣な表情をする雄二は意外なくらい絵になる。こういうところを見るに、タマ姉と遺伝子的な繋がりがあるということを再確認させられた。何だかんだで姉弟というか、案外雄二の思惑通り、この演劇を見てコロッと騙される女子生徒が出てくるかもしれない。
「……河野くん?」
「ゆ、雄二の気持ちってどういうこと?」
 答えるミルファの演技もまったく危なげない。照れ屋で感情の起伏が大きいからどうなることかと思っていたが、この場合はそういうのがプラスに働いたようだ。
「河野くん?」
「……俺、ミルファちゃんのこと好きだ」
 どきりとした。
 雄二が口にしたのは、もちろん演劇の台詞にすぎない。それでも雄二の口調や表情の真摯さが、俺の中の何かを揺さぶっている。
 もし。
 もしも、仮に。
 俺と雄二が同じ女の子を好きになったら、俺たちはどうなるんだろうか。現実は物語みたいに甘くはない。どろどろの愛憎劇なんて想像したくもないが、そうならない保障はないのだ。
 もし、俺たちがミルファのことを好き、だとしたら。
「河野くんってばぁ」
「――あ、あれ。小牧さん? 俺のこと呼んだ?」
「さっきから呼んでましたよ。なんだか考えごとしてたみたいだけど、どうしました?」
「い、いや、なんでもないよ」
 まずい。俺は何をぼうっとしているんだ。
 まだ本番中で、演劇は続いている。気を抜くには早すぎる。一番大事なラストシーンが残っているんだから、気合を入れ直さなければ。
「えっと、それでどうしたの?」
 まさか声が漏れたりはしないだろうが、自然とトーンは下がる。小牧さんも同じくらいのトーンで、
「あの……、あたし、河野くんに言わないといけないことがあって」
「……なに?」
「そ、その、あの、実は……」
 小牧さんは思い詰めた顔をしている。その表情には妙な威圧感があって、どきどきしてくる。こんなときに、こんな場所で、小牧さんは一体何を、
「――河野! 河野! もう出るぞ! 支度しろ!」
 小牧さんに向いていた意識が、クラスメイトの声で引き戻された。
 舞台を見る。
 雄二がミルファに詰め寄って、片手を握った。
 出番だ。
「っと、ごめん、小牧さん。それじゃあ行ってくるから、話はまたあとで!」
「え、あ、は、はい、がんばってください……ね」
 力ない笑みを浮かべた小牧さんに、タオルとペットボトルを渡して、舞台袖を駆け抜け、
「――待て! 雄二!」
 力の限りの大声を張り上げ、俺は舞台に踊り出た。
 雄二がこちらを見る。ミルファもこちらを見た。
 おそらく、客席すべての視線が俺に集まっている。舞台袖で誰かが、体育館に入りきらないほどの観客が集まったという話をしていた。数百人クラスの観衆が俺を見つめているはずだ。
 望むところだった。
「おまえ、ミルファに何してるんだよ」
 二人の間に割って入る。雄二は一歩を後ずさり、
「……うるせえ。てめえみたいなへたれには関係ねえだろ」
 睨むような目を俺に向けてきた。迫真の演技に思わず気圧されそうになる。
 だが、
「関係あるに決まってるだろ。ミルファがこんな悲しい顔してるんだぞ? 関係ないはずないだろ!」
「――っ! てめえが!」
 雄二が身体をぶつけるように詰め寄ってきて、そのままの勢いで俺の胸ぐらを掴んだ。
「てめえがそんなだからミルファちゃんが悲しんでんだよ!!」
「わけの分からないことを言うな!」
「や、やめて、二人とも!」
「分からないじゃねえだろ。分かれよ、貴明。てめえがミルファちゃんを泣かせてるんだろうが!!」
 想いの篭った台詞を吐き出しながら、雄二がこぶしを振り抜く。それはもちろん当たらずに、殴られた演技をするだけだ。雄二は動きに合わせて胸ぐらから手を離しているので、俺はそのまま舞台の床に転がった。
 ――痛ぇ。
 身体は何ともないのに、心の方を打ち抜かれたような気分になる。
 この脚本はよく出来ていた。単に実名を使っているだけではなくて、本人をじっくりと観察したうえで書かれている。俺が肝心なときに一歩引いてしまうことも、雄二が他人のために怒ることも、強気に見えて意外と寂しがり屋なミルファの性格も。もしも同じ状況に置かれたとき、本当にこんな風に行動してしまうのではないかと思いすらする。
「も、もうやめて。……ダメだよ。わたしは、雄二の気持ちには応えられない」
 地べたに手をつく俺と、俺を見下ろす雄二の間に、ミルファが立った。
 ミルファの背中を見上げる。
 雄二が口にする台詞は、いちいち的を射ていた。ミルファは、いつだって俺のために色々なことをしてくれていた。クマのぬいぐるみであったときから、励ましたり勇気付けたりしてくれた。今の姿になって再会してからもそれは変わらない。
「……だって、わたしは」
 まっすぐな好意を向けてくれるミルファ。俺はいつもそれを受け流してはいなかっただろうか。そのせいでミルファが悲しむことはなかっただろうか。
 いや、あったはずだ。
「わたしは、貴明のことが、――好きだから」
 それでもこんな風に言ってくれるミルファを、俺は、
「……へっ、最初からお呼びじゃなかったってことか」
 雄二は苦い顔でそれだけを吐き捨て、俺たちに背を向ける。客席は静まり返っている。静寂の中を歩き、雄二は舞台袖へと姿を消した。
 舞台に残されたのは、俺とミルファの二人だけ。
 ここからがラストシーンだった。
 ミルファが安堵の息を漏らし、俺の方を振り返る。尻餅をついた俺に手を差し出して、
「……立てる?」
「……ああ」
 ミルファの手を握り、ゆっくりと立ち上がった。
 体育館の中は、相変わらず沈黙に包まれている。次の台詞を待ちわびている。
 そう。
 あと一言で、演劇は終わる。
 俺はミルファを見つめた。ミルファも俺を見つめていた。
 ――気合を入れろ。
 ミルファの腰に手を回す。小さな身体を抱き寄せる。
「――――っ」
 息を呑む気配が伝わってきた。俺の雰囲気が違うことに気付いたのか、ミルファの瞳には僅かな動揺の色がある。頬が紅潮している。
 俺は決めていた。決意した。
 最後の台詞と演技に、
 俺の本当の気持ちを篭めると。
 腰に回した腕に力を入れる。ミルファは目を見開いたまま。その瞳に、自分の顔が映っている。その自分の顔が徐々に大きくなっていって、
「俺も、ミルファのことが、」
 スポットライトの光が差し込む中、俺はミルファにキスを、

