1976年は確かヴァン・ヘイレンがデビューして、ハード・ロック・ファンに衝撃を与えた年でした。エディ・ヴァン・ヘイレンの圧倒的なテクニック、特にライト・ハンド奏法は日本のギター少年やロック好きの注目を集めたものです。
そんな時に、若きロック評論家の伊藤正則氏が評論家生命をかける勢いでプッシュしたのが、このアルバムです。
3年ほど前にロック評論家の大貫憲章氏が、クイーンのデビュー時、「女王に神のご加護を!」と強烈にプッシュしたのにあやかったのか、「神のご加護を」みたいな感じで大絶賛したのが記憶に残っています。
当時、日本の洋楽ハード・ロック・ファンにはブリティシュ・ロックのヒーローを待つ気運がありました。クイーンに続く、劇的なハード・ロック・バンドを待ちわびる空気があったのです。当のクイーンが「オペラ座の夜」から「華麗なるレース」にかけてハード・ロックの路線から脱却しようとしていて、その後釜をみんな期待してたのです。
アメリカン・ハード・ロックではなく、イギリスのハード・ロックで新しい音を作るバンドがほしい。ヴァン・ヘイレンのお祭り的ハード・ロックではなく、知的なプログレの要素があるバンドが欲しい(時は1970年代半ばです、ドリーム・シアターのようなバンドが出て来るなんて想像もできません)。
そんな空気の中で、このセカンド・アルバムで日本デビューを果たしたジューダス・プリーストは、凝った構成を好むブリティッシュ・ロック好きのファンに、「おおっ!」と思わせるものがあったのです。
まずご紹介したいのは、やはり「リッパー」です。
当時、ロック評論家で、最も若者の支持を受けていた渋谷陽一氏は自分のラジオ番組でこの曲ばかりというか、この曲しかかけませんでした。
過去にないような劇的な展開と音作り、ロブ・ハルフォードの変幻自在で、ヒステリックな高音ヴォーカル、クイーンのようなバンドを待ち望んでいたファンはけっこう盛り上がったような気がします。まさに、歴史的な名曲だったと思います。
ところが、他の曲については、どちらかというと、ブラック・サバス的な割とスタンダードなハード・ロックが多く、劇的なつくりをされているものの、音が古い感じがするという意見もありました。
そのため、当時を代表する名盤という評価にはなりません。
「新しさ」という点で、やはり物足りない評価だったと思います。
と言っても、聴きこむとかなり凝ったアレンジがされており、やはり平凡なバンドとはクオリティが段違いという事実に気づきます。
まあ、そこまで聴きこむのはかなりマニアックなファンということになります。
このアルバムはかなりの評判を得るものの、ヴァン・ヘイレンとは違って、ニッチで、熱烈なファンを構成することになります。
一般のロック・ファンには「リッパー」で只者ではないという印象を与えたということで成功だったとは思います。
Judas Priest - The Ripper
変わっている曲として、「エピタフ」をご紹介しましょう。
ピアノを中心としたバラードで、コーラスがまるでクイーンです。
地味な曲ですが、クイーン的なものを期待していた人には、この曲も「おおっ!」と思わせるものがあります。
Judas Priest - Epitaph
次に、ご紹介するのは2024年の今でもライブで演奏しているアルバムの1曲目「 Victim of Changes」。
割とシンプルで、引ずるようなリフがブラック・サバス的なハード・ロックを感じさせますが、聴きこむとじわじわ味が出て来る曲です。
地味にいろいろ展開するし、ギター・ソロもきれいに構築されています。聴きごたえのある作品と言えるでしょう。逆にちょっと聴いただけでは魅力はわからないので、何でこの曲が1曲目かな?とは思ってしまいます。
この曲を聴きこめた人は彼らの音にのめりこんで行きます。
Judas Priest - Victim of Changes
もう1曲ご紹介します。
イントロ的な曲「Prelude」と、流れるように続くスピード・ナンバー「 Tyrant」です。「Tyrant」はいろいろ仕掛けがあって、メロディも起承転結があり、展開が秀逸な曲です。メタル・ゴッドとしての覚醒を予測させるドラマティックなハード・ロックで、2本のギターの使い方が見事。ツイン・ギター・バンドのメリットをうまく活かしてると思います。
Judas Priest - Prelude
Judas Priest - Tyrant
本作について、まとめるならば、クイーンみたいなレベルではありませんが、緻密な構成が練られた当時としてはドラマティックなハード・ロック・アルバムです。音質的にはややチープというか古臭いし、ロブの声にクセがあるのですが(この声が嫌いという方が当時から多かったですね。)、それでもアルバム・タイトルとアート・ワークから想像させる宗教観というか中世のヨーロッパ的な雰囲気が見事に想像を掻き立てる作品です。ジャケットのイラストはほんとに魅力的で、ジャケ買いした人も結構いるのではと思います。
やはり名盤であり、傑作だと個人的に考える次第です。