ブログよりも遠い場所

サブカルとサッカーの話題っぽい

【ゲーム】あなたとできなくなっちゃった

2010-01-28 | ゲーム

[ストライクウィッチーズ あなたとできること A Little Peaceful Days]
http://www.w-russell.jp/ps_strike/index.html

 延期━(∵)━・ィ・・・

  ちょうど昨日、友人と「そういえば、遠い遠いと思ってたけど、もう来月スト魔のゲーム出るんだなあ」なんてトークをしたところだったよ! ヤなタイミングだな!
 まあ、股監督のスケジュール的にこうなるんじゃないかなと思ってました!
 だから平気。ホントに平気だっつーの。

 そう。
 お姉ちゃんがカワイイから寂しくないんだ。

 しゅわーしゅわー。
 しゅわーしゅわー。

 誰か才能のある人、☆三つのOPでスト魔の手書きMAD作ってくれないかな。


【ラノベ】ゼロの使い魔18

2010-01-28 | ライトノベル

ゼロの使い魔 18 滅亡の精霊石 (MF文庫J) ゼロの使い魔 18 滅亡の精霊石 (MF文庫J)
価格:¥ 609(税込)
発売日:2010-01-31

 読了。

 内容的には、全体の2/3を使って17巻までに広げた風呂敷を畳み、残りの1/3で今後に向けての振りをした感じ。いわば"繋ぎ"の一冊という感が強く、この作品の大きなウリであるキャラ同士のかけ合いが少なかったので全く印象に残らないエピソードでした。
 や、なんつーか驚愕としか言い表せない18巻でしたね。まさかまさか、あんなに長々と、意味ありげに引っ張った教皇とジュリオの暗躍と和解が、ここまでアッサリ片付くとは。さすがにコレは予想できませんでした。
 ……でもまあ、ガリアの王(もう名前覚えてねえ)もしょっぼい死に方だったし、こと"問題解決"という部分で、この作品にカタルシスを求めてはいけないってことなんだろう。うん。それが再確認できたのはよかった。
 もっとも今後、教皇とジュリオが更に何か企てている可能性もゼロではありませんが、一番の懸念だったタバサの入れ替わりまで一瞬で解決してしまったので、その線は薄そう。
 しかもここまでの一連の展開って、タバサにとっては半ば足かせだった王女の身分を捨てることもできて、サイトたちと行動することができるようになって、全てが都合の良い方に転がりましたし。コレがホントのご都合主義ってやつなんやな。

 今後に向けての振りに関しては、エルフ側で動きが起こったことを明示していましたけど、このへんもシリアスな展開になることはまずないんでしょう、きっと。
 ぶっちゃけ、既にキャラクターが(量的にも質的にも)飽和していて、一人一人の動きを追っていくだけで精一杯という感じになってる気がします。同時に、飽和しているということは変化がないということでもあって、さすがにサイト周辺のヒロインたちのいがみ合いはもう勘弁というか、だからといってそれ以外の何を見たいかと言われるとよくわからないので、そろそろ幕引きが順当に思えてきたというのが正直なところ。
 いっそ『ゼロの使い魔』は20巻くらいで終わらせちゃって、ビフォアストーリーの『烈風の騎士姫』に注力して頂きたいなという希望を述べておきますよということで一つ。


【SS】独占【許可】法のススメ

2010-01-28 | インポート

 十二月三日。
 今日はカレンダーの日で、奇術の日で、白いハトの記念日で、ミルファの誕生日で、そのうち俺に直接関係あるのは最後のひとつだけだった。ミルファはメイドロボなのだから、本来は製造日という方が適切なのかもしれないが、ヒトと変わらない心を持つミルファたちが生まれた日なのだから、それはやはり製造日ではなく誕生日といった方がしっくりくる。
 そして、誕生日は祝われるのが当たり前であり、十二月四日に生まれたシルファが『二日続けてわたしたち姉妹のために集まってもらうのは申し訳ない』なんていう「良い子」の理屈を持ち出してきたので、十二月三日に二人ぶんのパーティーをして、信じられないくらいの大騒ぎをするのも当たり前のことだった。
 そういうわけで、本当に本当に本当に賑やかな一日が終わろうとしている。
 時計の短針と長針の内角は、残すところ四十五度ほど。
 気ままな大学生ならともかく、明日もお勤めのある高校生にとっては、このあたりがギリギリのタイム・リミットだ。
 楽しい時間はいつまでも続かない。
 空っぽになった大皿と、フォークと箸が散乱した小皿と、ラベルでしか中身が判別できないペットボトルと、アルコール以外のあらゆる飲み物を注いだコップを視界の端に留めながら、
「――それじゃあ、そろそろお開きにしようか」
 俺は、パーティー会場として提供した家の、かりそめの主として、宴の終わりを宣言する。

 ピン、と空気が張り詰めた。

 河野家のリビングに存在する、すべての視線が俺に集まる。
 その視線は、どれもこれも賑やかだった宴の終わりを惜しんでいて……。
「さて、みんな約束は覚えてるよね?」
「……あなたこそ、覚えてるんでしょうね? くれぐれも自分からタカ坊に襲いかかるような真似はしないでちょうだい」
「か弱い女の子にそんなことできるわけないですよ。いやだなあ、た、ま、き、様ってば」
「……乗用車と同じくらいの馬力があるくせに、どの口が『か弱い』なんて言うのかしら」
「少なくとも姉貴の口からは出ちゃいけない言葉だな」
「……雄二、あなたには姉として教育的指導を行うことにしたわ。ええ、姉としてよ? 他意はないわよ?」
「お、お姉様、それって世間では職権濫用って言いませんか……?」
 賑やかだった宴の終わりを惜しんでいて……。
「珊瑚ちゃんたちは、これからどうするの?」
「ウチと瑠璃ちゃんは、ここに泊まるんや~」
「あ、いいなあ。わたしもタカくんのうちにお泊まりしたいよ」
「春夏様にはご了承を頂いておりますので問題ないと思いますよ」
「ホントに?」
「はい、大丈夫です。それに、私がいる限り皆様にご不便はおかけしません」
「やた~!」
「……ウチは知らん。もうなにが起こっても知らん。勝手にしい」
「で、では、瑠璃様は、私と同じお布団で寝られるということで、よ、よろしいですか?」
「そういう意味やない! いいわけないやろ! この色ボケメイドロボ!」
 宴の終わりを惜しんで……いなかった。
 惜しんでしんみりするどころか、これまで以上に騒がしくなった気がする。しかも聞き間違いでなければパーティー参加者の一部が、不穏当な言葉を口にしていたような。例えば、うちに泊まるとか、うちに泊まるとか、うちに泊まるとか。
 ……俺、ここの家主だよな?
 ……家主抜きで宿泊予定を決めるとかありえないよな?
 ……確かに親父たちがいない間のかりそめにすぎないけど。
「あのさ、シルファ」
「ふっ、ふわぁいっ!?」
 ただ一人、皆の輪を外から眺めていたシルファに声をかけたら、質問を口にしたわけでも、質問に対する答えを聞いたわけでもないのに、なんとなく核心に近いっぽい反応を返してくれたわけで。
「わ、わたしなにも知りません。なにも企んだりしてません。ごめんなさいごめんなさい」
 身の潔白を示しながら謝罪するという、とんでもなく矛盾した行為を披露してくれたおかげで、さすがの俺でも嫌な予感というやつが首をもたげてくる。
 しかし、まあ、
「貴明っ!」
 喜色満面でこちらを振り返り、あっという間に俺の腕を絡め取り、得意気な顔で捕獲した獲物を見つめるクマ娘の喜びようから、既に手遅れだというのは嫌になるくらい分かりきっていた。ああ、クマの置物におけるシャケの気持ちって、こんな感じなんだろうな。
「あたしの誕生日はここからが本番なんだからねっ!」
 ミルファの声は、寝静まろうとしているご近所に、はた迷惑にも高らかに響き渡った。


