実は7月30日が誕生日だったんですが、その誕生日に『天気の子』を観てきました。
以下ネタバレありの感想。
面白かった(直球)
いやこれすごいですね。
特に僕みたいな、ゼロ年代のセカイ系に触れ続けた(かつ、その内容にやや辟易としていた)オタクにとっては最高でした。
序盤~中盤はぶっちゃけ壮大なネタ振りであり土台作り。
個人的に『天気の子』の肝は終盤に畳みかけてくる怒濤の展開にあると思ってます。
終盤の展開を、要素を抽出して並べると、こんな感じになります。
1.陽菜が人柱になることで東京の雨が止む(気候が元に戻る)
2.帆高、陽菜を取り戻すために鳥居をくぐる
3.帆高が人柱になった陽菜を連れ戻す
4.それによって東京の雨は止むことなく降り続ける
5.3年後、雨が止むことのない東京は水没したまま
まず1が全ての事象の中心ということになるでしょう。
プロローグにおいて、母の病室から飛び出した陽菜は、天候を自らの意思で操り、晴れさせることができる不思議な能力を得ました。
陽菜は帆高と出会った後、その能力を用いて他人の役に立つことで、自らの生き甲斐、存在意義を確立していくことになります。
しかし陽菜は、能力を使用すればするほど自らの体が透けていき、最終的には消滅してしまうという代償があることを知り。
それでも、自身が消滅すると承知した上で、ライフラインが寸断されようとしていた東京の異常気象を食い止めるのでした。
というのが終盤までの大まかなストーリーです。
「超常的な力を得るヒロイン」、「力を使う代償」、「代償としてのヒロインの消滅」――
このへんは見ていてとにかく懐かしかった。
身も蓋もない言い方をすれば、エロゲ全盛の頃ってこんなシナリオばっかりだったよね、というワリとイタめのノスタルジィを感じざるを得なかった。
いや、いま20代の人はピンとこないかもしれませんけど、マジでこういう「ヒロインと世界を天秤にかけて、どちらを取るか」みたいなエロゲ多かったんです。
いわゆる葉鍵(この場合は『ONE』や『Kanon』の影響が大きかった気がしますが……)が一大勢力を築いた結果、あたかもエロゲのシナリオには終盤にヒロインと不条理な別離が待っていなければならないというルールがあるかのように似たタイプの作品が乱造されていました。
そして、その手のエロゲは最終的に、
a.ヒロインが犠牲になって世界は救われました。ヒロインのいない世界で主人公は寂しさを感じながら生きていきます。
b.ヒロインが犠牲になって世界は救われました。なんだかんだで主人公が頑張ってヒロインも復活しました。ご都合主義ハッピーエンド万歳!
c.ヒロインが犠牲にならずに世界を救う方法をみんなで考えよう!→見つかりました。ご都合主義ハッピーエンド万歳!
d.ヒロインが犠牲にならなかった結果、世界は救われませんでした。
おおよそこういう展開を経てエンディングを迎えるわけですが、まあ、名作もあったとはいえ、正直モヤモヤの残る作品のほうが数が多かったんですよね。
aの類型は……もうね、個人的にセカイ系の癌ともいえるような悪しき慣例を生み出した展開だと思ってます。
お前ヒロインを消滅させれば感動すると思ってねえか? と。
実際に泣いてた人間が言うと説得力皆無ですが、だからこそ、「簡単にプレイヤーを感動させることができるがゆえ、安易にaのようなシナリオが生み出されていた」のだと思います。
bとcの類型はハッピーエンドではありますが、作品の世界を作り手がすべて用意している以上、あまりにもご都合主義が勝ちすぎていて、回避可能なハードルが最初から用意されているように感じてしまいがち。興ざめすることが多かったです。
