電子政府サービスの改善に欠かせないのが「利用者の意見を聴くこと」ですが、同じくらい大切なのが「利用者を観察すること」です。日本の電子政府・電子申請では、ようやく「利用者の意見を聴くこと」を始めましたが、「利用者を観察すること」はほとんど行われていません。
アンケートだけでは不十分な例を挙げておきましょう。
電子政府評価委員会(第7回)の配布資料に「資料3:パイロット調査の結果について」があります。
この57ページに「不動産登記に係る登記事項証明書の交付請求等」のアンケート結果があり、
・窓口/郵送での紙による手続は、1件当たり19.35時間かかる。
・オンライン申請システムでは、1件当たり12.27時間かかる。
・オンライン申請システムにより、1件当たり約7時間短縮される。
さて、実際はどうでしょうか。
登記事項証明書は、法務局の窓口へ行けばすぐに取得できます。往復の移動時間を含めても、せいぜい2-3時間ですね。
オンライン申請であれば、手続自体は数分で終わります。初めての人でも、まあ数時間もあれば済むでしょう。ただし、登記事項証明書が手元に届くのは数日後になります。
同資料59ページの「納税証明書の交付請求」についても、ほぼ同様です。
このように、アンケートだけでは、利用者の「実感」はわかっても、「実際」はわかりません。
「実際」を知らなければ、具体的な改善策は立てられません。
そして、「実際」を知るためには、「実測」が必要なのです。
「実測」は、「サービスの改善や利用率の向上」の効果が高く、新たなシステム構築等に比べて費用も安く済むので、費用対効果も高いのです。
関連>>サービス産業の生産性向上に資する製造業のノウハウに関する調査研究報告書(経済産業省)
●「実測」の方法:ユーザーテスト
「実測」をする方法としては、「ユーザーテスト(ユーザビリティ・テスト)」があります。
「ユーザーテスト」では、「人」を集めて、実際にサービスを利用してもらいます。
例えば、紙申請とオンライン申請について、事前準備から「ユーザーテスト」を実施すれば、
・利用者の行動フロー
・迷いやすい、間違えやすいポイント
・利用者の実際にかかる時間と費用
などがわかります。その結果を踏まえて、
・利用者の行動フローに沿って(利用者の視点で)
・迷いやすい、間違えやすいポイントを修正して
・利用者の実際にかかる時間と費用を減らす
ことができるようになるのです。
●「実測」の方法:ウェブ解析
「実測」をする別の方法として、「ウェブ解析(Web analytics)」があります。
ウェブサイトに訪れた人(利用者)の行動を観察・分析することで、問題点を発見し、ウェブサイトを改善するものです。
・どんな人が
・どういう目的で
・どうやって
ウェブサイトへ訪れて
・どのページを
・どういった経路で
・どれぐらいの時間をかけて
閲覧して
・どんなアクション(行動)を
・どれぐらいの割合で
してくれるか。
といったことを調べます。
実際の測定は、サイト分析ソフト(サービス)を利用して行います。
●ウェブ解析に欠かせない「データの取得」
ウェブ解析を行うためには、ウェブサイト上での訪問者の行動をデータとして取得する必要があります。
以前、「行政情報の電子的提供」の提案として、「クッキーの活用」を書きましたが、これもウェブ解析に必要なデータを取得するためです。
関連>>クッキーとは(IT用語辞典)
「クッキー」については、「プライバシー」との関係もあり、利用が進まないといった面もありますが、各種オンラインサービスの発展と共に、電子政府でも認識が変わってきました。
ブラウン大学による米国政府ウェブサイトに関するレポート「State and Federal E-Government in the United States, 2006 (PDF)」の「Assessment of E-government Privacy and Security Statements」では、
「プライバシーポリシー等」で「クッキー利用の禁止(Prohibit Cookies)」とするサイトの割合が、2001-2006年で10%、6%、10%、16%、21%、16%となっています。
「クッキー利用の禁止」が減少しているのです。