独占【許可】法のススメ


 なんとなくおかしな気はしていた。
 二週間ほど前、イルファさんにさりげなく欲しいものがないか訊ねたとき、隣で聞き耳を立てていたミルファに『あたしの誕生日にはプレゼントいらないから絶対絶対なんにも用意しないでね』ときつく言い含められていたのだ。
 あのときは、さりげなく聞き出そうとしてる俺の努力を無駄にしやがってとか、そもそもおまえには聞いてないとか、いくらクマでも少しくらいは空気を読むべきだとか、そんなことばかり考えていたので思い至らなかったのだが……というか、イルファさんには最初からバレバレで『あまり無理はなさらないでくださいね』なんて逆に懐の心配をされてしまうあたり、さりげなく聞き出すなどというレベルの話ではなかったのだが。
 とにかく、ミルファのたっての希望で誕生日プレゼントを用意"しない"で十二月三日を迎えたのが二十二時間ほど前の話。そして、
「――俺の時間をプレゼント代わりにもらうことにした?」
 ことの経緯を聞き始めたのが、数分前の話。
 ミルファは、うきうきした手つきでマンションのオートロックを解除しながら、意気揚々と頷く。
「うん、そうだよ。まあ貴明の時間っていうか貴明自身をもらったんだけどね。だから、あたしの誕生日の間は、あたしが貴明を独占できるの」
 ……俺の保有権って俺が持ってるわけじゃなかったんだなあ……。
 ちなみに、うちから出てくるとき、俺たちには様々な意味を含んだ視線が浴びせられた。憤りが混ざっていたり、羨望が混ざっていたり、にこにこしているだけで普段とまったく変わらなかったりする視線は、ミルファの言葉が事実だということを示していて、
「……不正談合ってこんな身近に転がってるのか」
 同時に、俺以外の全員が、俺の処遇について了承済みという忌々しい事実も示していた。
「みんなに条件を呑んでもらうの大変だったんだよ。特に環様は、夜八時を過ぎたら二人きりになるのは許さないとか、男女七歳にして同衾せずとか、あれこれうるさかったんだから」
 そして、そのタマ姉が認めた妥協案が、「十二月三日の二十四時間のうち、パーティーが終わってから十二月四日になるまでの間」という、時と場合によってはゼロになる時間の譲渡だったらしい。今更という感じがしないでもないが、タマ姉は最後に残された倫理観の砦として立ちふさがってくれているようだ。
「年を取るとホント口うるさくなるから嫌だよね」
「そりゃあ生後一年のおまえから見れば、俺たちは歳食ってるように見えるだろうけどさ」
「えへへ、年の差カップルってやつ?」
 いや、そこで無邪気に喜ばれましても。
 どんなマイナス要素であっても、特定個人に限ってプラス方向に捉えるのは、その特定個人にとっては嬉しいやら気恥ずかしいやら。
「とにかく、これから日が変わるまでは、ずっと二人きりだからねっ」
 自動ドアをくぐりエレベーターに乗ったところで、ミルファが思いきり腕を絡めてきた。
 ミルファの普段着は特に布地が薄いわけでも、胸を強調するデザインになっているわけでもないのに、肘から二の腕あたりが柔らかな感触に包まれる。
 やはりデカイ、などという身も蓋もない感想をもらす脳みそに活を入れ、空いた方の手でエレベーターのスイッチを押すよう命令を下す。エレベーターのドアが音もなく閉まり、エレベーターが音もなく上昇を始める。
「……あれ? 無反応?」
 ミルファは意外そうに首を傾げ、涼し"そうな"顔をした俺を下から覗きこんでくる。人は環境に順応していく生き物であって、いつまでも脂肪のカタマリに翻弄されていては、人として、男として成長できないのだ。
「おっかしいなあ、えい、えい」
「そうやって押しつけることで俺にどんな反応を期待してるのかは、敢えて聞かないでおく」
「初めのころはちょっとくっつくだけで真っ赤になってたのに、もうあたしのおっぱい飽きちゃった?」
「聞いてないんだから言うなよ!? あと飽きるのと慣れるのは似てるけど違うから!」
 エレベーターが音もなく停止し、ドアが開くのと同時に、ミルファはにんまりと口元を緩める。
「それってつまり飽きてないってことだよね」
「慣れたってことだ」
「そっか、そっかー」
 ミルファは静まり返った廊下を、スキップのような足取りで進んでいく。腕を絡めたままなので、歩きにくくて仕方がない。
「……にしても、随分と回りくどいことをしたもんだなあ」
「そう?」
 ここで聞き返してくるというのは、つまりこいつには自覚がないということなんだろうか。
 俺のよく知るミルファは、「あたしの誕生日なんだから貴明は当然あたしと一日中一緒にいること」くらいの傍若無人っぷりを発揮し、タマ姉あたりの了承をもぎ取るなんて回りくどい真似はしないはずなんだけど。……って、自分で想像するとむなしいな、これ。
 ミルファは俺の言葉に、少しだけ考え込む素振りを見せ、
「だって、みんながあたしたちのお祝いをしてくれるっていうんだから、その気持ちは大切にしないといけないでしょ。貴明が一番大切なのはもちろんだけど、今日のパーティーだってすごく楽しかったし。……貴明?」
「……あ、わ、悪い」
「もう、ちゃんと聞いてた?」
「うん、まあ、その」
 確かに聞いてはいたが、あまりの不意打ちに放心状態になってしまった。娘の成長を目の当たりにした父親って、こういう心境かもしれない。あのミルファが自分よりも他人の気持ちを尊重するなんて今世紀最初の驚きだ。
「だ、だけどさ、だったら、今日は最後までみんなと一緒でもよかったんじゃないか?」
 思いも寄らなかったことを聞かされて焦ったのか、それとも単なる照れ隠しなのか、自分でもよく分からないもやもやしたものが、玉虫色の台詞として口から漏れた。
「……あたしの言ったこと、前半しか聞いてなかったの?」
 ミルファは絡めていた腕をほどくと、早足で数歩先へと足を進め、
「あたしは貴明のことが一番すきすきすき~で、貴明一筋なの。瑠璃様をお慕いしてますけど旦那様にするなら貴明さんでとか、お母さんのこともお父さんのことも大好きですとか、そういう二股みたいなことはしないの」
 妙に具体的な例え話を用いながらも、恥ずかしいことを恥ずかしげもなく言ってのける。
「だから、"今日"はずっと貴明と二人きりでいられるのが嬉しいんだよ」
 部屋のドアの前でくるりとこちらを振り向いたミルファは、見ているこっちが嬉しくなってしまうくらい無邪気な笑顔を浮かべていた。