dの類型はなんつうか「ライターさん何かリアルで嫌なことでもあったの?」と思えるというか、エンタメであることを放棄した作品未満の作品が目につきました。
で、話を戻して『天気の子』です。
映画をご覧になった方はご存じのように、『天気の子』の終盤で帆高と陽菜はひとつの選択を迫られます。
つまり、陽菜を取るか、陽菜の消失と引き替えに東京の天候を元に戻すか、という選択ですね。
内容について少し触れると、陽菜が人柱になることを決意したのは、帆高との「晴れて欲しい?」「うん」(意訳)というやり取りがあったからだと思いますので、東京の人々のためというより帆高のためにそうしたと考えると『イリヤの空』っぽくて「あぁ青春だなあ」としみじみしたりもするんですが。
さておき、ここからの展開が、もう、すごくて……すごかった(語彙)
ぶっちゃけ、前述したエロゲシナリオでも、2~3まではワリとあり得る展開だったんですよ。
ですけど、これも前述したように、aのようにヒロインが戻ってこない展開ではモヤモヤが残るし、b、cのようにハッピーエンドを迎える展開ではご都合主義が勝ちすぎていてコレもモヤモヤが残る、と。
だからこそ僕は、『天気の子』がどういう落としどころに向かうのかワクワクしていました。
そしたら、
「陽菜の好きなようにしていいんだ!!」
テンション爆上げ。
そう、別に世界とヒロインが天秤にかかっていたとき、世界を選ぶ必要はないわけです。
それが客観的に見て正しいかどうかはさておき、帆高の台詞、言動は、主人公としては圧倒的に正しかった。
凄まじく勢い任せの展開ではありましたけど、直前でポリスメンから陽菜の実年齢を聞かされたのが、帆高としては腹をくくる最後の後押しになったんだろうなあと。
「なんだよ、新海誠、また年上ヒロインかよ」というミスリードからのあのネタは、視聴者としても衝撃だったよ!
んでまあ、そうは言っても、この時点では「そっちを選んだかー」と感じた程度だったんです。
つまり今回の新海誠監督は、エロゲの類型で言うところのbやc、ハッピーエンドのご都合主義を選択したんだな、と思ったんですね。
そしたら、
それから雨は止むことなく……やがて東京は水没した。(モノローグ)
マ ジ か よ 。
このとき(4、5の展開を経て)、鳥肌が立ってました。
いやもう、こうきたか、と。
ぶっちゃけ僕はハッピーエンドの物語が好きなので、何の犠牲もなく陽菜が戻ってきて、東京の雨もなんだかんだで止みました、でも構わなかったんですよね。
ですけど、たしかに「一度二者択一を迫り、どちらかを選んだ以上、どちらも得るという結末にしてしまったら、選択の意味が軽くなってしまう」んですね。
あれだけ美麗に描かれていた東京の街が水没したビジュアルには衝撃を受けましたし、帆高の選択の重さが一気に増した感じで、正直やられたな、と。
最終的に圭介の口から「お前らが世界を変えたなんて思い込みだ」という〝逃げ道〟を呈示させるのも巧かったですし、その圭介の言葉を受けて楽なほうに逃げようとしていた帆高が、今もなお祈りを捧げる陽菜の姿を見て「やはり僕たちが世界の形を決定的に変えてしまったのだ」と自覚し、受け容れながら陽菜を抱き留めるエピローグは、パーフェクトだったと思います。
新海誠監督は、「ヒロインと世界のどちらかを切り捨てるという不条理な選択を迫る作品」や「安易なご都合主義でお茶を濁すセカイ系()作品」を容赦なく殴りつけ、とても心地の良い、読後感が爽やかな青春作品を生み出してくださいました。
やはり出来の良い創作を摂取できるとパワーが貰えていいですねということで一つ。
[映画『君の名は。』公式サイト]
http://www.kiminona.com/index.html
観てきました、公開されて間もない『君の名は。』を!
