ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

負けくらべ

2024年05月14日 | 本を読んだで
 
志水辰夫           小学館

志水辰夫は冒険小説ファンの小生が、そのうち読みたいと思っていた作家だった。で、初めて志水の作品を読んだわけ。ハードボイルド作家だとは聞いていたが、一読後の印象は小生の欲するハードボイルドとは少し違和感を感じたしだい。
 主人公は初老(60は超えているだろう)の男性介護士三谷。介護施設に属しているのではなくフリーの介護士だ。三谷は特殊な能力を持っている。対人関係能力、調整力、それに記憶力。舞台のそでからホールの客席を見る。それだけで客の顔をすべて覚える。
 三谷の知人に元内閣情報調査室の男がいる。その男に2枚の写真を見せられ、ホールの講演会にいって、2枚の写真に写る同一人物がホールにいるか判別する仕事を依頼される。
 ハーバード卒のIT企業家大河内牟禮。三谷は大河内に見込まれ仕事のパートナーとして大河内の会社に呼ばれる。この大河内の会社は東輝グループの傘下。巨大企業グループのオーナーは大河内の母の尾上鈴子。90才にして経営に辣腕をふるう化け物ばあさんである。
 この東輝グループ。尾上家、大河内家の骨肉の内紛に三谷は巻き込まれる。と、これをこってりと寿行的熱さで描いてくれたら、面白いと思うのだが、わりとサラサラと書いていた。これでいいのである。著者の志水氏は86才。ワシもこのトシである。若いころはこってり濃厚とんこつラーメンが良かったが、トシ取るとあっさりさっぱり盛りそばの方が口にあう時もある。とは、いいつつも、もちろんワシ=雫石はまだまだじいさんじゃない。こってい油ギトギトの揚げもんも大好きである。
 

電通マンぼろぼろ日記

2024年05月01日 | 本を読んだで

 福永耕太郎         三五館シンシャ

 だれでも知っている大企業でありながら、日本に害毒を流している企業はいくつかあるが、この本の著者が働いていた電通も害毒企業であることが、この本を読んで判った。
 電通はいうまでもなく広告代理店。クライアントから宣伝広告の依頼を受け、広告を制作して、新聞放送などのメディに流すのをなりわいとしている。このクライアントからの受注、メディへの提供といった時点で、よからぬ金品が動くようだ。ホイチョイプロダクションの「気まぐれコンセプト」という漫画。小生はあれは冗談だと思っていた。ところがこの本を読んで、あれはぜんぶ本当のことだと判った。本当、いや現実は漫画より悪質だ。
 宣伝広告をうちたい企業が、複数の広告代理店にプレゼンを要請する。プエレゼン合戦となる。こういう場合、よいプレゼンをしてよい広告を創れそうな広告代理店より、企業の宣伝担当者への接待で発注先が決まる。電通はその接待が一番盛大であったということ。創った広告はメディアに流さなければ一般消費者に届かない。どういう具合にメディアに流すか。ここで新聞や放送関係者がこんどは電通の担当者を接待する。
 パソコンメーカーのF社が新しいパソコンを発売する。広告をうたねばならない。テレビのCMもしよう。CMタレントはだれがいい。F社の広告担当重役が夫婦そろって「不器用な」大物俳優Tのファンだった。CMタレントはこの一件だけでTに決定。そのCMは今でも動画で見られる。
 一事が万事。日本の宣伝広告は情実、接待、担当者の個人的感情、好き嫌いで決まるらしい。そういう風潮を創ったのは電通である。
 この商品を売りたい。純粋に売れる広告をうつには、どこの広告代理店に任せるべきか。どういう広告が真に効くか。CMタレントに最適なのはだれか。こういうことを純粋に考えて広告を行うべきなのに、電通はそれを歪めてしまった。で、企業の宣伝広告費の多くがムダに膨らみ、それが商品価格に反映して、われわれ消費者に不利益をもたらしているのである。
 かって電通は社員の一人や二人が過労死するのが当たり前であった。高橋まつりさんの自死によって、さすがにいまのところは反省しているようだが、本当だろうか。だいたいが、こんなバカが社長やっていた会社である。ろくなもんではない。
 著者は高給を取っていたが、長年の電通マン生活で、アル中になって急性劇症膵炎になって、離婚して、自己破産した。自業自得である。電通は大学生の就職したい企業ランキングで上位だ。そういう大学生にこの本を読んでもらいたい。

