オバマ政権のアメリカでは、スマートグリッドをアメリカ再生のイノベーション戦略の柱と位置づけ、グーグルやIBM、GEなどの大企業が投資を行ない、ベンチャーキャピタルが数多くのスタートアップ企業に対して資金を供給してスマートグリッドが日々進化しています。
このように急速な進化過程のスマートグリッドにアプローチするには、“柔軟な産業政策”という発想をとることが必要です。
この点で気にかかるのは、日本のスマートグリッド政策が蓄電池に重点を置きすぎているのではないかということです。
たとえば、経済産業省の「低炭素電力システムに関する研究会」の報告書では、現段階の技術や現行の電力会社のシステムでは、系統側に蓄電池を設置したほうが追加コストは安く抑えられるという結果を示していますが、これはあくまで現行の技術水準やシステムを前提とした暫定的なものです。
蓄電池はコストと寿命等の点で難点があります。しかし、スマートメーターなどの導入などにより、きめ細かな計測データに基づき、無駄のない需要応答、ディマンドマネージメントが可能になれば、必要となる蓄電池の量は相当抑えることができる可能性があります。また、プラグインハイブリッド車や電気自動車が普及すれば、小口の需要家にとって蓄電池の役割を果たします。需要家は自動車として購入したものが蓄電池としても使用できるわけですから、追加コストは小さくなります。
また、きめ細かな電力使用量がわかれば、それに対応した料金体系にして、需要家にインセンティブが沸くような仕組みを取ることも可能です。
さらに、最小限の蓄電池を中核として、その蓄電池の過不足を隣接するルーターと人工知能を使ってリアルタイムかつ自律的にやりとりする「パワールーター」を使用して配電網を整備すれば、出力の平準化に必要なコストを下げられるだけでなく、既存の安定的な電力網を出力変動や停電のリスクから解放することもできます。
スマートグリッドにとって蓄電池は確かに重要ですが、それだけに依存しない仕組みにするほうが社会全体としての便益は増大します。あらゆる産業が参入できる仕組みを作ることで、国としての国際競争力を高めながら地球環境の保全に貢献し、需要家の便益を高めていくという姿勢が21世紀の産業政策の基本となるべきです。
蓄電池と同様の機能は、たとえば、燃料電池やヒートポンプの貯湯槽にエネルギー保管機能を持たせたり、自動車メーカーが需給調整機能をも前提にして電気自動車を開発したり、省エネ性能と調整機能に優れたスマート家電を開発したり、ICT関連企業が制御システムを開発したりすることげ実現できます。
スマートグリッドのロードマップを描く上においては、多様な技術開発を促す技術中立的な仕組みと柔軟な電気料金体系を構築する必要があるのです。
国としての国際競争力向上の観点からの産業政策の展開も重要です。オバマ政権のアメリカがスマートグリッドをアメリカ再生のイノベーション戦略の柱と位置づけているのは、かつてインターネットが世界の情報産業、産業構造を変えたように、今度はスマートグリッドが世界のエネルギー産業のみならず、産業構造を変える可能性があると見ているからです。日本の産業及び政策当局は、このことを肝に銘じて対応する必要があります。
確かに、現状においては、日本企業は、蓄電池、太陽光発電や省エネでは世界最高の技術をもっていますが、現在アメリカは、NISTを中心に短期に専門家を総動員する体制で、スマートグリッドの標準化、規格化に取り組んでおり、欧州も虎視眈々と世界標準を獲得するチャンスをうかがっています。
こうした状況下で、日本企業の優れたコンポーネント技術がスマートグリッドの世界で決まってくる標準、規格にあわなくなれば、日本の産業は世界の市場から孤立し、一挙に「ガラパゴス化」してしまうおそれがあります。
たとえば、家庭部門でのHAN・HEMSでの対応の遅れは、日本の家電産業の国際競争力の低下に直結します。また、エネルギー面でも環境面でも大きな比重を占める自動車産業がプラグインハイブリッドカー(pHEV)や電気自動車(EV)に転換すると、自動車産業の構造がすり合わせ型からモジュール型に転換し、東京大学の藤本教授がよく指摘するように、すり合わせ型であることにより抜群の国際競争力を保持してきた日本の自動車産業の国際競争力を一挙に低下させる可能性もあります。
