長らく続けてきたイギリスのカンタベリー・ロック特集ですが、ついにカンタベリー・ロックの最終形態「ナショナル・ヘルス」の事実上の最後のアルバムとなりました。セカンド・アルバム、「Of Queues and Cures」です。
ナショナル・ヘルスはもう1作アルバムを出していますが、それは、アラン・ゴーウェン追悼盤で、企画盤的な位置づけです。
やはり、このアルバムで、一区切りととらえるべきでしょう。
時は1978年。UKがファースト・アルバムを出したのも1978年。
プログレッシブ・ロックの最後の傑作が同時期にリリースされたんだなと感慨深くなります。
メンバーはベースが交代しています。ニール・マーレイはホワイト・スネイク参加のために脱退し、元ヘンリー・カウのジョン・グリーヴスが参加。
また、前回ゲスト参加したアラン・ゴーウェンとアマンダ・パーソンズは参加していません。でもゲストとして、ジョージ・ボーン(チェロ)、ポール・ニーマン(トロンボーン)、フィル・ミントン(トランペット)、ジミー・ヘイスティングス(フルート、クラリネット)、キース・トンプソン(オーボエ)、ピーター・ブレグヴァド(ボイス)といったメンバーが参加して、彩りを加えています。
前作とは違って、かなり聴きやすい作品です。
けっこうプログレのカッコよさがあり、クリムゾン風のところもあります。
日本のファンが好きなタイプのプログレ作品なのですが、発売当時、日本ではクリムゾンみたいに知名度がなかったため、あまり売れなかった印象ですね。
聴きやすくなったと言っても、ポップになってしまったということではありません(ポップな部分もけっこうありますけど)。複雑だし、展開が目まぐるしい。曲も長い。でも、聴き入ってしまいます。
UKがプログレの壮大さ、ドラマティックさを表現して聴き手を満足させたのに対し、ナショナル・ヘルスは複雑な曲構成とインプロビゼーション的演奏で聴き手を緊張させて圧倒するという感じですね。カンタベリー・ロックが持ち続けていたジャズ・ロック的な構築を通過した上で行きついた至高のロック・サウンドかもしれません。印象的なメロディもあります。
ヴォーカル入りの曲はいいアクセントになっていて、そこも魅力。
何回でも聴きたくなる不思議な魅力をもつ本作品は、ハットフィールド&ザ・ノースの「ロッターズ・クラブ」同様、名盤だと思います。
ご紹介するのは、まず1曲目の「The Bryden 2-Step (For Amphibians) (Part 1)」。デイヴ・スチュアート作です。
キーボードの静かな音から始まるこの曲は実に耳にすんなり入ってきます。
前作とはかなり雰囲気が違います。けっこう、メロディアスでキャッチーな作風です。緊張感があり、音もキレがあって、まさにかっこいいプログレのイメージですね。勢いを感じます。曲はいろいろ展開しますけど、聴き手を置いていくようなことはなく、難解な雰囲気はありません。割とシンプル。
The Bryden 2-Step (For Amphibians) (Part 1)
次にご紹介するのは3曲目の「Squarer for Maud」。ジョン・グリーヴス作です。
これがまさに万華鏡のようなサウンド。約12分の長尺の曲の中に、様々な展開があって、圧倒されます。個人的にはこの曲にプログレの理想郷を感じます。複雑ながらスムーズに聴けてしまう構成力があります。ワクワクドキドキの流れですね。彼ららしく遊び心もあります。フィル・ミラーの弾きまくりのギターも印象的。
途中でゲストのピーター・ブレグヴァドの朗読がありますが、彼の参加はジョン・グリーヴスとのつながりのようです。二人ともヘンリー・カウにいましたね。
Squarer for Maud
5曲めの「Binoculars」をご紹介します。ピップ・パイルの曲です。おだやかやなヴォーカルはハットフィールド&ザ・ノース時代を思い起こさせます。まるで、キャラヴァンのようなポップな雰囲気があり、やはり前作とは違う印象です。
フルートが入ると、軽快な感じになり、実に心地良いですね。
全体的に穏やかで、可愛らしい感じの流れがあり、カンタベリー・ロックの遺伝子をここで発揮したか!とちょっと感動してしまいました。
Binoculars
最後にラストの「The Bryden 2-Step (For Amphibians) (Part 2)」。スチュアートの曲ですね。
1曲目の続きのような曲。実に聴きやすい。UKのようでもありますね。
静かに終焉を迎えます。
The Bryden 2-Step (For Amphibians) (Part 2)
今回で、カンタベリー・ロック特集を終わりにしようと思ったのですが、最後まで頑張ったデイヴ・スチュアートに敬意を表して、彼が参加したエッグについて1回、カーンについて1回取り上げる予定です。
つまり、あと2回で終了です。
そのあとは、別のブリティッシュ・ロック・バンドの特集を開始する予定となっております。
1970年代のイギリスのバンド・シーンは本当に奥が深いですね。