最後の三角形 ジェフリー・フォード短編傑作選

2024年04月19日 | 本を読んだで
ジェフリー・フォード    谷垣暁美編訳       東京創元社

 昔、早川から「異色作家短編集」という名叢書が出ていた。2000年代に入って文庫化されたが、小生たち古ダヌキSFもんの記憶では、1960年代(だったかな?)箱入りでB6版という手ごろな大きさの叢書であった。ブラウン、ブラッドベリ、マシスン、フィニイ、ボーモントといった、ひとくせふたくせある作家たちが集まっていた。
 この短編集はいわば、ひとり異色作家短編集といったところか。フォードはなかなかな芸達者な作家であることが判る。SF、ホラー、ファンタジー、などいろんな芸で読者を楽しませてくれる。
「アイスクリーム帝国」ネビュラ賞受賞。共感覚SF。
「マルシュージアンのゾンビ」SFホラー。
「トレンティーノさんの息子」純ホラー。
「タイムマニア」ミステリーホラー。
「恐怖譚」怪奇幻想。
「本棚遠征隊」ファンタジー。
「最後の三角形」オカルト。
「ナイト・ウィスキー」奇妙な味。
「星椋鳥の群翔」オカルトミステリー。
「ダルサリー」50年代SF。
「エクソスケルトン・タウン」SF。
「ロボット将軍の第七の表情」SFショート・ショート。
「ばらばらになった運命機械」SF
「イーリン=オク年代記」ファンタジー。
 の、14編が収録されている。エンタメ小説のデパートみたいな短編集である。



非情の女豹

2024年04月16日 | 本を読んだで

大藪春彦         光文社

女性が主人公の大藪作品である。小島恵美子31才。エミーと呼ばれる。ラテン系の血をひく美女。身長167センチ体重50キロ、バスト98ウェスト58ヒップ94。エミーはこの肉体だけでも強力な武器となる。
 本職は動物学者。大学の准教授。東京は元麻布の高級マンションに住み、車を3台持っている。趣味はモータースポーツ。
 この恵美子、国際秘密組織スプロ-SPRO(スペシャル・プロフィット・アンド・リヴェンジ・アウトフィッターズ)の日本支部のエース。なにをしている組織か?巨悪をこらしめて、ため込んだ金をかすめとる。法律の埒外の組織である。だから恵美子は銃器も持ち殺人拷問もする。
 その恵美子の仕事の対象となった三つの巨悪。国際的な石油利権をめぐって、国民の血税を食いもんにしている高級官僚ども。
 巨大な医療法人。患者を食いもんにする。保険請求をごまかして不正な金をためる。法人のトップは法王と呼ばれる歯科医のボス。そしてそのボスの息子たち。こやつらはマゾ、サド、死姦マニア、などなど変態人間ばかり。
 相互銀行。偽装銀行強盗で顧客の金を私物化する銀行幹部ども。
 こうした悪者どもを恵美子がたっぷり、お仕置きをしていく。もちろん、お仕置きといっても、お尻ぺんぺんするわけではない。大藪作品の主人公が悪人にするお仕置きである。
 そして最後に大藪ファンに大きなプレゼント。なんとあの男が出てきて、恵美子と相まみえるのだ。「物凄い男」といっていたが、なるほど確かにヤツ「物凄い男」だ。小島恵美子の相手をできるのは、あの男しかない。

SFマガジン2024年4月号

2024年04月12日 | 本を読んだで

2024年4月号 №762       早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター
1位 聖域            榎田尤利
2位 一億年先にきみがいても  樋口美沙緒
3位 幽霊屋敷のオープンハウス ジョン・ウィズウェル 鯨井久志訳
4位 テーマ          草上仁
5位 ラブラブ☆ラフトーク   竹田人造
6位 さいはての美術館     ユキミ・オガワ 勝山海百合訳
7位 テセウスを殺す      尾上与一
8位 監禁           莫晨歓 楊墨秋訳