*****

「あっ……そっちはダメ……」
「なに言ってんだよ。そんなの聞けるわけないだろ」
「あっ、あっ、ダメ……抜いちゃイヤぁ……」
「あのな……」
「ね……貴明……お願いだからそっちはやめて……」
「……おい」
「お願いだからこっちで我慢して……ね?」
「……分かっててやってるんだよな?」
「……なにが?」
「今、俺たちがなにをやってるか言ってみろ」
「……ババ抜き?」
「疑問符をつけるな! それで合ってるから!」
 暖房のきいた姫百合家のリビング。
 俺とミルファは、珊瑚ちゃんの私物のトランプを使って絶賛ババ抜き中。このうえなく健全な遊びをしているはずなのに、健全とはほど遠いことをしている気がしたのは、文字通り気のせいだと思うことにしよう。
 俺は差し出された二枚のカードのうち、不自然に突き出た方を無視して、もう一枚の方を引っこ抜くと、
「はい、あがり。これで俺の十七連勝な」
 手元に残っていたダイヤのエースと揃えて、カードの山に放り投げる。
「……抜いたらイヤって言ったのに」
 不満げに俺とジョーカーを見比べるミルファは、とんでもなくババ抜きが弱かった。ポーカーフェイスが苦手というか、メイドロボなのに人間よりも表情豊かというのは感心すべき点のはずなのだが、ことトランプの勝負においては優位に働かなかったらしい。
「どうする? もう一回やる?」
 ミルファは意外にも勝ち負けにはこだわっていないようで、けろっとした様子で次の勝負を持ちかけてくる。
「んー……そうだなあ、さすがにそろそろ飽きてきたな」
 壁にかけられた時計を見上げると、既に日付が変わるまで三十分を切っていた。
 飽きるのも当たり前だ。トランプをぶっ続けで一時間以上やったのなんて、修学旅行のとき以来じゃなかろうか。単純なゲームほど時間を忘れてのめりこむのは世の常だが、この時間に女の子と二人きりでトランプに没頭するというのは、限りなくレアな状況だと思う。
「それなら他のことして遊ぶ? それとも少し休憩する? 喉かわいてない? なにか飲み物持ってこよっか」
「……じゃあ、麦茶もらおうかな」
「かしこまりました、ご主人様」
 笑みの混ざった声で茶化して言うと、ミルファはそそくさと立ち上がり、キッチンに姿を消した。
 別におかしなところはないのに、違和感のあるやり取り。
「……んー……んー?」
 首を左右に捻るのに合わせて、無意識のうめきが漏れる。
 おかしい。
 穏やかすぎる。
 そう、妙に穏やかなのだ。
 ミルファと二人きりというシチュエーションに似つかわしくない穏やかさが、逆に不安をかき立てるというか、嵐の前の静けさを彷彿とさせて気味が悪い。タマ姉を"説得"してまで俺と二人になろうとしたワリに、なにも行動を起こさないという不自然さも感じるし、マンションの外で良い雰囲気になったから拍子抜けしたというのもある。
 いや、拍子抜けっていうとなにか起こるのを期待してるから違うのか。……違うよな?
「……はあ」
 ため息。
 軽い自己嫌悪に陥る。俺はなにを考えているのか。
 それこそマンションの外で思い知らされたではないか。
 ミルファは、純粋に俺と共に誕生日を過ごしたいと思っているだけだ。たったの百二十分間を俺と二人きりで過ごすために、らしくもない回りくどい手段まで用いたのだ。
 それに、ミルファは俺のことだけを考えていたわけではない。誕生日パーティーを開いてくれたみんなにきちんと感謝して、そのうえで俺を一番大切だと言ってくれたのだ。
 正直、嬉しかった。
 いつもみたいに直接的に好意をぶつけられるのが嫌だったわけではないが、こういうのは腹の底にずしりとくる。自分で考えている以上に深く想われているのは、ほんの少しだけ照れくさくて、くすぐったくて、すごく嬉しい。
「お待たせ」
 コップを片手に、ミルファがキッチンから戻ってくる。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう」
 どうしてか正面からミルファを見ることができず、視線をそらしたまま、冷えたコップを受け取った。
 暖房がききすぎているわけでもないのに、身体が火照っている。
 俺は顔の赤みを消そうと、冷たい麦茶を一気に――
「……ん?」
 一気に……。
「ど、どうしたの? 飲まないの?」
「……なあ、ミルファ」
「な、なに?」
「俺の目がおかしくなったんじゃなければ、この麦茶、コップの三分の一くらい白い泡がたってるんだが」
「……最近の麦茶は、泡がたつんだね?」
 何故に疑問系。
 汗をかいたコップの中身は、どんなに目をこらしてみても麦茶には見えない。ぶっちゃけると、かなり未成年者にはよろしくない類の飲み物で間違いなかった。
「ほら、なんていうか、その……麦つながり?」
「これは麦しか共通項がないって言うんだよ! こんなアルコール臭い麦茶があってたまるか!」
 なんだなんだ、どうしたんだ。
 ミルファは、少し前までは穏やかすぎて不安になるくらいだったのに、今度は反対に挙動不審になっている。こっちの方が普段のミルファっぽいのは確かだが、あまりのギャップについていけなかった。
「なにか企んでるのか」
 九割方断定している質問というのは、もはや質問の体をとった追求でしかない。
 ミルファは俺の正面で、空中に視線を泳がせ、口元を引きつらせていたが、
「……う、ぐすっ、貴明はあたしのこと疑うんだね……ぅ……ひどいよ……」
 ぺたんと床に尻もちをつくと、両手で顔を覆い、めそめそと涙を流し始める。
「え? あ? ちょ、な、泣くなよ、ミルファ」
 女の涙は最大の武器。
 というわけで、反射的にみっともなく取り乱してはみたものの、
「――って、おまえ、涙流せたっけ」
 俺の記憶が確かなら、HMX-17シリーズにそんな機能はついていないはずで、タイミングよくミルファの手から目薬の蓋が落ちる。
「ちっ」
 今、舌打ちしませんでしたか、このクマ娘。
「おい……おまえ、ホントになにを企んで――」
「だってしょうがないじゃない! いくら貴明でも二時間近く二人きりでいたらムラムラして襲いかかってくると思ったんだもん! それなのに貴明が手を出してこないからいけないんでしょ!」
 更なる追求は、大いなる逆ギレによって阻まれた。
「……襲いかからないとか手を出さないとか、一体なんの話をしてるんだよ」
「環様が貴明の意思を尊重しろって言うんだもん! お酒の力を借りても貴明の方から迫ってくるならOKなの!」
 ミルファの理屈はまったくワケが分からないが、記憶の糸をたぐり寄せるとパーティーが終わったときタマ姉がなにか言ってたような。確か『……あなたこそ、覚えてるんでしょうね? くれぐれも自分からタカ坊に襲いかかるような真似はしないでちょうだい』とかなんとか。
 つまりこれはあれか。限られた時間だけミルファに二人きりになるのを承諾したタマ姉は、同時に俺の方から言い寄った場合に限って"異性交遊"を認めたということか。
 ……これって信用されてるってことなのかなあ……。
 ……どう考えても微妙だよなあ……。
 呆気に取られてぽかんとしていると、ミルファが必死の形相で詰め寄ってきて、
「もう時間がないよ! ……そうだ! 貴明、あたしに寝技をかけて!」
「……いちおう聞くけど、どうして寝技なんだ?」
「一旦技が極まれば、制限時間を過ぎても決着がつくまで延長できるから!」
 ミルファとタマ姉の間の取り決めには、柔道の国際ルールも適用されていたのだろうか。
 というか、こいつは俺にどんな技をかけろと言うのか。
 ミルファの肩越しに壁かけ時計を見ると、確かに日が変わるまでは間がない。もう一、二分しか残されていないだろう。
「あっ、あっ、あっ、分かった! それなら、襲いかかられるのも、寝技も諦めるから、あたしに思い出をちょうだい?」
 ミルファは、焦りでおぼつかない手先を懐に突っ込み、なにやら仰々しい紙切れを取り出すと、
「ね? ね? いいでしょ、貴明。一生のお願い」
 俺にすがりつきながら、甘い声を出して懇願する。
 が、「夫になる人」欄以外のすべてが埋められた婚姻届は、学生の身には余る代物であることは間違いなく、確かに一生もののお願いであることも間違いなく、
「そんな『きせいじじつ』ってふりがなが付く『思い出』なんかやれるか!」
「えぇ~……そんなぁ~……」
 ミルファの落胆の声と、インターホンのチャイムが重なり、長いようで短かったようでやっぱり長かった十二月三日は終わりを告げた。