さらに、ピークオイルがほどなく到来し、他方、スマートグリッドが浸透する状況下では、ガソリンスタンドが充電スタンドに置き換わるかもしれず、日本の石油産業は、今までにない激変に見舞われるでしょう。
また、2009年3月に出された経済産業省の「ソーラーシステム産業戦略研究会」報告は、現在世界の4分の1となっているわが国の太陽電池セル生産量のシェアを2020年に3分の1に引き上げることにより、2020年時点で太陽光発電関連産業全体の産業規模を約10兆円、雇用規模を約11万人とすることを目標として掲げていますが、今後裾野が拡大する太陽光発電関連産業に対する産業政策の展開は、まだまだこれからというところです。
情報通信とインターネットの歴史を振り返ると、1990年代後半、世界各国の政府は、電話の加入者線のアンバンドリング(分離)によって新規参入を促進する規制改革を行ないました。
日本のNTTはその規制改革に忠実にアンバンドリングを行ない、ソフトバンクなどが参入してブロードバンドが急速に普及しましたが、アメリカの地域電話会社は政府を相手に訴訟を起こし、アンバンドリングを妨害するという対応を行いました。その結果、インターネットの祖国であるアメリカのブロードバンド化は大きく立ち後れ、オバマ政権では通信インフラの整備が課題になっています。
電力網については、アメリカの年間停電時間160分に比し、日本のそれは16分であることが象徴するように、今の日本の電力会社のサービス品質が高いことは事実ですが、アメリカがスマートグリッドによって送電網を双方向に情報化すれば、日米の立場が逆転するかもしれません。
いずれにしても、スマートグリッドという華麗にして壮大なオペラ劇のの幕が開いた今は、日本経済や産業界にとって激変期が到来しています。日本の産業及び政策当局は、インターネットの商用利用が始まって以降この15年間で、情報通信の世界で何が起こったかを分析し、そこから得られる教訓を早急に学び、生かす必要があります。
このように急速な進化過程のスマートグリッドにアプローチするには、“柔軟な産業政策”という発想をとることが必要です。
この点で気にかかるのは、日本のスマートグリッド政策が蓄電池に重点を置きすぎているのではないかということです。
たとえば、経済産業省の「低炭素電力システムに関する研究会」の報告書では、現段階の技術や現行の電力会社のシステムでは、系統側に蓄電池を設置したほうが追加コストは安く抑えられるという結果を示していますが、これはあくまで現行の技術水準やシステムを前提とした暫定的なものです。
蓄電池はコストと寿命等の点で難点があります。しかし、スマートメーターなどの導入などにより、きめ細かな計測データに基づき、無駄のない需要応答、ディマンドマネージメントが可能になれば、必要となる蓄電池の量は相当抑えることができる可能性があります。また、プラグインハイブリッド車や電気自動車が普及すれば、小口の需要家にとって蓄電池の役割を果たします。需要家は自動車として購入したものが蓄電池としても使用できるわけですから、追加コストは小さくなります。
また、きめ細かな電力使用量がわかれば、それに対応した料金体系にして、需要家にインセンティブが沸くような仕組みを取ることも可能です。
さらに、最小限の蓄電池を中核として、その蓄電池の過不足を隣接するルーターと人工知能を使ってリアルタイムかつ自律的にやりとりする「パワールーター」を使用して配電網を整備すれば、出力の平準化に必要なコストを下げられるだけでなく、既存の安定的な電力網を出力変動や停電のリスクから解放することもできます。
スマートグリッドにとって蓄電池は確かに重要ですが、それだけに依存しない仕組みにするほうが社会全体としての便益は増大します。あらゆる産業が参入できる仕組みを作ることで、国としての国際競争力を高めながら地球環境の保全に貢献し、需要家の便益を高めていくという姿勢が21世紀の産業政策の基本となるべきです。