連載
空の園丁 廃園の天使Ⅲ(第22回) 飛浩隆
マルドゥック・アノニマス(第52回) 冲方丁
戦闘妖精・雪風 第五部(第12回 懐疑と明白) 神林長平
ヴェルト 第一部 第四章(承前)  吉上亮
小角の城(第74回)         夢枕獏
幻視百景(第47回)         酉島伝法

特集 BLとSF2
特集解説               水上文
桑原水菜インタビュー         聞き手&構成 嵯峨景子
少女小説とBLの接点         嵯峨景子
高河ゆんインタビュー         聞き手&構成 瀬戸夏子
木原音瀬論—「心」と「個」の領域侵犯 瀬戸夏子
地獄で見る夢—オメガバースBLについて 水上文
BL世界から「輸出」されたオメガバース
—ティーンズラブ(TL)への進出と「再解釈」を巡って crop
最新BLコミックおすすめガイド セメントTHING 
翻訳SF&ファンタジー発・BL行・夜行列車 おにぎり1000米

 2022年4月号以来のBL特集である。前回の特集は小生はほめている。百合あるいはBLは新しい人間同士の関係を描く。これはSFでしか描けない表現方法だといった。さて、それから2年。BLSFなるものがいかなる進化変貌を遂げたのか期待してこの号を読んだ。
 正直、高望みであったというのが感想である。BL=男と男の関係。それをむりやりSFに仕立てたという印象を受けた。執筆依頼があった雑誌がSF専門誌だから、なんとかかんとかSFに仕立てた。むりにSFにしたため小説としての出来を損ねている。今回はダメね。  


ロボットの夢の都市

2024年03月26日 | 本を読んだで
ラヴィ・ティドハー  茂木健訳      東京創元社

 ネオム。サウジアラビアの砂漠に計画されている壮大な未来都市である。いや、もう実際に着手してるのかな。知らんけど。
 未来。どれぐらい未来かというと、人類は太陽系の各惑星にまで版図をひろげている未来である。未来都市ネオムも過去都市となった。スラムといってもいい街。小生はスターウォーズの惑星タトウィーンのモス・アイズリーの街をイメージした。
 何度も大きな戦争や紛争があった。それで使われた戦闘用ロボットは、戦争が終わり用なしとなった。飼い主を失ったロボットたちは野良ロボットとなって各地に棲息している。その野良ロボットが一台、ネオムにやって来た。ネオムの花屋でアルバイトしているマリアムからバラを一輪買う。
 物語を駆動するのは、このマリアムという女性と砂漠のジャンク屋(ま、砂漠のガタロですな)の少年サレハ。そして野良ロボット1台としゃべるジャッカル。どうです。なかなか魅力的な設定だろう。この設定におもしろいキャラ。久々にSFらしいSF読んだ。満足。
 

エニグマ奇襲指令

2024年03月21日 | 本を読んだで

マイケル・バー=ゾウハー 田村義進訳     早川書房

 スパイ活劇、戦争冒険小説、大泥棒もの、エンタメ要素がコンパクトにまとまった佳品である。
 第二次世界大戦。ドイツはロケット兵器V2を開発。このままじゃ英国は大きな被害を受ける。敵の通信を傍受暗号を解読するには極秘暗号作成機エニグマを早急に手に入れる必要がある。
 男爵フランシス・ド・ベルヴォアール。父の代からの大泥棒。ゲシュタポの金庫から金塊を盗み出した泥棒の天才。英国情報部MI6はこのベルヴォアールにエニグマを盗み出してくれと依頼する。報酬は30万ポンド。エニグマを守るのはドイツ国防軍情報部ルドルフ・フォン・ベック大佐。
 この二人のキャラがいい。やっぱりこの手の冒険小説は対決する二人の男の造形が大切だ。ベルヴォアール男爵は泥棒はすれど非道はせず。泥棒稼業で拳銃を持ったことがない。人を殺めたことがない。大好物は危険で困難な仕事。
 対するベック大佐。反ヒトラーの秘密組織の一員。ゲシュタポを人でなしの人殺し集団と嫌う。元ロンメル麾下の機甲大隊の指揮官というエリート軍人。パリの文化をこよなく愛する夢想家ロマンチスト。
 この二人にそれぞれの上官。それに男爵の親友の元ボクサー。ゲシュタポに目をつけられているユダヤ人の若い美女。こういう魅力的なキャラたちが綾なす華麗なスパイ泥棒活劇である。300ページほどだからすぐ読める。ご一読をお勧めする。
 