*****

「随分と楽しい"誕生日プレゼント"だったみたいね。ミルファの様子を見るに」
 マンションの玄関口には、タマ姉をはじめ、パーティーの参加者が勢揃いしていた。
 通路にしゃがみ込んで、人差し指で八の字を書き続けるミルファを見て、タマ姉はにやにやと意地の悪い笑みを浮かべている。さりげなくこちらに目配せしてくるあたり、すべて分かってるってことなんだろうな、きっと。
「ま、貴明のヘタレっぷりが再確認できたところで、今日はホントにお開きだな」
 タマ姉とそっくりの表情で、雄二が一同を見渡す。
 視線を追うと、このみと珊瑚ちゃんは半分夢の中にいるようで、それぞれイルファさんと瑠璃ちゃんに支えられていた。
「ていうか、なにもみんなでこなくてもよかったんじゃないか?」
「ばーか、これも誕生日パーティーの一部みたいなもんじゃねーか。だったら全員で参加するのが筋ってもんだろ」
 こいつが言うと納得いかないような気もするが、今回に限ってはその通りであるようにも思える。まあ、主役の一人がふて腐れているのは少し想定外だが、おめでたい日の締めくくりを揃って迎えるというのはそれほど悪くない。
 そういえば、もう一人の主役の姿が、さっきから見えないんだけど――
「それじゃあ、みんな気をつけて、」

「、――え?」

 バタン。
 帰るのよ、と続けられるはずだったタマ姉の台詞が、無機質な音で遮断される。
 カチャリ。
 先ほどとは違う無機質な音が、鉄の扉と、俺の思考に鍵をかける。

 一瞬、本当に自分の置かれた状況が分からなくなった。
 あまりにも意外な出来事が起こると、人間の脳はフリーズしてしまうらしい。
 みんなが勢揃いしていた俺の視界は、いつの間にか鉄の扉で遮られていて、
「そ、その……ごめんなさい、ごめんなさい」
 俺の左腕は、今日という日の、もう一人の主役に握り締められていた。
 ドアの外側からは、なにも聞こえてこない。
 防音がしっかりしているというのもあるし、みんなが俺と同じように思考停止しているというのも考えられる。
 ドアの内側には、二人だけが残されている。
 ワケも分からず立ちつくす俺と、申し訳なさそうに俯きながら、それでもしっかりと袖口を掴んで離さない女の子。
 数分前までミルファと二人でいた場所に、数分後の今、シルファと二人で"取り残されて"いる。
「わっ、わた、わたしっ、こんなことしちゃいけないってホントは分かってるんですけど、あの、やっぱりミルファお姉ちゃんが羨ましくて、その」
 しどろもどろになりながら、なんとか自分の意思を伝えようとするシルファを見つめていたら、ゆっくりとゆっくりと思考が溶けてきた。
 そう、さっきは「今日という日の、もう一人の主役」なんて考えていたが、それは大間違いだ。今は既に、十二月三日ではない。午前零時を回った時点で、日が変わって十二月四日になっている。
 つまり、
「わ、わたしもお姉ちゃんと同じプレゼントをもらってもいいですか? ……おとーさん?」
 今日はシルファの誕生日であり、今日という日の主役は、この子一人しかいないのだった。
「ちょっ、ちょっと待ちなさい! シルファまでこんなことになるなんて聞いてないわよ!」
「シールーファー! あたしは二時間だけで我慢したのに、一日丸々もらっちゃうなんてずーるーいーよー!」
 扉の外で、時間が動き始める。
「ああ――やっぱり、姉妹なんだなあ」
 呟く声は、自分でも意外なほどさっぱりしていた。
 ――――遠い、外界の喧噪。
 黄金の草原にも似た、シルファの髪の毛を見つめ、俺は悟りの境地に達した。