また、「個人情報の共有の禁止(Prohibit Sharing Personal Information)」についても、13%、36%、31%、36%、65%、54%と減少傾向が見られます。
これに対して、「アクセス履歴等の監視ソフトの利用(Use Computer Software to Monitor Traffic)」については、8%、37%、24%、28%、46%、60%となっており、減少傾向は見られません。
つまり、「クッキーの利用」や「個人情報の共有」が悪いわけではなくて、国民に内緒で「クッキーの収集」や「個人情報の共有」を行い、「国民の監視等のために」使うことのが良くないのです。
「クッキーの利用」や「個人情報の共有」について事前に選択・承諾してもらい、より良いサービスを提供するために使うのであれば、多くの国民は歓迎してくれるでしょう。
日本の行政サービスでも、同じ建物内の役所組織間で情報共有が進まず、「たらい回し」されることがあります。その理由として、安易に「個人情報保護、プライバシー」を挙げることは、「行政の勝手な思い込みと怠慢」でしかありません。
●電子政府における「コンバージョンレイト」とは
最後に、「コンバージョンレイト(Conversion rate)」に触れておきましょう。
「コンバージョンレイト」(直訳すると「変換率」)とは、ウェブサイトの訪問者が、ウェブサイト運営者にとって「望ましい行動」をしてくれる割合を意味します。
関連>>コンバージョンレートとは(IT用語辞典)
ウェブサイトの訪問者数に対して、電子商取引であれば「商品やサービスの購入率」が、電子政府であれば「オンライン申請の利用率」などが、代表的な「コンバージョンレイト」と言えます。アンケート実施であれば、「回答率」ですね。
行動の種類(有料・無料、面倒・簡単など)によって割合は変わってきますが、コンマ数パーセントから数パーセントぐらいと言われています。
電子商取引の測定項目としては、「コンバージョンレイト」に加えて、「望ましくない行動」も重要視されます。例えば、
・トップページ離脱率
・ショッピングカート放棄率
などです。
電子政府における「コンバージョンレイト」では、電子政府サービスの利用率向上に繋がる(利用者にして欲しいと思う)行動のうち、測定・計測可能なものを選びます。
・問い合わせ
・利用者登録
・メルマガ登録
・説明書やソフトウェアのダウンロード
・体験版の利用
・実際の申請
・再利用
などについて、それぞれ割合を測定します。
「利用者登録」してくれる率が高いのに、「説明書やソフトウェアのダウンロード」率が低ければ、説明書やソフトウェアの提供方法に問題があるかもしれません。
「再利用」率が低ければ、再利用しやすい仕組み(定期的なお知らせメールの送付、再利用手続の簡素化、複数回利用者への手数料割引など)が必要かもしれません。
加えて、望ましくない行動である
・トップページ離脱率
・申請放棄率
なども測定しておきましょう。
●改善の余地が多い電子政府サービス
日本における多くの電子政府サービスでは、「アンケートの実施」だけで満足している状態と言えます。
そもそも、「サービス」の素人である役所にとって、アンケート結果を検証・分析して、さらには具体的なサービス改善策を考え、それを実行することは、普通に考えれば「無理」なことなのです。
しかし、人や予算が減り、国民の要求やチェックが厳しくなっていく状況では、「無理」なんて言っていられません。
民を上手に活用して、サービスの改善と利用率の向上に努める必要があるのです。
民間では当たり前となっている、ユーザーテスト(ユーザビリティ・テスト)もウェブ解析も、ろくに行われていない。この状況は、
はっきり言えば「怠慢」「努力不足」ですが、見方を変えれば「改善の余地が多い」とも言えます。
「続けるのは面倒だけど、サービスを良くするためには当たり前のこと」ができるようになれば、電子政府サービスは、もっと良くなります。
電子政府に限らず、行政は「特効薬」「キラーコンテンツ、サービス」を求める傾向があります。
そうした「箱もの」的な考え方自体が、電子政府サービスの改善を妨げており、税金の無駄遣いを拡大しているのです。