影武者徳川家康

2024年03月07日 | 本を読んだで

隆慶一郎          新潮社

 戦国の覇者徳川家康は関ケ原で死んでいた。いわゆるSFでいう歴史改変モノのようだが、作者の隆はプロパーのSF作家ではないので、SFっぽさはない。なんでも徳川家康は影武者説がよく出ていたそうな。今川で人質になっていた松平元康と桶狭間以降の家康は別人だったという説がある。
 本書では家康は関ケ原で刺客に暗殺された。ここで外見が家康にそっくりな世良田二郎三郎という人物が徳川家康に成り代わる。総大将が死んだことは極秘にしなければならない。二郎三郎は徳川の重臣本多正信とは古くからの知り合い。二郎三郎を影武者に推挙したのは本多正信なのだ。
 いまいる殿=家康は実は影武者二郎三郎。このことを知るのは正信、忠勝の両本多。榊原康政、井伊直正といった重臣。お梶の方、阿茶の局たち一部の側室、それに三男徳川秀忠と、ごく一部の人間だけ。
 二郎三郎は家康に成り代わり戦国乱世を終わらそうとする。彼は元々主を持たぬ定住地を持たぬ「道々の者」で鉄砲一丁持って戦場を行く傭兵「いくさ人」である。それが成り行きで天下人徳川家康になってしまった。二郎三郎は家康の遺志を継ぎ平和を希求する。大阪の豊臣秀頼とは共存共栄、徳川豊臣の力のバランスで平和を保とうとする。
 この二郎三郎の最大の敵となったのが徳川秀忠。秀忠は二郎三郎を亡き者にし大阪の豊臣を滅ぼそうと画策する。
 と、こういうお話の構図である。で、二郎三郎の味方は、関ケ原で死ななかった島左近。武田の忍びの生き残り甲斐の六郎。仕えていた北条が滅んだあと箱根山中にこもる風魔小太郎と先代小太郎の風魔風斎と風魔一族。
いっぽう、秀忠が実行部隊として使うのが柳生宗矩と柳生一族。こういうお話では、結末はみんな知っている。改変歴史SFならともかく、信長は本能寺で死なねばならず、武田信玄は上洛途上で死に、大阪城は落城、豊臣秀頼は自害する。こういう事実は動かせない。では、なぜ家康=二郎三郎が豊臣との共存を願っていたのに、豊臣は滅んだのか。この歴史的事実に持って行く説得力は充分にある。
 二郎三郎、島左近、本多正信、甲斐の六郎、風魔風斎、お梶の方、こういった主人公サイドのキャラはもちろん、徳川秀忠、柳生宗矩、淀殿といった悪役側のキャラも、みんな魅力的だ。

