=118 ~木の因数分解~(家具工房つなぎブログ)

南房総でサクラの家具を作っています。ショールーム&カフェに遊びにおいでください。

その椅子で何ができるようになるのか、どう幸せになるのか。

2009年07月05日 | 【お出かけ】木のむくまま
本日は信州木工会の講習会に参加してきました。

テーマは、「高齢者の椅子」。

講師は、30年以上にわたり、身体障害者用の特製椅子を製作してきた「こまつ家具工房」の古松さん。
高齢者用の椅子と障害者用の椅子は異なりますが、共通することも多いため、そこをお話いただきました。

古松さんは、家具を作り始めて間もない頃、ある展示会で障害者用の椅子を見て強い衝撃を受けたそうです。

「なんだこれは!」

正直な印象だそうです。それは椅子でもベッドでもなくお風呂のように見え、とても新鮮に見えたそうです。

そして、スライドを見ながら説明してくれましたが、実際古松さんが作り続けてきた家具も椅子なのかベッドなのかわからない、きれいな曲線があるわけではない、特殊な継ぎ手が使われているわけでもない、無機質なボルトが露出している商品です。

でもその無骨な商品は、一緒に見せて頂きました障害者の方々にとっては、まさしく生活を快適に、そしてできなかったことをできるようにしてくれる、見えなかったものを見えるような姿勢にしてくれる、夢の椅子なのです。

古松さんの仕事は、お客様の深いおつきあいなくしては成り立ちません。
健常者は多少座り心地が悪くても、変な設計でもたいていの椅子には座れます。
しかし、思うように体を動かせない場合の障害者の方は違います。その形でなければいけないのです。つまり一人一人の障害者の状態は違い完全オーダーメイドですから、そのお客様について体の体型のかたどりをはじめ、症状から状態、どこまで動かせるのか、といったことまで深く知らなければできません。そして、それを支えるご家族の心配や不安、そして期待も自然に担うことになるのです。

家具を通してこんなに深く人と関わり、ひょっとしたらその人の人生を変えるような仕事があるのかと私はびっくりしました。

通常の椅子を製作する過程では、人間工学を駆使し、座りやすい椅子とはどんな形状かを追求していくと同時に、どう座ることが体にとって最も自然なのか、負担が少ないのかという正しい姿勢、座り方についても研究します。

しかし、勘違いしてはいけないことが、
「お客様に、正しく座っていただくことが目的ではない」
ということです。

「このような理論で設計したので、このような理想的で正しい座り方をしてください。さもないと効果が発揮されません」
と強いることは何か変です。

お客様も人間ですから好き勝手です。くね~って座る方もいらっしゃいますし、体のサイズに合わせ最適な高さの座面に作っても、かなりの確率の方が座布団を敷いて座る傾向があるので高さは変わってしまいます。また高齢者の方については、たとえば長年の農作業で腰が曲がってしまっているおばあちゃんに、いまさら「背筋を伸ばして座ってください」というのも間違っています。

ようするに大切なことは、
「その椅子を使って、何をしたいのか、何ができるようになるのか」
その目的が達成できるように助けられることが優れた椅子になるのです。

寝たきりの高齢者が、椅子に座って机のうえで孫への手紙を書きたい。
車椅子で顔が伏せがちになってしまうおばあちゃんが、ご飯を食べるときは顔が自然とあがり、家族の顔を見ながら食事をしたい。

「そうした目的を叶えることが、
家具作りにおいて大切なことであり、
そして家具はあくまで道具であり、手段である」

ということを、学ばせて頂いた素晴らしい機会でした。


講師の古松さん
幹事をされておられた、木工家谷進一郎さん
関西から駆けつけてこられ熱く語って頂いた 有限会社テクノエイドスペースの森下社長

をはじめ、皆様ありがとうございました。

その他、椅子づくりの技術やノウハウも数多く学ばせて頂きましたが、私はなにぶんまだ作っていません。今後、そうした知識と経験をつなぎあわせていきたいと思います。




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