や、最初は全く観る気なかったんですけど、『シン・ゴジラ』を観たときに流れた予告ですごく興味を惹かれてしまったんですよね。
ちゅうか、映画館全体で延々とPVを流していたので、そりゃ目に入るわーみたいな感じで。
あ、ちなみに『シン・ゴジラ』は普通でした。
つまらなくはなかったんですけど、特に感想を書くほどではなく、少なくとも心はあまり揺さぶられなかったなあ、と。
特撮そのものにあまり興味がないというのはあると思うんですが、あそこまで世間で絶賛されている理由が、僕にはちょっと分からなかったです。
……と、話を戻して『君の名は。』ですね。
ネタバレにはあまり配慮しないので、未見の方でネタバレが嫌だという場合は、どうかご遠慮ください。
いやあ、こうして感想を書いていることからもある程度察して頂けると思いますが、ひっじょおおおおおおおに面白かったです。
ぶっちゃけ、ここ数年観た映画では、一番印象に残りました。
感動して泣ける! とか、展開が熱い! とかではないんですけど、スッと静かに「良い話だったな」という感想が自分の中に染み入ってくるような、とても良い作品だったと思います。
『君の名は。』はとにかくキャラクターが秀逸でした。
主人公の瀧と、ヒロインの三葉、どちらも好感が持てるキャラクターで、二人が入れ替わりを通して徐々に惹かれ合っていく描写を観ているだけでも楽しいんですよね。
とかく「瀧がおっぱいを揉む」とか「三葉がチンコを触る」みたいなコメディが強烈な部分に話題が集まりがちですが、他のシーンがすっごくいいんですよ。
瀧にとっては思いやりや気遣い、三葉にとっては積極性とアグレッシブさ、というような、お互いに欠けた部分を、二人が入れ替わることによって自然と補っている、というのが面白かったです。
スマホでのやり取りや、入れ替わった二人と接した周囲の反応を通して、瀧と三葉がお互いに相手を好きになっていく、というのが、尺自体は短いんですけど、本当に良く描かれていました。
物語が中盤、瀧が先輩とデートすることになるあたりは、なんつーか、もう、うわータマラネエーといった感じで。
瀧は先輩に指摘されて自分の気持ちに向き合うことになり、三葉は自分の気持ちに気づくと同時に上京を決意する(あの時点では分からないけど)、という超絶ラブコメ展開。
結局、物語の中軸を担うギミックにより、あの時点で二人が真の意味で出会うことはなかったわけですが、あの〝デートの日〟は行間を色々と想像してしまってヤバイですね。
朝、涙を流している自分の顔を鏡で見て、自分の気持ちに気づき、瀧に遭いに行くことを決めた三葉。
ほとんど手がかりがないまま東京を歩き回り、ボロボロになった末にようやく見つけた瀧はまだ自分と出会っていないせいで、そっけない態度。
髪留めだけは渡せたものの、あのあとで地元に戻り、バッサリと髪を切った心情を想うと、なんとも言えない気分になりました。
しかも、本来であれば、あの次の日に隕石によって命を落としていたという……悲しすぎるやろ(つд`)
いやー、三葉は、近年稀に見る健気なヒロインでしたね。
まあ、物語の都合上しょうがないんですが、互いに一度も顔を遭わせないまま、それでも互いのために必死になるというのは、もの凄く熱い青春映画だと思いました。
それに入れ替わりがなくなってから瀧が見せた死に物狂いの行動力なんかは、三葉の健気さを受け止められるだけの真摯さを感じましたし、本当にお似合いの二人だよなあ、と。
個人的には、ご神体のところで初めて向き合って話すシーンがクライマックスというか、一番盛り上がりました。
「すきだ」はちょっとクサすぎて笑っちゃいましたけど、あれだけ徹底的に名前(記憶)が消える仕組みである以上、もしあそこで瀧が自分の名前を書いていたら、挫けそうになった三葉が再び走り出すこともなかったんだろうなーと思うと、なかなか粋な演出でしたね。
ただちょっと最後は引っ張りすぎというか、瀧は5年、三葉は8年(!)も悶々と過ごしていたのかと思うと、ホント新海誠は自分の作品の登場人物に厳しいS野郎だなーと思いますが、今作ではキチンと再会するところまで描いてくれたのは最高でした。
……でも、やっぱ5年、8年は長すぎるよなあ。無粋なのは承知の上で、再会は瀧が大学生、三葉が就活中、くらいの時期(つまり3年くらい前倒し)でよかったんじゃないかと思えます。
それくらいのさじ加減が僕としては好みですね。
とはいえ、気になったのはそれくらいで、それも単なる好みの話です。
