Box of Days

~日々の雑念をつらつらと綴るもの也~ by MIYAI

音楽が聴こえる

2006年08月22日 | diary
 三島由起夫の「音楽」を読み終えた。これはますます不思議な小説だった。なにが不思議かと言えば、題材から話の展開から主人公である精神科医が出す結論のいちいちまで、すべてが僕をどこか不思議な気持ちにさせた。ここに書かれたことを、いったいどこまで納得していいものやら、僕にはよくわからないところがある。それは正論のようであり、突飛にも思えた。でも、こうして読み終えてみると、なんだか気持ちよかったりするわけでね。うーんと、なんなんだろね。

 この作品は、多分だけど、三島自身が、このある意味で奇妙な作品の内容を、割と本気でそう思って書いているところにリアリティの根本がある気がする。自分の考えを、そのまま(彼なりの方法で)ストレートに綴った印象を僕は受けた。だから、どうやったらこんな小説を書けるのだろうと最初は思ったけど、そうじゃなくて、単純に三島だから書けたのだと思う。ま、そこがすごいところなんだけど。

 なんであれ、最後にちゃんと救いがあってよかった。ほっとしたし、嬉しかった。凄まじいとかたまらないとか、そういうんじゃないかもしれないけど、とても面白かったし興味深い作品だった。もう1度読み返してもいいなと思うくらい。

 本を読み終えてから、ビートルズの来日に関するテレビ番組がやるというので観た。そしたら、そこにも三島由起夫が出てきたんでびっくりした。なんでも彼は、ステージを斜め向かいにみる一番前の席で、ビートルズの日本公演を観たらしい。そしてそのときの感想を、どこかの雑誌に綴っている。三島由起夫の作品を「音楽」しか読んだことのない僕が言うのもなんだけど、とても彼らしい感想だと思った。冷静沈着な視点と本質を見据えようとする意志が感じられる。あえてビートルズに好意的な感想を書いた遠藤周作のありきたりさよりも、ずっと魅力的な文章だと思う。しかし、残念ながら、それは的を得た感想ではなかった。「私は後ろを向いて客席を観ているほうがよほど興味深かった」と三島は言った。結局、三島にはビートルズがわからなかったのだ。そして、言うまでもないことだけど、あのとき高校1年生だった仲井戸麗市が、当時ノートに綴った言葉の方がはるかにビートルズのことを的確にとらえている。「俺は武道館の北西側、斜め後ろの席からビートルズを観た。でも、“I Feel Fine”でのリンゴのバスドラの踏み方ははっきり覚えてる。バツグンだった」。きっとそれだけ時代が激しく動いていたのだろう。で、やっぱり大人にはわからなかったのだと思う。

 風呂につかりながら『Beatles For Sale』を聴いた。“Rock' n Roll Music”が流れ、“Mr.Moonlight”が流れた。で、僕はいつものように、“Every Little Thing”と“I Don't Want to Spoil the Party”の登場を待っていた。

 「オンガクオコル。オンガクタユルコトナシ」。