ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

ある男

2023年12月04日 | 映画みたで

監督 石川慶
出演 妻夫木聡、安藤さくら、窪田正孝、清野名菜、柄本明

 マグリットの絵で映画が始まりマグリットの絵で映画が終わる。「複製禁止」という絵である。男の後ろ姿を描いた絵である。男の顔は判らない。名前も判らない。鏡を見ているが鏡の中の男も後ろ姿だ。
 この映画は「ある男」の名前をめぐる物語である。名前。私は二つ名前を持っている。雫石鉄也という名前と本名。雫石鉄也と本名の二つの名前になって50年ほど経つ。本名だけの時よりずいぶん時間が経った。雫石鉄也はペンネームである。アマチュアで下手ながら小説を書くときは雫石を使っている。またSFのファンダムで活動する時も雫石だ。これは別段本名がイヤだからではない。小説を書いたりSFファンである時は別人に仮装したいからである。ところが中身がおんなじである。
 小生のような無名のSFファンでなくても本名とは別の名前を持っている人は多くいる。作家、芸能人、プロスポーツの選手など。彼らは別に本名を捨てたくてペンネーム、芸名を名乗っているわけではないだろう。
 本名を捨てたい男がこの映画の登場人物である。その男は名を捨てたいだけではない。それまでの人生を捨てたいのだ。
 里枝は離婚して男の子と二人暮らし。絵を描くのが趣味の谷口大祐と再婚した。大祐は事故で急死。一周忌大祐の兄が弔問に来た。兄は大祐の遺影を見て、これは大祐ではないという。驚愕する里枝。では私の夫はだれなんだ。離婚のとき世話になった弁護士の城戸に調査を依頼する。城戸の調査で真相が明らかになる。そこに名前を人生を捨てたい人々がいて、それを仲介する人までいる。
 世襲。政治の世界で問題になっている。世襲のボンは親の血を受け継いでいることを売り物にしているが、マイナスの世襲もあるのだ。嫌悪すべき血を受け継いだ息子もいるのだ。
 終わり方がいい。城戸がとあるバーで初対面の男と話している。私は谷口大祐。でも本当の名は・・・・。
 名前ってなんだ。