正直、これまでの新海誠作品をちっとも良いと感じなかっただけに、『君の名は。』の面白さには驚きました。
これはどんどん口コミで広がっていくだろうなあっつーことで一つ。
あ、最後に一つだけ。
ご神体のある場所のシーン、あれはさすがに壮大すぎて「これはないわwwww」って笑いそうになりました(ノ∀`)
あんな大作RPGの聖地みたいなところ、歩いて行って帰ってくるのムリやろwwwwww
瀧はともかく、女と老人だけで向かうとか確実に遭難しますわwwwww
見てきました。
が、ぶっちゃけ内容に関しては「つまらない」という一言で全て表現できるので割愛。
正直、久しぶりに「時間と金を無駄にしたなあ」と感じる酷い映画でした。
やっぱ『ラブライブ!』のアニメスタッフクソだわ。
ただ、今回の劇場版を見てひとつ確信できたことがあります。
それは、アニメのスタッフは(TV放映時から)ガッチガチに「スポンサーの意向」に手足どころか全身のあらゆるところを縛られた状態で製作に臨んだんだろうな、ということ。
や、僕が特別に捻くれた見方をしているわけではないと思うんですけど、この劇場版って、
1.飛ぶ鳥を落とす勢いで人気絶頂のμ'sだけどそろそろ解散します
2.でも『ラブライブ!』というコンテンツは続いていくからファンのみんなはこれからも応援してね
上記二点を、90分かけて洗脳するかのようにファンにすり込む内容ですよね……。
ざけんな。
大人の事情があることは理解もしますし納得もしますが、そういうくだらねえことをキャラを用いて、キャラの口から言わせるゲスい手法は一片たりとも擁護できねえですよ。
μ'sに関しては、あれだけのクオリティのライブを続けていくことは難しいでしょうし、解散なり休止するのはしょうがないと思います。
ただ、映画の内容を現実にオーバーラップさせて、穂乃果や雪穂の口からあたかも「今後はラブライブサンシャインをよろしく!」というような台詞を吐かせるのは勘弁してください。
そも、劇中で穂乃果が「自分たちはスクールアイドルだからこそμ'sを頑張ってきた。スクールアイドルではなくなる以上、ここでμ'sは終わらせる」という結論に至るわけじゃないですか。
それと同様、僕は「μ'sだからこそラブライブというコンテンツがありえた。μ'sが解散なり休止するならラブライブというコンテンツ自体を諦めろ」と言ってやりたいです。ゼニゲバ共に。
いやねー、これで劇場版がアニメとして非常に良い出来だったら支持したかもしれませんが、明らかに〝他の意図〟を重視した結果、ちっとも楽しめない内容だったわけですからねー。
本当に酷い作品でした。楽曲のクオリティだけは飛び抜けて高いので、色々と残念です。
まぁラブライブには熱心なファン()が多いので今後もきっと稼ぎ頭として頑張ってくれるでしょう。
僕は一抜けです。サラバ!
[劇場版『THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!』公式サイト]
http://www.idolmaster-anime.jp/
取り急ぎ見てきました。
まず大前提として満足できた、ということを述べておきます。映画を見るためには、劇場に足を運び、お金を払わないといけないわけですが、「時間の無駄」でも「お金の無駄」でもありませんでした。劇場版『アイマス』は、お金を払って見る価値のある作品でした。
たしかに、問題がないわけではありません。
僕はアニメ版『アイマス』の展開が不愉快で、2クール目の途中で視聴をやめてしまうくらい、思い入れの〝ない〟ユーザーなんですけど、劇場版『アイマス』の脚本は、こと「お寒いシリアス展開」という点においてアニメ版とまったく同じ問題を抱えています。
また、ここぞの場面ではさすがのクオリティでしたが、カメラが遠くなるところなどは作画の荒さが目につき、昨今の綺麗なアニメを見慣れたユーザーとしては、劇場版のフィルムに期待したほどの美しさは見られませんでした。
ただまあ、それを補って余りある、というのが『THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!』という作品だったと思います。
なんかエネルギーを感じるんですよね。これはスタッフさんの作品への思い入れ、と言い換えてもいいかもしれませんが。こういう作品に対しては、あれこれ文句をつけるのは無粋ってもんでしょう。
つーわけで、以下雑感をつらつらと。
・エンディングロールの一枚絵で出てきたしぶりんが可愛すぎて震えた。ホント、どのアイドルより美しかったよ!