END


【SS】Trouble Chocolate

2010-01-28 | インポート

 とあるマンションの一室に、三人の少女の姿があった。
 一人目は、青い髪に茶色の瞳を持つ少女。鼻歌を歌いながら、キッチンで洗い物をしている。
 二人目は、金髪の三つ編みを垂らし翡翠色の目をした少女。リビングに敷かれたカーペットの上に正座をして、丁寧な手つきで洗濯物をたたんでいる。
 そして、三人目はシャギーの入った赤毛の少女。リビングの中央で膝を抱えて座る彼女は、家事をする二人をぼんやりと眺めている。瑠璃色の瞳は焦点が合っていないのか、ともすればうつろな目つきにも見えた。
 それぞれが個性的な外見の少女たちだったが、三人には共通していることが二つある。
 特徴的な服装と、耳についた飾りだ。
 服は前面にエプロンを備え付けた形になっているミニスカートのワンピース。
 耳についているのはメイドロボが着用を義務づけられているセンサーだった。
 そう、彼女たちはhmx-17の型番を持つ来栖川製のメイドロボたちであり、青い髪の子はイルファ、金髪の子はシルファ、赤毛の子はミルファと呼ばれている。
「……ねえ」
 ぽつり、とミルファが呟く。
 イルファの鼻歌が止み、洗濯物をたたむシルファの手が止まった。
「どうしました? ミルファちゃん」
 イルファがエプロンで手を拭きながらリビングに歩いてくる。僅かな足音すら立てず、淑女の振る舞いで腰を下ろす仕草が様になっている。イルファは優秀なメイドロボなのだ。
「お姉ちゃん、何か悩みでもあるの? ちょっと元気ないよ」
 シルファが気遣わしげに、ちょこんと首を傾げた。少し頼りなさそうな表情は、優しさの表れでもある。彼女は相手を思いやることのできる、心根の穏やかなメイドロボだ。
「……うん」
 ミルファは小さく頷き、顔を膝にうずめた。
 半分だけ覗く表情は、硬く、険しいものだ。
 イルファとシルファは、居住まいを正す。何か深刻な悩みがあるのだろうと直感し、できることならミルファの力になりたいと思っていた。同じ型番を持つということは、人間ならば姉妹であるのに等しい。姉妹――ひいては家族を心配するのは当然のことである、とイルファたちは考えている。
「あのね」
 ミルファは、二人の気持ちを知ってか知らずか、ゆっくりと顔をあげ、
「――貴明って、ホントにおっぱい好きなのかな?」
 彼女なりに考え抜いた深刻な悩みを口にした。
「…………」
「…………」
 イルファとシルファは無言で顔を見合わせて、同時にがくりと肩を落とす。
 何を言い出すのかと思えばそんなことか、と言わんばかりの脱力っぷりだ。
「なっ、なによ、二人とも。あたしは真剣に悩んでるんだから」
 ミルファが憮然として言うが、
「洗い物が残ってるので、済ませてきます」
「姉さんは気にならないの!?」
「興味ありません」
 イルファはため息と共に立ち上がり、さっさとキッチンに向かおうとする。
「それじゃあシルファは!? 気になるよね!?」
「え、わ、わたし? わたしは……、うーん、どっちかっていうと気にならないかな……?」
 それはすごく控え目な返答だったが、控え目なシルファが言った場合、まったく気にならないという返事に他ならない。
 ミルファはイルファの足にしがみついて、
「だって変だよ! 珊瑚様は貴明がおっぱい好きだって言ってたのに、全然そんなことなさそうなんだもん!」
「どうしてそんな風に思うんですか」
「だって、だって、貴明が勉強してるときとか、頭の上にこうやって乗せたりしてるのに、何も反応しないんだもん!」
 両手で胸を寄せるミルファを脇で見ていたシルファの口元が引きつる。いつの間にそんなことをしてたんだろうと思うと同時に、そのときの貴明がとんでもなく不憫に思えた。
「なんで貴明って、いきなりがばっと鷲掴みにしたり、押し倒してきたりしないんだろ……」
 そんなことをしたら単なる危ないやつというか、犯罪者というか、たぶん補導される。
「お、お姉ちゃん、あんまり無茶なこと言ったらダメだよ」
「……考えてみるとおかしいよね。姉さんとシルファだけじゃなくて、珊瑚様も瑠璃様もおっぱい小さいし……」
 シルファの言葉を無視して、またしても考え込むミルファだったが、声に出した台詞がまずかった。
 イルファの頬が、ぴくりと動く。
 ちょっとだけ、かちんときたのである。
「珊瑚様が嘘つくはずないから……、ひょっとして小さいおっぱいに囲まれてるうちに貴明の好みが変わっちゃったのかな……」
 小さい小さい言うな、とイルファは思った。確かにこの三人の中で、ミルファは一番バストのサイズが大きい。開発部の人間に、わざわざ大きくしてくれと頼み込んだのだから大きくて当然だった。
 イルファは、それが後発者の利益だというのは理解していたが、なんというかメイドロボ云々以前に、女性としてのアイデンティティーが揺るがされたような気分になった。
 こういうときのイルファは恐ろしい。
「……ミルファちゃん? 貴明さんの好みを確かめたいんですよね?」
「う、うん。そうだけど、どうすればいいのか分からなくて……」
 その内容はともかく、本気で悩んでいるミルファには、イルファの瞳の奥に怪しい光が宿っているのに気付かない。
「それなら、いい方法があります」
「ホント!?」
 勢いよく立ち上がったミルファに優しげな視線を送りながら、イルファは穏やかな表情で頷き、
「ちょうどバレンタインも近いですし、珊瑚様たちにも協力して頂きましょう」
 がっしりと手を握り合った二人を眺めるシルファだけが、不幸な未来が確定した貴明に祈りを捧げていた。


Trouble Chocolate


「……なんだか、久しぶりだな」
 しんとした室内で一人呟く。
 一人。
 自分の家で、一人。
 両親が海外に行ってしまっているのだから、それは当たり前のことなのに、俺にとっては当たり前ではなかった。珊瑚ちゃんたちと出会ってからというもの、毎日が賑やかすぎるくらいに賑やかで、息をつく暇がない。
 休日には決めごとのように姫百合家にお邪魔する。平日はイルファさんかミルファがうちにやってくる。シルファや瑠璃ちゃん、珊瑚ちゃんがくることもあって、一人になる時間の方が少ないくらいだった。
 それが、今日は一人。
 珊瑚ちゃんたちは用事があるとかで、学校を休んでいた。帰りにマンションに寄ってみたら留守だったので、どうやら今日は会えずじまいになりそうだ。
 まあ、たまにはこういうのも悪くはない。いくら珊瑚ちゃんたちが大切な存在であっても、一人になる時間は必要不可欠なものだと思う。寂しいのは否定しないが、出会ってからの半年間、四六時中共に過ごせば気疲れするときだってある。
 ただ、
「……よりによって今日ってのもなあ」
 少し複雑な気分だった。
 今日の日付は二月十四日。
 つまり、全世界的にバレンタインデーだったりする。
 ソファに放り投げたカバンの中には、三つの包みが入っていた。このみとタマ姉と、あとは春夏さんに貰ったチョコレートの包みだ。
 去年までは二つだったので、今年はタマ姉の分が一つ増えた。
 ありがたい。
 ありがたいが、少しだけ物足りない。さもしい考えだと分かっていても、やっぱり珊瑚ちゃんたちからもチョコを貰えたらよかったのになあ欲しかったなあ、とか思ってしまう。人の欲望は止まるところを知らない、なんて言葉が思い浮かんで苦笑した。
 がらんとした家は肌寒い。
 せめて部屋を暖かくしようと、ファンヒーターのスイッチに手を伸ばし、
「お」
 電源を入れたと同時に、呼び鈴のチャイムが鳴った。
「……タイミングぴったり、っと」
 知れず独り言が口をつくのに虚しさを覚えながら玄関に向かう。
「どちらさまですか――」
 サンダルを履いてドアノブを回す。
 ゆっくりとドアが開き、
「あ、あの、こんばんは」
 そこに立っていたのは、金髪の三つ編みが可愛らしい女の子。
 シルファだった。