 暗転。
 スポットライトが消える。いや、スポットライトどころか、舞台を照らしていたすべての照明が落ちた。体育館が闇に包まれる。非常灯の明かりだけがぼんやりと浮かび上がっていた。
 ――なんだこれ。
 どうしたんだろう。何かのトラブルだろうか。
「た、貴明? どうしたの、これ?」
 腕の中のミルファが、不安げな声を出す。
「わ、分からない」
 本当に何がなにやらサッパリだった。トラブルだとしたら最悪だ。客席もどよめいている。せっかくあと一言で演劇を終えることができたのに。ミルファに俺の気持ちを伝えることができたのに。一体どうして、
『――え、永遠の愛を誓い合った二人でしたが、そのためには代価を払わねばならなかったのです』
 唐突にスピーカーから声が出る。
「ま、愛佳?」
 ミルファの言う通りだ。先ほどまでナレーターを務めていた草壁さんではなく、スピーカーは小牧さんの声で喋っている。
『――その代価とは、男の子のく、唇でした』
「なっ」
 うすぼんやりとした暗闇の中、思わずミルファと顔を見合わせる。とんでもないことを言い出した小牧さんが、何を考えているのか分からない。分からないが、無性に胸騒ぎがする。悪い予感が今すぐ逃げろと警鐘を鳴らしていた。
『――代価を受け取るのは星の精霊。彼女は何よりも人の愛を尊んでいるのです』
 ナレーションはそこで終わった。
 小牧さんが言い終わるのと同時に、舞台の端にスポットライトが下りる。
 その中心に、降り注ぐ光の只中に、
「――――世の中って運命的な出会いで満ちあふれていますよね?」
 草壁さんが、立っていた。