旬のカレンダー

2024年02月28日 | 本を読んだで

旬の暮らしをたのしむ会          ダイヤモンド社

 なんでも日本がドイツにも抜かれてGDPが4位になったとか。日本は貧しくなったと嘆いているムキもおられようが、本書を読むと日本もけっこう豊かなんだなと思う。金銭的にはたしかに金満国ではなくなったが、これだけ楽しみごとが多い国はあまりないだろう。いかなることを楽しむかが問題なんだけど。
 日本には四季がある。暑い暑い熱中症を心配しなくてはならない夏。寒い寒い低体温症に気をつけるべき冬まで、くっきりと季節が区分化できる。1年12ヵ月、日本の自然は毎月違う顔を見せてくれる。
「旬の野菜」「旬の魚介」「旬の味」「旬の菓子」「旬の花」「季節のレジャー」「季節の家しごと」「季節の行事」と、月ごとに八つの項目をきれいなイラストつきで紹介。12×8、あんまりお金をかけずに、年間を通じて96もの楽しみごとがあるとこの本はいっている。これは日本の風土自然がそれだけ豊であるからこそだ。
 と、喜んでいるのは今のうちだけかもしれない。大方の諸賢はお気づきだろうが、今の日本は四季の国ではなく、二季の国なっている。冬だ、寒いな。あ、暖かくなってきた、と思ったら次の瞬間には汗が流れ暑い夏になった。涼しくなったと思ったら秋をとばして冬。チキュウオンダンカの影響であろうか。
 小生が住まいおる神戸の春の風物詩はイカナゴの新仔のクギ煮。小生も大好物で春になるのがまちどおしい。クギ煮がないと神戸には春は来ない。このイカナゴの新仔、年々不漁で漁獲量が大幅に少なくなってきている。昔はキロ1000円でお釣りがあったが、昨年解禁日に明石まで買い出しにいったが、キロ4000円!もはや庶民の魚じゃなくなっている。とうとう今年は大阪湾のイカナゴ漁は休漁。播磨灘は3月9日に解禁するとのことだが、ごく短い漁期になるだろう。今年の神戸には春は来ないかもしれない。
 このままじゃ日本は四季も旬もない国になってしまう。憂慮すべきことだ。

セント・メリーのリボン

2024年02月09日 | 本を読んだで

 稲見一良    光文社

 葛飾北斎は90才で亡くなったが、死にのぞんで北斎は「あと10年、いや5年生かせてくれればワシは本物の絵描きになれたのに」といったとか。北斎が100まで生きたらどんな絵を描いたのかぜひ見たいものだ。
 90まで生きた北斎の絵は、充分に楽しめるが、60代でなくなり、70代まで生きて活動していたら、素晴らしい仕事をしたのかと思うと、まことに惜しい人が二人いる。  
 先代の六代目笑福亭松喬師匠。笑福亭の噺家だけれど,アクの強さはなく、軽妙洒脱な芸風で70代になってから、さらに良い噺家になっていただろう。惜しい。
 もう一人は稲見一良。わずか9冊の著作を残して63才で亡くなった。6代目松喬師匠の落語は弟子の7代目松喬師匠がしっかり受け継いでいるが、稲見一良の小説は稲見一良だけのもので、もう稲見一良の小説は読めない。まことに残念である。
 その稲見一良の短編集である。稲見の小説は「大人の男の童話」である。「少年」を体内に残しながら、きれいなモノ汚いモノ、いろんなモノを見て体験して成長して大人の男になった。でも男の体内には純真な「少年」が盲腸にように尾てい骨のように、外から見えないが残っている。稲見の小説はそこに作用する。だから、中身も外観もガキには稲見の良さは判らないだろう。
「焚火」
「花見川の要塞」
「麦畑のミッション」
「終着駅」
「セント・メリーのリボン」
 の、5編が収録されているが。いずれもハードボイルドで優しく、やわらかい大人の童話である。
「焚火」逃げる男と、かくまう老人。
「花見川の要塞」線路がないのに転轍機がある。草原にトーチカ。15才のハラダサンペイ軍曹。かつぎ屋のポウおばあさん。夏のファンタジー。
「麦畑のミッション」爆撃機B17。脚が出ない。胴体着陸。下部銃座の銃手が銃座からでれない。彼を死なさず着陸するには。
「終着駅」赤帽の叔父がヤクザの金をばばした。
「セント・メリーのリボン」猟犬探偵竜門卓。盲導犬の探索を依頼される。その盲導犬は薄幸な少女のもとにいた。その盲導犬は少女の父親に連れ去れていた。父と子。男の優しさ。読了後涙を禁じえなかった。
 ハードボイルドって優しいものだ。かっこいいとは、こういうことをいう。うう。ええなあ