▽▽▽▽▽

 河野家から十メートルほど離れた場所に、キャンピングカーが止まっている。
 キャンピングカーにはところ狭しと怪しげな機材が詰め込まれていて、その中にあるモニタを珊瑚と瑠璃、そしてイルファとミルファが肩を寄せ合いながら凝視していた。モニタの脇に備え付けられたスピーカーから音声が聞こえてくる。
『一人できたの?』
『は、はい。お母さんたちも、あとからくるって言ってました』
『用事はもう終わったんだ?』
『そ、そうです。たいした用事ではなかったので』
『そっか。どんな用事だったの?』
『え、それは……』
 モニタに映る金髪の少女が、落ち着きなく視線を彷徨わせ始めた。
 言うまでもなく、モニタには河野家の玄関の様子が映し出されている。珊瑚たちが学校を休んだのは、河野家に隠しカメラとマイクを仕込むためだったのだ。
「シルファちゃんに最初に行ってもらったのは失敗だったでしょうか?」
「しっちゃん素直やし、嘘つけんやろうな~」
「貴明、信じてるからね……!」
「……なんやねんこれ……」
 イルファが冷静に分析し、珊瑚が応える。その後ろでは、ミルファがはらはらと映像を見つめ、瑠璃がげんなりとした表情を浮かべている。三者三様ならぬ四者四様の有様だった。
『ま、とにかく上がってよ』
『お、お邪魔します……』
 貴明とシルファの姿が、玄関から消える。
「カメラを切り替えますね」
 イルファが手元の機械を操作すると、モニタの映像が切り替わる。
 次にモニタに映し出されたのは、河野家のリビングだった。
「貴明も災難やなあ……」
 瑠璃の本心からの言葉に、耳を傾ける者はいない。
 瑠璃以外の三人は、興味津々といった面持ちで、映像に釘付けになっている。

△△△△△

 ソファを勧めたら断られ、じゃあせめて座布団をと思ったらそれも断られた。
 シルファはテーブルの端で小さくなって、ちょこんと正座している。横顔に視線を感じるのは、こちらの様子を窺っているからだろう。理由は分からないが、今日のシルファはいつにも増して遠慮がちというか、妙に緊張しているように見える。
「えっと、シルファ?」
「は、はいっ!」
 ぴしっと背筋を伸ばして返事をするシルファ。
 やっぱりおかしい。
「なにかあったの?」
「なっ、ななななにもないです! 本当です!」
 指摘にめちゃくちゃ動揺するあたり、何かあったのは間違いない。
 思いのほか大きな声を出したことを気にしてか、シルファはますます小さく縮こまって黙り込んでしまった。沈黙が苦になるような間柄ではないとはいえ、なんとなくこういうのはよくないと思う。
 意を決して立ち上がる。
 テーブルの反対側に座っているシルファを驚かさないよう、怯えさせないようにゆっくりと歩み寄る。そして、
「――――あ」
 上目遣いで俺を見つめていたシルファの口から吐息が漏れた。
 俺の手が頭の上に乗せられたからだ。
「――貴明、様」
 がちがちになっていたシルファの肩から力が抜け、表情も次第に和らいでくる。柔らかな金髪の感触がくすぐったくて、自然と俺の頬も緩んでいた。
「なにか困ったこと?」
「いっ、いいえっ、そうじゃないんです。……そうじゃなくて」
 シルファは躊躇いがちに目を伏せたが、それも一瞬のこと。
「こっ、これ、わたしが作ったんです!」
 そう言って勢いよく顔をあげると、エプロンのポケットから取り出した包みを両手で差し出した。
 シルファの小さな手に乗った、小さな包み。
 薄い黄色の包装紙で、綺麗にラッピングされている。
 これは、もしかしなくても、
「……チョコ?」
「は、はい……」
 シルファは控え目に頷き、
「受け取って頂けますか、貴明様」
 見上げる顔を真っ赤に染めて、必死の形相を浮かべている。
 チョコレートを渡すだけなのにやたらと切羽詰まっているのが気になったが、こんな顔を向けられたら小さな疑問は吹き飛んでしまう。シルファは何に対しても真面目に取り組むから、きっと一生懸命にチョコを作ってくれたのだと思う。
 受け取るに決まっている。
 嬉しいに決まっていた。
「ありがとう、シルファ」
 がっつくのもみっともないので毅然と振る舞おうとしているのに、なかなか上手くいかない。にやけそうになるのを必死に堪えながら、カーペットに膝をついて目線を合わせた。
 シルファが相手だと俺も焦ったりせずに済むし、このみと同じような感覚で接することができるので助かる。まあ、このみと比べればシルファの方がしっかりしているのは間違いないが、それとは別の意味で幼さを残しているというか、ひょっとして娘ができたらこんな感じなのかもしれない。
「あ、あの……」
「ん?」
 なんてことを考えていたら、シルファは驚くべき行動に出た。