*****

 俺は夢を見ているのだろうか。
 夢でなければ、冗談に決まってる。いや、こんなタチの悪い夢も冗談も勘弁してもらいたい。こんなのが現実であるはずがない。現実であるなら、ミルファとキスをして終わるはずのラストシーンに、白いブラウスと黒いロングスカートを身につけた草壁さんが現れるはずがないじゃないか。
「どっ、ど、どど」
「ドレミファソラシド、ですか?」
「……違うわよっ!! これはどういうことなの!? 優季っ!!」
 怒りをあらわにして、ミルファは草壁さんに詰め寄る。草壁さんは涼しい顔で、
「私は草壁優季ではありません。運命と愛を司る星の精霊です。お二人の仲を祝福するためにやってきました。私と貴明さんが口づけすることで、お二人の愛は永遠になるのです」
 しれっとそんなことを言い放った。
「なっ、なんでわたしと貴明の話に優季が割り込んでくるのよ!? ていうか優季とキスするのは何の関係もないでしょ!?」
「関係ありますよ。こういうおとぎ話では、精霊との契約とか大切なんですから」
 そういえばそうだった。草壁さんに読ませてもらったトラッシュバスケットノートに書かれていたのは、ほとんどが童話やおとぎ話だったっけ。だったらこれもしょうがないのかなあ。どうせ夢なんだろうしなあ。
 ――って、まずい。
 思考が現実逃避を始めている。だが、
「というわけで、貴明さん。皆さんの前でっていうのは少し恥ずかしいですけど、初めてですから優しくしてくださいね」
 ぽっと頬を染める草壁さんは、俺を逃がしてはくれないらしい。
「ダメ! バカなこと言わないで! キスなんて絶対させないからね!」
 ミルファが黙って見ているわけもなく、俺と草壁さんの間に身体をねじ込むが、
「ミルファさんも、前にお聞きしたときはキスしてもいいっておっしゃってたじゃないですか。今になってダメなんて、そんなのずるいです」
「そんなこと言ってないもん!」
「いいえ、言いました」
 草壁さんの言葉を思い出す。
『演劇の脚本にキスシーンを入れても構いませんよね?』
『ミルファさんの許可が頂けましたら、劇の最後に貴明さんとのキスシーンを入れたいと思っているんですよ』
 ――ああ、なるほど。
 確かに草壁さんは、「誰が」俺とキスをするのかということには言及していない。ミルファの許可がもらえたら、劇の最後に俺と「誰か」のキスシーンを入れるとしか話をしていなかったのか。なんて、
「そんなの詐欺じゃない!」
 疑いようもなく詐欺だった。
 それでも、草壁さんは動じない。
「詐欺ではなく、策です。恋愛は直球勝負だけじゃないですから」
「うう~……」
 もはや草壁さんは一歩も引かず、ミルファの方にも引くつもりはないようだった。客席からは堪らえ切れなくなった人たちの笑い声があがっている。これだけ別の意味で熱が入っていれば、当初の予定から外れていることは明白だった。
「貴明さん、演劇を終えるためにもキスしてくださいますよね?」
「貴明! そんなことしたら絶対に許さないからね!」
 だから、そこで俺に振らないでくれ。
 いつの間にか舞台の照明は蘇っていて、舞台袖のクラスメイトたちの顔が目に入ってくる。男連中は「貴様だけを幸せにさせるかざまあみろ」みたいな視線を、女子生徒は「河野くんの男らしいところが見てみたい」みたいな視線を注いでいた。雄二もすっかりいつもの様子に戻って、にやにやと俺のことを眺めている。
 こいつら、全部知ってたのか。絶対に許さん。
「貴明さん?」
「貴明!」
 叫び出したい。逃げ出したい。この場で心労で倒れたとしても、誰も文句を言わないんじゃないかと思う。そのとき、
『――というわけで、優柔不断な男の子は、その優柔不断さゆえに身を滅ぼすことになったのでした。……めでたし、めでたし』
 悪意を感じずにはいられないナレーションが入り、
「……あ」
 ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと、幕が下りていった。
 俺も、ミルファも、草壁さんも、クラスメイトたちも、下がっていく幕を見つめていた。誰も彼も、何が起こったのか理解できていない。ぽかんと口を開けてその場で呼吸を止めている。
 舞台が完全に緞帳に覆われても、体育館はしんと静まり返っていた。

 一瞬の後。
 歓声が、爆発した。
 拍手とブーイングの混ざった大音量が緞帳を揺らしていた。
 そこでようやく気付く。
 演劇は、終わったのだ。
 お世辞にも大団円とは言えない虚しい終幕だった。俺は腕まくりをして、散り散りに逃げ出したクラスメイトたちを追いかける。それが今の俺がやらなければならないことに決まっていた。
 カーテンコールに応えている暇はなかった。


to be continued