橋本治とナンシー関のいない世界で

「上野駅から夜汽車に乗って」改題
とうとう橋本治までなくなってしまった。
平成終わりの年にさらに改題してリスタート。

深夜のマ○ド○ルドにて

2011-04-21 08:25:05 | 東日本大震災

深夜のマ○ド○ルドの2階席には、最近老人の一人客が多い。

それも老女が多い。場所柄なのかもしれないが、私がたまに行くマ○ド○ルドには多い。

昔はこんなことなかったと思う。

「そんな事知ってるよ」、なんて言わないでほしい。

なんで、ばーちゃんがこんな時間に、こんなところに何人も、それも一人でいるのだ。

 

そんな深夜のマ○ド○ルドは、テーブルの下にもゴミがちらつき、場末の空気を放っている。

ここ1、2年のここのマ○ド○ルドは、アメリカの貧困地区にあるマ○ド○ルドのようだ。

マ○ド○ルドだけではない、

最近増えたコンビニのイートインも、同様のうら寂しさを醸している。

こうした場所に入るとき、日本はアメリカになるのかなあ・・・と漠然と感じる。

 

マ○ド○ルドの商品を買い込み、

食べるんだかどうかもわからない紙袋を2つも3つもぶら下げて、

自分の席のまわりを行ったり来たり、独り言をつぶやいてるばーちゃん。

その対角線では、別のばーちゃんがテーブルを紙ナプキンで丹念に拭き、

手に持っていたペットボトルをテーブルに置き、他の荷物は椅子にきちんと乗っけて、

自分用の席をきれいにセッティングしてから、1階に商品を買いに行った。

その隣の席には、荷物をクッション代わりに腰にあて、

ほとんど寝ているばーちゃんがいる。

そして、その3人とで作られる四角形のもう1点に私がいる。

これは私の30年後か?

珈琲を一口飲んで咳き込んだ。

 

ふと顔を上げると、さっきまで徘徊老女のいた席にやってきたのは

かかとの高いポックリ靴に、ストレートの盛り髪。

引田天功みたいなアンドロイド女性。美人だ。

 

ものすごく遠くに聞こえるBGM。話し声も少ない。

3人で来ている若い男の客も、3人並んでゲームボーイをやっている。

 

よく見れば、私の目の前の老女2人は、

かなりなファッションセンスの持ち主だ。

 

ほとんど寝ている方は、黒い薄手のダウンジャケット風、

ズボンは渋いピンク色の細いコーデュロイ。

短めで、くるぶしが見えている。

靴下はくるぶしがちょっと隠れるくらいのショート丈。

腰にクッション代わりにあてているバッグは、

ピンクとブラウン系のエミリオプッチ風柄のナイロン製。

ピンクの毛糸の帽子をかぶってる。

 

もう一人の老女は白髪のアップ髪、

薄汚れてはいるけれど、足元は白地に赤い星コンバースのローカットの皮バッシュ。

2本線のカーキのジャージをふくらはぎまで折上げて、

その上に同じカーキ色の膝上丈のスカート、

そしてまた同じカーキ色のジャンパーを着ている。

 

放射能に萎縮する東京で、

カーキ色の老女は、足を組み腕を組んで、周りの客を品定めするように見渡す。

ピンクの帽子のばーちゃんと、アンドロイドと私は、

眼下を流れてゆく空車のタクシーと青い大きな清掃車を

ほおづえついて眺めている。

 

店内放送が入る。

3階客席は1時半をもって店内清掃のため閉店だという。

しばらくすると、2階席も2時までという。

店頭には24時間営業の文字。

「節電」が「非情」という言葉に思えた。

 

気がつけば、隣の席の引田天功はいなくなり、

鋲のついたジーパンに皮ジャンのロカビリー男に変わってた。

ロカビリー男は席を立ったが、

自分のトレーを片付けようともせず出て行った。

 

2時3分前、突然店内がざわめき始める。

じいさんばあさんが立ち上がる。

 

トイレから出てきたじいさんは紙ナプキンで手を拭いている。

ばーちゃんは紙ナプキンを2枚とって、トイレに向かう。

そしてゆっくりゆっくり身支度を整えると、

目の前のじゃまなテーブルをわざとのように押しのけて出て行った。

みんなどこへいくのだろう。

もう四月も終わりだというのに、やけに寒い。

 

明日は我が身という言葉には、

そうはなりたくはないというニュアンスがあるが、

なりたいとか、なりたくないとか

そんな感情とは別な次元に、マ○ド○ルドの2階席は浮いている。

 

年寄りがいなくなった2階席で

モップをかける店員は、

明日もスマイルを売り続けるのだろうか。