▽▽▽▽▽

『――あーん、してください』
 モニタの中で、シルファが指先を貴明の口に向けている。
 シルファの指先に、自作の丸いチョコレートが一粒つまみ上げられていた。
「――なっ、ちょ、ちょっと! なにしてるのよ!」
「騒がしいですよ」
 凄まじい剣幕のミルファとは対照的に、イルファはしれっと言い放つ。
「貴明さんの好みを調べるために必要なことです。ミルファちゃんだって納得したじゃないですか」
 果たして貴明は大きな胸が好きなのかどうか。
 それを調べるため、イルファたち三人が個々に貴明にアプローチをかけるというのが、今日の目的だった。
「そ、それはそうだけど……、あー! 食べた! あーんして食べたー!」
「貴明、しっちゃんに甘いからな~、らぶらぶや~」
 あたしだってやったことないのに、と憤慨するミルファの横で、珊瑚は春の太陽のような笑みを浮かべている。
「父性が先に立つと言いますか、シルファちゃんが相手だとなんだか逞しい感じですよね。あ、普段の貴明さんも、もちろん素敵ですけど」
「冷静に分析しないでよ! ……って、ああー! くっつきすぎ! べったりくっつきすぎだってば!」
 ミルファの言葉を示すかのように、モニタの向こうではシルファがあぐらをかいた貴明の膝の上に乗っていて、
『おいしいですか? おと~さん』
『うん、おいしい』
「ねえ! どうして貴明はあんな当たり前みたいにべたべたしてるの!? ていうか、今、お父さんとか言わなかった!? なにそれ!」
「知りませんでした? 二人きりのときは貴明さんのことをお父さんって呼んでるんですよ」
 どうして二人きりのときの話をイルファが知っているのかとか、そんなことはミルファにとってどうでもよかった。とにかく目の前で貴明がシルファとくっついているのが気に食わないのである。
「シルファちゃんって恥ずかしがり屋の反動なのか、一度タガが外れると本当にこれでもかっていうくらい貴明さんに甘えちゃうんですよね」
「そういうところは、間違いなくイルファの妹やな」
「そんなっ瑠璃様っ、誉めないでくださいっ」
「誉めとらんわっ!」
 イルファと瑠璃の漫才を尻目に、ミルファがゆっくりと立ち上がる。ミルファの赤毛が揺らめく様子が、まるで炎を背負っているように見えるのは気のせいではない。
「……あたしも行く」
「ちょっと待ってください」
 今すぐにでも河野家に駆け込もうとするミルファを、イルファが冷静に押し留めた。
「シルファちゃんの次は私ですよ?」
「そっ、そんなの知らないっ! 次はあたしが……」
「胸のサイズ順でいいって言ったのはミルファちゃんじゃないですか」
「う……」
 胸のサイズ、のあたりを強調しつつ、イルファが言う。平然としてはいるが、先日のミルファの発言を相当根に持っているのだ。
「それに、こういう対決って一番最後が有利なんですよ。ですよね、珊瑚様?」
「漫画の料理対決やと、いっつも最後のが勝つなぁ」
「ほ、ホント?」
 珊瑚の言葉だけでは信じ切れないのか、ミルファは半信半疑の視線を瑠璃に送る。
「……まあ、嘘は言うてへんかな」
 絶対ではないけど、と心の中で付け加えた瑠璃の声は、もちろんミルファには届かない。
「……じゃあ、早く行ってきて。……貴明にヘンなことしないでよね」
「それでは珊瑚様、シルファちゃんに交代の時間だと伝えておいてください」
「了解や~」
「ちょっと姉さん! 返事は! 貴明にヘンなことしないって誓いなさい!」
「ヘンなことなんてしませんから安心してください」
 ひらひらと手を振り、満面の笑みだけを残してキャンピングカーの外に出て行くイルファは、なんというかやる気満々だった。

△△△△△

 膝の上に座っていたシルファが、ぴくりと身をすくませる。
「どうかした?」
「あっ、あの、おとうさ……じゃなくて、貴明様。わたし、用事を思い出したので少し出かけてきます」
「用事?」
「は、はい。入れ替わりで、イルファお姉ちゃんがきますから」
 しどろもどろに言って立ち上がると、シルファは慌ただしくリビングを出て行った。突然の行動に見送ろうという考えすら追いつかない。廊下を駆ける音と、玄関のドアが閉まる音がして、それきり家の中はしんと静まり返る。
「なんだったんだ……?」
 首を捻ってみても分かるはずがない。やけに慌てていたが、用事が済んだからうちにきたと言っていたような。
 それに、どんな用事なのかはともかく、イルファさんが入れ替わりでやってくるというのが少しだけ気になる。
「――貴明さん」
「おわっ!?」
 いきなり名前を呼ばれて、心臓が飛び出しそうになった。
 音もなくリビングに現れたのは、まさにイルファさんその人で、
「すみません、驚かせてしまって」
「あ、いや、それはべつに構わないんだけど」
 不意打ちだったのは間違いない。
 気を抜いたところに声をかけられたせいで、腰が抜けるかと思った。
「あの、シルファは?」
「玄関ですれ違いましたよ」
 なるほど。だから玄関のドアが閉まる音が一度しか聞こえなかったのか。
 それにしたって、とたとたと廊下を歩いていたシルファとは対照的に、無音でここまでやってきたイルファさんは不可思議だ。ひょっとして最近のメイドロボは、忍びの極意とかも会得してたりするんだろうか。
「では、すぐに準備しますね」
「え……、準備って、なんの」
 そそくさとキッチンに向かったイルファさんは、肩越しに振り返って、
「チョコレートの準備です。今日は二月十四日ですから」
 当然そうであると言わんばかりの笑顔で、腕まくりをしてみせた。

▽▽▽▽▽

『チョコレートを渡す風習は、日本独自のものらしいですね』
『そうらしいね』
『もっとも、贈り物がチョコレート一色というのが珍しいだけで、バレンタインに何かを贈るという行為そのものは、世界中で行われているみたいですけど』
『へえ、それは知らなかったなあ』
 河野家のリビングとキッチンの間で、ほのぼのとしたやり取りが行われている頃、キャンピングカーでシルファを出迎えたのは、腕組みをして仁王立ちしたミルファだった。
「……おかえり」
「た、ただいま……」
 鬼の形相のミルファを見るまでもなく、シルファは自らの失態を理解していた。
 イルファの計画により、貴明がチョコを受け取ったときの反応を調べるのが目的だったのに、頭を撫でてもらった瞬間にそれらすべてが頭から吹き飛んだ。家に隠しカメラとマイクが設置されていることも忘れ、貴明に甘えまくってしまった。
「しっちゃんおかえり~、ごくろうさま~」
 ミルファの背後から声がする。失態に関して、珊瑚がまったく気にしていないのは幸いだったが、
「……ちょっと質問してもいい?」
「う、うん」
 シルファの目の前にある赤い壁は、そうやすやすと越えられそうにない。
 シルファは、貴明に撫でられると、いつも幸せな気分になる。とろけそうになるというか、気持ちがよくて夢見心地になってしまうのだ。珊瑚に誉められるのも嬉しいが、それに匹敵するくらい貴明に頭を撫でられるのが大好きなのである。それはもう、思い出したら自然と頬が緩むくらいに。
「……ねえ、シルファ。どうしてそんなにうっとりした顔してるの?」
「しっ、してないよ!? うっとりなんてしてないよ!」
 あたふたと首を横に振るシルファを、ミルファがジト目で見つめている。それは容疑者を見る刑事の目つきであり、気圧されたシルファは思わず顔を背けそうになる。
 だが、シルファは顔を背けなかった。
 正確には、その必要がなくなった。
 スピーカーから貴明の声がしたのを合図に、ミルファが後ろを振り向いたのだ。
『――イ、イルファさん!? それってどういうこと!?』
『ええ。ですから、貴明さんに私の作ったチョコレートを受け取って頂きたいと』
『チョコはありがたく受け取るよ! でも……』
 モニタの中で、貴明が尻もちをついて後ずさっていた。焦っているのは映像を見ても音声を聞いても明らかで、迫り来る驚異から逃れようと必死になっている。
 貴明に迫る驚異とは、他でもないイルファだ。
 イルファは片手にコーヒーカップを持っている。溶かしたチョコレートが入ったそれをゆらゆらと揺らし、逃げる貴明を徐々に部屋の隅へと追いつめている。
「なっ、何してるのよ、姉さん!」
「いっちゃんな、貴明にちゅ~するんやて」
「ちゅっ……!」
 珊瑚の言葉に、ミルファは絶句した。
 横では瑠璃が頭を抱え、後ろではシルファが驚きに目を瞬かせている。
『先ほども申し上げたように、私がお贈りするのは、口移しのチョコレートドリンクですから』
『口移しにする意味が分からないよ! 普通に飲ませてよ!』
『そういうわけには参りません』
 つい、とイルファの視線が貴明から外れる。
 楽しげなイルファの顔が、正面からモニタに映し出される。
 完璧なカメラ目線だった。
「は、は、は……」
 ミルファの肩がぷるぷると震え、
「謀ったわね! 姉さ――――――――――――――――――――――ん!!」
 爆発した。

