ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

ゲゲゲの鬼太郎

2023年12月25日 | 本を読んだで

 水木しげる      朝日ソノラマ

「ゲゲゲの鬼太郎」といえばテレビアニメにもなって、すっかり国民的ヒーローになった人気モノであるが、「墓場の鬼太郎」の時代はかなり怪奇色の強い漫画であった。少年マガジンなどの少年週刊誌に連載されるようになって、人口に膾炙されるにしたがって、怪奇色が薄れ、お子様向けになっていった。
 今回読んだ、この版の1巻目はかなり怪奇である。冒頭の「幽霊一家」の章は、鬼太郎誕生とオヤジがなぜ目玉になったのかが、描かれるのだが、だいぶんとおどおどろしい図柄となっている。水木しげるといえば、手塚治虫と並び称されるほどの国民的漫画家となったが、決して誰にも安心無害、お口に甘い漫画家ではない。かなり怪奇でホラーな漫画家なのだ。手塚にしても、女性のヌードもけっこう出てくるし、エロい漫画も描いている。漫画に限らず、優れたエンターテインメントは多少の毒が含有されているものだ。薬100%の薬など薬にも毒にもならない。少しの毒があるからこそ薬になるのだ。
 水木は生前「ゲゲゲの鬼太郎」で一番好きなキャラはねずみ男だといってたが、この漫画で最も重要なキャラはねずみ男だろう。鬼太郎は主役であるから「正義の味方」というキャラを演じなければいけない制約がある。ねずみ男は主役ではないので、そういう制約がない。自由に好きなように動かせるキャラである。だから水木は鬼太郎よりねずみ男を描いてる方が楽しかったのだろう。
 では、鬼太郎=優等生、ねずみ男=本音の男、かというとそうではない。主役の鬼太郎も、ええ子ちゃんでは決してない。ガキのくせにタバコを吸ってるし、大人のエライさんにえらそうな口をきく。
 テレビアニメでしか鬼太郎を知らない人が、原作の漫画を読むと鬼太郎ってけっこう生意気でイヤなヤツであることが判るだろう。