・いきなり本編と関係ないことを書いてしまったが、内容に関しては満足。特に最初の映画予告(作中劇)は圧巻。アレで完全に掴まれたっつーか、他の人も同じことを感じたと思うけど、あの映画そのまま見てみたい。むしろアレを見たい。
・合宿までの流れにはケチをつけるところが一つも見当たらない。成長した765アイドルたちの姿は、彼女たちをプロデュースしてきたユーザーにとっては感無量だろう。残念ながら僕はゲーム未プレイなので、そういう感慨は味わえなかったが、にも関わらず「ここは成長を見守ってきた人たち嬉しいだろうなあ」と感じ取れるのは掛け値無しにスゴイ。
・ライブシーン(?)の中では合宿締めのごまえーが一番よかった。テンション上がった。
・アニメ2クールを経て成長した765メンバーだけでは、おそらく何の障害もなしにライブを大成功させてしまっただろうし、そこで新人たちを「足を引っ張る役」として持ってくるのは構造的にも納得できる作りではあるとは思った。
・そんなわけで、上にも書いたように敢えてシナリオにケチをつけようとは思わないのだが、練習に出てこなくなった可奈を迎えにいくシーンは、一歩引いて眺めるとなかなかエグイ。あれってクラス委員長(春香)が登校拒否してる子(可奈)をクラスメイト全員(他メンバー)で迎えに行くという構図なわけで、無茶するとかえって引き籠もりを押し進めてしまうんじゃないかとヒヤヒヤした。橋の上で挟み撃ちにしたところでは、川に飛び込むんじゃないかとヒヤヒヤ。
・ていうか、メールでうだうだせず、すぐに電話かけたり家まで行ってみたりしてもよかったよねアレ。ライブを絶対に成功させたいという想いと、練習期間にさほど余裕がないという現実を合わせて考えたとき、「何故彼女たちはもっと早く可奈に働きかけなかったのか」という部分へのエクスキューズは最低限用意すべきだったと思う。(脚本への)期待値はそれほど高くなかっただろうし、あそこにさえ説得力を持たせられれば、シナリオも絶賛されたんじゃないかなー。
つーわけで、楽しい映画でしたということで一つ。
ただまあ、中盤に可奈が練習に出てこなくなってからの展開がダレる&長いので、もう一度見たくはないですね(´ω`)
[映画「おおかみこどもの雨と雪」]
http://www.ookamikodomo.jp/index.html
観てきましたー(^q^)ノ
意味のない比較ではありますが、個人的には『時かけ』、『サマウォ』より好きです。細田作品は劇場で観ると中だるみしてしまう印象がありましたけど、今回の『おおかみこども』は二時間の間スクリーンに釘付けになりました。
いや、コレすっごい話題作になる可能性あるんじゃないでしょうか。過去二作に比べると各所で大きく取り上げられていますし、なんていうかオタクではない、いわゆる一般層にまで一気に広がりそうなポテンシャルを感じます。
とはいえ、なんかもー、わっかりやすいくらい「子育てしてる層」、「子育てした層」にターゲットを絞っているので、中高生あたりまではあまり楽しめない気はしますけどねー。むしろ子作りや授乳シーンなどで気まずくなってしまうんじゃないかなー(『EVA』劇場版を部活の打ち上げで観に行った男の真に迫った感想)。
以下雑感。
■声の演技にビックリ(もちろん良い意味で)
主役の母親・花の声を宮崎あおいさん、その旦那の狼男を大沢たかおさんが演じているということで、初見のイメージは「あーあ、まーたジブリみたいに下手くそな棒読み聞かされるのか」というものだったのに、正直、完全に裏切られました。
いやあ、先日地上波で放映された『サマーウォーズ』の先輩の声は相変わらず聞くに耐えないと感じた僕ですけど、今回のキャストは間違いなく〝アリ〟です。特に幼児期の雨と雪の声を当てた子役の二人はピッタリはまりすぎていて、劇場のスクリーンの中でちょこまかと動く〝おおかみこども〟をまったく違和感なく、微笑ましく観ることができました。ここだけの話、チョイ役で林原さんが出演してましたけど、「演技過剰な」声優さんの演技のほうがかえって浮いてるように感じちゃいましたからねー。
かつて、声優の小野坂昌也さんがラジオで「下手くそな俳優が声優の仕事を取るな」みたいなことをおっしゃってましたが、このままだとヘタすると仕事奪われっぱなしになるんじゃなかろうか。最近の若手の声優さんのほうがよっぽど下手ですしね……(´・ω・)