△△△△△

 甘くて暖かいものが身体の中に流し込まれる。
 一度身を委ねてしまえば、数秒前まで抵抗していたのが嘘のようだ。チョコレートとイルファさんの味が、脳みそまで溶かそうとしているかのような感覚。甘い甘い麻薬は、恐るべき早さで俺の心を浸食していく。
「――――――ふあっ」
 熱い吐息で、イルファさんの唇が離れたのに気付いた。
 イルファさんの左手は、俺の頭の後ろに回されている。
 頭の芯が痺れていた。
 なんだかぼうっとしていて、考えがまとまらない。
 何を考えればいいのか分からない。
「……貴明さん」
 おぼろげな意識の海に、イルファさんの声が染み入ってくる。
「おかわり、いかがですか?」
 おかわり。
 おかわり、と言ったのか。
 それはつまり、あの甘くて美味しいものをもっとたくさん飲ませてくれるということなのか。
「……うん」
 頷いた。
 緩慢な動作で首を動かした俺を見て、イルファさんは穏やかな笑みを浮かべる。
 小悪魔めいた顔から、目が離せない。
 イルファさんは、先ほどと同じようにコーヒーカップを傾け、中身を口に含む。
「ん……」
 艶めかしい唇が寄せられる。
 イルファさんが目を閉じる。
「んっ」
 唇を合わせた瞬間、

 リビングのドアが開かれた。

 廊下から現れたのは、赤い色だ。
 燃えさかる炎の赤。
 圧倒的な負のオーラを背負った赤。
「――貴明」
 冷え切った声を聞き、宙を漂っていた意識が一気に引き戻される。
 ごくり、と喉を鳴らして、口の中にあったチョコレートドリンクを飲み下す。
 本物の悪魔が、そこにいた。
「ミ、ミ、ミミミミルファ……!?」
「そうです。貴明様の専属メイドのミルファですよ」
 敬語出た。
 過去の記憶と照合してみると、ミルファがこんな風に敬語を使うときは、100%の確率で怒っている。それはごめんなさいと謝って許してもらえるような怒りではなく、過ぎ去るまで堪え忍ぶしかない大自然の怒りに等しい。こうなってしまったら俺にできるのは、大人しくミルファの言うことを聞くくらいだ。
「なにをしてらっしゃいますか、貴明様は」
「あら、見れば分かるでしょう、ミルファちゃん」
 しかし、神経を逆撫でする要因がここに一つ。
 お願いだから黙っててくださいイルファさん。
「姉さん……!」
 ミルファはイルファさんを睨みつけて、
「最初からこうするつもりだったわね……!」
 よく分からないことを口にする。
 だが、イルファさんにはきちんと意味が通じているのか、俺にしがみついたままため息を吐き出し、
「甘いです。チョコレートよりも甘々です。胸のサイズを上げてもらうより、他の性能を上げてもらった方がよかったんじゃありませんか?」
「――うるさいっ! この腹黒メイドロボッ!」
 喧嘩をする姉妹メイドロボって世界でもここにしかいないんだろうなあ、なんてぼんやりと現実逃避をしていると、気勢を上げるミルファの後ろから珊瑚ちゃんたちがやってきた。
「貴明、愛されとるな~」
「そ、それどころじゃないって! 頼むから早く二人を止め、むぐっ」
 止めるどころか、珊瑚ちゃんは笑顔のままダイブしてきて、俺の唇を塞いでしまう。
 もちろん、自分の唇で。
「あー! 珊瑚様までー!」
「ん~、貴明チョコの味がする~」
 ああ、ダメだ。もう何がなにやら分からない。
 ミルファはますます眉をつり上げてるし、珊瑚ちゃんとイルファさんは俺にくっついてにこにこ笑ってるし、シルファは羨ましそうにこっちを見てるだけだし。
「る、瑠璃ちゃん! 助けて!」
 こうなったら、頼れるのは瑠璃ちゃんしかいない。
 根が生真面目な瑠璃ちゃんなら、この騒ぎをきっと、
「……骨なら拾ったるから、がんばり」
「そ、そんな……」
 瑠璃ちゃんは「巻き込まれたらたまらん」みたいな顔をして、キッチンの方に姿を消した。イルファさんたち三姉妹が揃ってからというもの、抑え役に回っていた瑠璃ちゃんがいなくなったということは、もはや俺に打つ手はなくなったということであり、
「貴明~、ウチのチョコも口移しで食べさしたげるな~」
 珊瑚ちゃんも、
「それでしたら、私も残りを貴明さんに……」
 イルファさんも、
「わ、わたしのチョコも食べてもらえますか?」
 そしてシルファまでもが、雪崩のように押し寄せてくる。
 三人に揉みくちゃにされた視界の向こうでは、ミルファが肩を振るわせていて、噴火直前の火山を思わせた。
「……あたしも」
 ミルファは押し殺した声で何やら呟いていたが、
「あたしも貴明に食べさせる!」
 赤い髪の毛を振りかざしたかと思うと、おもむろに洋服を脱ぎ始めた。
「ミルファ!? おまえ、何してるんだよ!?」
 ミルファは、イルファさんの手からチョコの入ったコーヒーカップを奪い取り、
「あたしは、おっぱいを器にして貴明に飲んでもらうもん! 人間だったら火傷しちゃうけど、あたしだったらこんなこともできるんだよ!」
 二の腕で自分の胸を寄せて、上げて、そこにできた神秘の谷間にチョコレートを流し込む。
「や、やめろ、ミルファ! そんなはしたないことするな!」
「だって、お酒とかこうやって飲んだりするんでしょ! 雄二が言ってたもん!」
 あのバカ、ミルファに何を教えてるんだ。
「そういえば、みっちゃんがチョコまみれになると、仮ボディのときと同じ色になるな~」
「ふふ、そうですね」
「ちょっと! ねえ! 珊瑚ちゃんもイルファさんも、上手いこと言って和んでないで止めてよ! うわ、ちょ、やめて! ミルファやめて!」
「貴明は、おっぱい好きだよね? あたしのチョコ、食べてくれるよね……?」
「あ――――」
 終わった、と思った。
 それチョコじゃない、と思った。
 いや、思ったときには、すべての思考が一瞬でブラックアウトしていた。
 俺は、情けなくも鼻血を吹き出して、そのまま気を失ったのである。
「お父さん! お父さん! しっかりして!」
「……チョコを食べ過ぎると、鼻血が出るそうですね」
 遠のく意識の中で、イルファさんがそんな説明をしていた。
 いや、これは絶対にチョコの食べ過ぎで出た鼻血じゃありませんから。
 俺の魂の叫びは、もちろん誰に届くこともなく消えていくのだった。


END