SFマガジン2024年2月号

2024年02月08日 | 本を読んだで

2024年2月号 №761   早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター
detach 荻堂顕 未読
魂婚心中        芦沢央 評価に値せず
恋は呪術師       大滝瓶太 評価に値せず
死人島の命題      森晶麿 評価に値せず
ここはすべての夜明けまえ 間宮改衣 評価に値せず

連載
空の園丁 廃園の天使Ⅲ(第21回) 飛浩隆
マルドゥック・アノニマス(第51回) 冲方丁
戦闘妖精・雪風 第五部(第11回 対抗と結託〈承前〉) 神林長平
ヴェルト 第一部 第四章 吉上亮
小角の城(第73回)        夢枕獏
幻視百景(第46回)        酉島伝法

特集 ミステリとSFの交差点
座談会 ミステリとSFと、4人の小説家 芦沢央×小川哲×柴田勝家×斜線堂有紀
SF読者にすすめるSFミステリ作品ガイド

 まず、第11回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作の「ここはすべての夜明けまえ」ひらがなを多用した独特の文章であるが、非常に読みにくく、それに気を取られて話が見えにくかった。読むのが苦痛であった。
 特集に関連した3作品は、ミステリとSFのつまらなさが合体した愚作。この号は不作だ。


処刑戦士

2024年01月19日 | 本を読んだで

 大藪春彦     徳間書店

 ワシは車大好き人間であるが、トヨタの車は大嫌い。生まれてから一度もトヨタの車を運転したことがない。マツダとホンダがマイカーだった。ワシが管理責任者の会社のフォークリフトももちろんトヨタではなく三菱ロジネクストだ。
ウチの電気製品にはパナソニックはない。テレビはソニー、冷蔵庫は三菱、掃除機はダイソンだ。なんでか。ワシはなんでも1番とかトップとかいうメーカーが大嫌いなんだ。理由はない。ともかく嫌いなんだ。
 それからワシが嫌いなもん。えらそうなことをゆうて人に説教をたれるオジン。なんとかの首領とかドンとかいわれてるヤツも大嫌い。だからこの小説はワシの好みにドンピシャ。
 PソニックはむかしはM下電器といってた。それの創業者M下Kの助は経営の神様といわれ尊敬を集め(ワシは尊敬してない)PH×なんいう説教雑誌を出したりしてM下政経塾なんていう政治家育成機関をつくったりした。
 日本のドンといわれたS川R一。日本S舶振興会などいう競艇の元締めでしこたま金を持っていて。「人類は一家世界は兄弟」とか「戸締り用心火の用心」などといいながら「親に孝行」と説教をたれていた。
 この小説の主人公は4人。かって自衛隊のレンジャー部隊の教官だった連中。トラブルがあって自衛隊を退職。その卓越した戦闘技術をいかして海外で傭兵をしていたが、日本に帰ってきて、巨悪からため込んだ悪銭を取る仕事をしている。
 船舶事業発展会の竹山。全日本スピードボート協会からのあがりをため込んで莫大な金を持っている。この竹山、日本のドンといわれ与党の有力政治家を思うままに動かし時の首相さえ逆らえない。この竹山の屋敷に処刑戦士4人が乱入。えらそうなことをいってる竹山をけちょんけちょんに痛めつける。
 マンモス企業杉山電工の創業者杉山徳一郎。経営の神様といわれ、報産報国と道徳の普及をとなえている。が、杉山の本性はすけべ。神戸の暴力団山野組を使って女子大生を拉致監禁夜な夜な淫行にふけっている。いたずらが過ぎて女子大生を死なせたり妊娠させたら山野組に処理してもらう。こんな杉山の悪行がなぜばれないか。杉山電工は日本最大のマスコミ機関の広告主だから。
 その杉山の屋敷も4人が襲う。杉山もギタギタに痛めつけて大金を奪う。あと患者を食い物にしている悪徳病院T州会病院の理事長も4人が襲う。
 こうしてえらそうなことをゆうてるヤツを順々に懲らしめてため込んだ大金を奪う。まさに胸がすくのである。