■ストーリーラインそのものは簡素かつ凡庸
といっても悪い意味ではなく、『おおかみこども』の物語は、
・大学に通うチョイ苦学生の花が狼男と付き合い始め妊娠&出産
・二人目の子が生まれた直後に旦那が亡くなる
・花は一人で育てていくことを決意するが都会ではしがらみが多く苦労ばかり
・花「この子たちが狼と人間、どちらも選べるように田舎で暮らそう」と一念発起
・田舎の人たちと交流しつつ、子供二人はスクスクと成長
・姉の雪が小学校六年のころ、雪は人として、雨は狼として生きていくことを決める
ザックリまとめるとこんな感じで、言うなれば「十数年に渡る母子家庭の人間ドラマに狼男というエッセンスを加えて二時間に凝縮した」みたいな内容でした。導入で父親が亡くなる他は悲劇的な〝事件〟が起きたりもせず、ストーリーラインをなぞるだけだと、それほど起伏の感じられない物語です。
ただ、だからこそ、この内容を(二時間の間)退屈させずに提供できたのがスゴイんじゃないかなと。ジブリでいうと『トトロ』がこんな感じでしたけど、こういうのって本当に面白くないと絶対に途中でダレますので。
意地の悪い見方をするとかなりご都合主義というか、花があまりにも母親として完成されすぎていて、あの子育ての最中ですら一度も弱音を吐かないのはメンタル強すぎる気がしますけどね。まあ、現時点のプロットで中身がパンパンに詰まっているので、この上さらに「花の苦悩」みたいなものを詰め込む余裕がなかったというのは理解できますし、あまりウジウジされても観ていてつまらないので、花をある種超人じみた母親にしたのは英断だったと思います。ハイ。
■韮崎じいさんと草平がイケメンすぎてヤベェ
ぶっちゃけ韮崎じいさんは初登場時から、「うわああ、ツンデレくせええ」みたいな雰囲気があったので予想の範疇でしたけど、草平の男前ぶりには完全にヤられました。林原さん演じる母親がモンペ→ネグレクトというダメ親ぶりを見せつけてくれただけに、「あの親からこんな子供が!」と驚く視聴者は多いと思います。
や、僕、ぶっちゃけ雨の独り立ちに関しては、描写不足かつ独自の価値観(山に主がいないといけない、というような)が出てきたせいで感情移入できない部分があったので、終盤は人として生きていくことを決めた雪の行く末のほうに着目して観ていたんですよ。なので、揺らめくカーテンの向こうで告白した雪を、完膚無きまでに受け止め、受け容れた草平のことを、なにこいつマジでカッケェと思ってしまいました。
このへん、作品のナレーションを担当しているのが雪ってことで、視聴者も雪視点で物語を眺めるのがオーソドックスな見方のような気がしますが、どのキャラクターを主体にするかによって、わりと読後感(?)が変わってきそうな作品ではありますよね。最終的にわかり合えた描写があるとはいえ、「まだなにもしてあげられてない!」と叫ぶ花は悲痛すぎるし、そんな花を一瞥して去っていく雨の心境はよくわからないもんなあ。
つーか、韮崎のじいさんは菅原文太そのまんまやーん!
■映像の演出にところどころ感心
過去二作に比べると、映像面でも色々と凝っていたような気が。『サマウォ』のOZも十分すごかったですが、アレとはまた違ったリアル寄りの映像演出がすげー見応えありました。
特に印象に残っているのは、雪と雨が小学校に入学してから成長していく様子を表現するときに用いられた、画面が右から左にパンしていく演出。わずか数分にすぎないシーンなのに、雪と雨がどのように小学校生活を送っていたかっていうのが手に取るように伝わってきたのは素晴らしいです。
こういう良演出があると、作中で描かれなかった花と子供たちの日常生活をある程度想像することができるので、二時間という短い時間であるにも関わらず、世界観やキャラ描写が薄くならずに、厚みが出てくるなーとしみじみ感じました。
あと予告にも使われていた、親子で雪の中を疾走するシーンもよかったかなと。全体を通して、「おおかみこども」であることを隠しているせいか、どこかテンション抑え目で進行する作品なだけに、腹の底で溜めていたエネルギーのようなものがあのシーンで一気に爆発したような錯覚を得ました。
つーわけで、面白い映画でしたということで一つ。
ちなみにパンフはこんな感じ。
イオン内シネマで観ると、細田監督のサイン入りポストカードをもらえるらしいです。