志賀の山越え
ひとしれず こゆとおもひし あしひきの やましたみづに かげはみえつつ
人しれず 来ゆと思ひし あしひきの 山下水に 影は見えつつ
志賀の山越え
人知れず志賀の山越えをしたと思っていたが、実は山の麓を流れる水に私の姿が映っていたのだったよ。
「志賀山」は長野の山ではなく、京から近江に至る、峠越えの街道のこと。写本によっては次に「返し 兼輔」として藤原兼輔からの返歌が収載されています。
かはぎりの たちしかくせば みなそこに かげみるひとも あらじとぞおもふ
川霧の 立ちしかくせば 水底に 影見る人も あらじとぞ思ふ
藤原兼輔(ふじわら の かねすけ)は古今集に4首、勅撰集全体は56首が入集している歌人で、百人一首(第27番)にも収録された次の歌はつとに有名ですね。
みかのはら わきてながるる いずみがわ いつみきとてか こひしかるらむ
みかの原 わきて流るる 泉川 いつ見きとてか 恋しかるらむ
(新古今和歌集 巻第十一「恋一」 第996番)