もっと、地道な努力の大切さを知り、(自身の出世・功績ではなく)費用対効果を考えた投資を行いましょう。
アンケートだけでは不十分な例を挙げておきましょう。
電子政府評価委員会(第7回)の配布資料に「資料3:パイロット調査の結果について」があります。
この57ページに「不動産登記に係る登記事項証明書の交付請求等」のアンケート結果があり、
・窓口/郵送での紙による手続は、1件当たり19.35時間かかる。
・オンライン申請システムでは、1件当たり12.27時間かかる。
・オンライン申請システムにより、1件当たり約7時間短縮される。
さて、実際はどうでしょうか。
登記事項証明書は、法務局の窓口へ行けばすぐに取得できます。往復の移動時間を含めても、せいぜい2-3時間ですね。
オンライン申請であれば、手続自体は数分で終わります。初めての人でも、まあ数時間もあれば済むでしょう。ただし、登記事項証明書が手元に届くのは数日後になります。
同資料59ページの「納税証明書の交付請求」についても、ほぼ同様です。
このように、アンケートだけでは、利用者の「実感」はわかっても、「実際」はわかりません。
「実際」を知らなければ、具体的な改善策は立てられません。
そして、「実際」を知るためには、「実測」が必要なのです。
「実測」は、「サービスの改善や利用率の向上」の効果が高く、新たなシステム構築等に比べて費用も安く済むので、費用対効果も高いのです。
関連>>サービス産業の生産性向上に資する製造業のノウハウに関する調査研究報告書(経済産業省)
●「実測」の方法:ユーザーテスト
「実測」をする方法としては、「ユーザーテスト(ユーザビリティ・テスト)」があります。
「ユーザーテスト」では、「人」を集めて、実際にサービスを利用してもらいます。
例えば、紙申請とオンライン申請について、事前準備から「ユーザーテスト」を実施すれば、
・利用者の行動フロー
・迷いやすい、間違えやすいポイント
・利用者の実際にかかる時間と費用
などがわかります。その結果を踏まえて、
・利用者の行動フローに沿って(利用者の視点で)
・迷いやすい、間違えやすいポイントを修正して
・利用者の実際にかかる時間と費用を減らす
ことができるようになるのです。
●「実測」の方法:ウェブ解析
「実測」をする別の方法として、「ウェブ解析(Web analytics)」があります。
ウェブサイトに訪れた人(利用者)の行動を観察・分析することで、問題点を発見し、ウェブサイトを改善するものです。
・どんな人が
・どういう目的で
・どうやって
ウェブサイトへ訪れて
・どのページを
・どういった経路で
・どれぐらいの時間をかけて
閲覧して
・どんなアクション(行動)を
・どれぐらいの割合で
してくれるか。
といったことを調べます。
実際の測定は、サイト分析ソフト(サービス)を利用して行います。
●ウェブ解析に欠かせない「データの取得」
ウェブ解析を行うためには、ウェブサイト上での訪問者の行動をデータとして取得する必要があります。
以前、「行政情報の電子的提供」の提案として、「クッキーの活用」を書きましたが、これもウェブ解析に必要なデータを取得するためです。
関連>>クッキーとは(IT用語辞典)
「クッキー」については、「プライバシー」との関係もあり、利用が進まないといった面もありますが、各種オンラインサービスの発展と共に、電子政府でも認識が変わってきました。
ブラウン大学による米国政府ウェブサイトに関するレポート「State and Federal E-Government in the United States, 2006 (PDF)」の「Assessment of E-government Privacy and Security Statements」では、
「プライバシーポリシー等」で「クッキー利用の禁止(Prohibit Cookies)」とするサイトの割合が、2001-2006年で10%、6%、10%、16%、21%、16%となっています。
「クッキー利用の禁止」が減少しているのです。
また、「個人情報の共有の禁止(Prohibit Sharing Personal Information)」についても、13%、36%、31%、36%、65%、54%と減少傾向が見られます。