蓄電池と同様の機能は、たとえば、燃料電池やヒートポンプの貯湯槽にエネルギー保管機能を持たせたり、自動車メーカーが需給調整機能をも前提にして電気自動車を開発したり、省エネ性能と調整機能に優れたスマート家電を開発したり、ICT関連企業が制御システムを開発したりすることげ実現できます。
スマートグリッドのロードマップを描く上においては、多様な技術開発を促す技術中立的な仕組みと柔軟な電気料金体系を構築する必要があるのです。
国としての国際競争力向上の観点からの産業政策の展開も重要です。オバマ政権のアメリカがスマートグリッドをアメリカ再生のイノベーション戦略の柱と位置づけているのは、かつてインターネットが世界の情報産業、産業構造を変えたように、今度はスマートグリッドが世界のエネルギー産業のみならず、産業構造を変える可能性があると見ているからです。日本の産業及び政策当局は、このことを肝に銘じて対応する必要があります。
確かに、現状においては、日本企業は、蓄電池、太陽光発電や省エネでは世界最高の技術をもっていますが、現在アメリカは、NISTを中心に短期に専門家を総動員する体制で、スマートグリッドの標準化、規格化に取り組んでおり、欧州も虎視眈々と世界標準を獲得するチャンスをうかがっています。
こうした状況下で、日本企業の優れたコンポーネント技術がスマートグリッドの世界で決まってくる標準、規格にあわなくなれば、日本の産業は世界の市場から孤立し、一挙に「ガラパゴス化」してしまうおそれがあります。
たとえば、家庭部門でのHAN・HEMSでの対応の遅れは、日本の家電産業の国際競争力の低下に直結します。また、エネルギー面でも環境面でも大きな比重を占める自動車産業がプラグインハイブリッドカー(pHEV)や電気自動車(EV)に転換すると、自動車産業の構造がすり合わせ型からモジュール型に転換し、東京大学の藤本教授がよく指摘するように、すり合わせ型であることにより抜群の国際競争力を保持してきた日本の自動車産業の国際競争力を一挙に低下させる可能性もあります。
さらに、ピークオイルがほどなく到来し、他方、スマートグリッドが浸透する状況下では、ガソリンスタンドが充電スタンドに置き換わるかもしれず、日本の石油産業は、今までにない激変に見舞われるでしょう。
また、2009年3月に出された経済産業省の「ソーラーシステム産業戦略研究会」報告は、現在世界の4分の1となっているわが国の太陽電池セル生産量のシェアを2020年に3分の1に引き上げることにより、2020年時点で太陽光発電関連産業全体の産業規模を約10兆円、雇用規模を約11万人とすることを目標として掲げていますが、今後裾野が拡大する太陽光発電関連産業に対する産業政策の展開は、まだまだこれからというところです。
情報通信とインターネットの歴史を振り返ると、1990年代後半、世界各国の政府は、電話の加入者線のアンバンドリング(分離)によって新規参入を促進する規制改革を行ないました。
日本のNTTはその規制改革に忠実にアンバンドリングを行ない、ソフトバンクなどが参入してブロードバンドが急速に普及しましたが、アメリカの地域電話会社は政府を相手に訴訟を起こし、アンバンドリングを妨害するという対応を行いました。その結果、インターネットの祖国であるアメリカのブロードバンド化は大きく立ち後れ、オバマ政権では通信インフラの整備が課題になっています。
電力網については、アメリカの年間停電時間160分に比し、日本のそれは16分であることが象徴するように、今の日本の電力会社のサービス品質が高いことは事実ですが、アメリカがスマートグリッドによって送電網を双方向に情報化すれば、日米の立場が逆転するかもしれません。
いずれにしても、スマートグリッドという華麗にして壮大なオペラ劇のの幕が開いた今は、日本経済や産業界にとって激変期が到来しています。日本の産業及び政策当局は、インターネットの商用利用が始まって以降この15年間で、情報通信の世界で何が起こったかを分析し、そこから得られる教訓を早急に学び、生かす必要があります。