これに対して、「アクセス履歴等の監視ソフトの利用(Use Computer Software to Monitor Traffic)」については、8%、37%、24%、28%、46%、60%となっており、減少傾向は見られません。
つまり、「クッキーの利用」や「個人情報の共有」が悪いわけではなくて、国民に内緒で「クッキーの収集」や「個人情報の共有」を行い、「国民の監視等のために」使うことのが良くないのです。
「クッキーの利用」や「個人情報の共有」について事前に選択・承諾してもらい、より良いサービスを提供するために使うのであれば、多くの国民は歓迎してくれるでしょう。
日本の行政サービスでも、同じ建物内の役所組織間で情報共有が進まず、「たらい回し」されることがあります。その理由として、安易に「個人情報保護、プライバシー」を挙げることは、「行政の勝手な思い込みと怠慢」でしかありません。
●電子政府における「コンバージョンレイト」とは
最後に、「コンバージョンレイト(Conversion rate)」に触れておきましょう。
「コンバージョンレイト」(直訳すると「変換率」)とは、ウェブサイトの訪問者が、ウェブサイト運営者にとって「望ましい行動」をしてくれる割合を意味します。
関連>>コンバージョンレートとは(IT用語辞典)
ウェブサイトの訪問者数に対して、電子商取引であれば「商品やサービスの購入率」が、電子政府であれば「オンライン申請の利用率」などが、代表的な「コンバージョンレイト」と言えます。アンケート実施であれば、「回答率」ですね。
行動の種類(有料・無料、面倒・簡単など)によって割合は変わってきますが、コンマ数パーセントから数パーセントぐらいと言われています。
電子商取引の測定項目としては、「コンバージョンレイト」に加えて、「望ましくない行動」も重要視されます。例えば、
・トップページ離脱率
・ショッピングカート放棄率
などです。
電子政府における「コンバージョンレイト」では、電子政府サービスの利用率向上に繋がる(利用者にして欲しいと思う)行動のうち、測定・計測可能なものを選びます。
・問い合わせ
・利用者登録
・メルマガ登録
・説明書やソフトウェアのダウンロード
・体験版の利用
・実際の申請
・再利用
などについて、それぞれ割合を測定します。
「利用者登録」してくれる率が高いのに、「説明書やソフトウェアのダウンロード」率が低ければ、説明書やソフトウェアの提供方法に問題があるかもしれません。
「再利用」率が低ければ、再利用しやすい仕組み(定期的なお知らせメールの送付、再利用手続の簡素化、複数回利用者への手数料割引など)が必要かもしれません。
加えて、望ましくない行動である
・トップページ離脱率
・申請放棄率
なども測定しておきましょう。
●改善の余地が多い電子政府サービス
日本における多くの電子政府サービスでは、「アンケートの実施」だけで満足している状態と言えます。
そもそも、「サービス」の素人である役所にとって、アンケート結果を検証・分析して、さらには具体的なサービス改善策を考え、それを実行することは、普通に考えれば「無理」なことなのです。
しかし、人や予算が減り、国民の要求やチェックが厳しくなっていく状況では、「無理」なんて言っていられません。
民を上手に活用して、サービスの改善と利用率の向上に努める必要があるのです。
民間では当たり前となっている、ユーザーテスト(ユーザビリティ・テスト)もウェブ解析も、ろくに行われていない。この状況は、
はっきり言えば「怠慢」「努力不足」ですが、見方を変えれば「改善の余地が多い」とも言えます。
「続けるのは面倒だけど、サービスを良くするためには当たり前のこと」ができるようになれば、電子政府サービスは、もっと良くなります。
電子政府に限らず、行政は「特効薬」「キラーコンテンツ、サービス」を求める傾向があります。
そうした「箱もの」的な考え方自体が、電子政府サービスの改善を妨げており、税金の無駄遣いを拡大しているのです。
もっと、地道な努力の大切さを知り、(自身の出世・功績ではなく)費用対効果を考えた投資を行いましょう。