大江戸ミッション・インポッシブル 顔役を消せ

2024年01月17日 | 本を読んだで

 山田正紀  講談社

 山田正紀は現代の日本の最高のエンターテインメント作家といっていいだろう。小説で楽しませるワザは人間国宝級の職人仕事を思わせる。出発はSFだが、ミステリー、冒険小説、ホラー、時代劇、いろんなエンタメ分野の小説で読者のご機嫌をうかがってくれる。
 その山田正紀が書いた時代劇である。めっぽう面白いのである。主人公は江戸の南町奉行所の同心。牢屋番という最底辺の業務を行う川瀬若菜。若くいささか頼りない。でも、それは表の顔で、裏の顔を持っていた。と、いうテレビの「必殺シリーズ」みたいな設定だが、そこは山田正紀、そんな単純なもんではない。
 江戸の闇の組織泥棒寄合は二つの組織に別れていて、共に天を抱かぬ間。川瀬はその一方の「川衆」の棟梁。もう一方の「陸衆」と暗闘をくり広げる。
七つの顔を持つ女「七化けのおこう」スゴ腕の殺し屋「かま」一人で三人、三人で一人の吉原の顔役「灰かぐらの茂平」足で刃物を使う殺人太鼓持ち「乱亭七八」川瀬の上司で捕縄術の達人「椹木采女」絶世の美女花魁「姫雪太夫」と、いったひとくせもふたくせもある連中がくんずほぐれつの死闘を繰り広げる。

紙魚の手帖 GENESiS 2023 AUGUST voi.12

2024年01月16日 | 本を読んだで
2023 AUGUST vol.12 東京創元社

夏のSF特集
第14回創元SF短編賞 選評 宮澤伊織・小浜徹也
受賞作 竜と沈黙する銀河  阿部登龍

くらりvsメカくらり     青崎有吾
記憶人シィーの最後の記憶  柞刈湯葉
ローラのオリジナル     円城塔
扉人            小田雅久仁
手の中に花なんて      笹原千波
この場所の名前を      高山羽根子
登録者数完全破壊してみた  宮澤伊織
冬にあらがう        宮西建礼
英語をください       アイ・ジアン 市田泉訳

 上記のように10篇読み切り短編が載って1540円。SFマガジンよりコスパは良い。
 まず、受賞作の「竜と沈黙する銀河」未来、食料問題は完全に解決。家畜は食用ではなくぜんぶ愛玩動物。競馬もなくなる。ここは竜が実在する世界。竜でレースをする。設定とアイデアは魅力的だが、後半息切れ。竜頭蛇尾な受賞作だ。
 あと、印象にのこった作品を上げる。
「くらりvsメカくらり」実在の出版社楽屋ネタおふざけ。あと、「扉人」記憶人「シィーの最後の記憶」「冬にあらがう」などは印象に残った。 

2023年に読んだ本ベスト5

2024年01月03日 | 本を読んだで
 小生は本読みである。常に本を持っている。本を持たずに外出することは、まず、ない。外出すると、すきまな時間がかなりある。電車の待ち時間。電車に乗っている時間。医者の待合室。外食したときの料理が出てくるまでの時間。去年、ポルトガル料理を食べに行ったことがある。ポルトガルの時間の流れは日本とは違うようで。コース料理で前菜からデザートまで1時間以上かかった。こんな時でも料理を待っている間は本を読めば時間をつぶされるのだ。イラチの小生にとって本は必須品なのだ。
 さて、昨年2023年に読んだ本ベスト5は以下のとおり。順不同。

お家さん
 かって神戸に日本一の鈴木商店という巨大商社があった。(登記上は今も存在している)その代表者鈴木よねと稀代の大番頭金子直吉。鈴木商店をめぐる波乱万丈の大河小説。

水車小屋のネネ
 理佐と律の姉妹はいい人たちと1羽のしゃべる鳥に見守られて人生を過ごす。40年のここちよい時が流れる。

A-10奪還チーム出動せよ
 出色のカーアクション小説。ドイツが東西のころ。500馬力のばけもんフォードで東ドイツ領内を逃げ回る。追いかけるのはソ連軍と東ドイツの警察。

風神雷神 Juppitr,Aeolus
伝奇冒険アート小説。半村良の伝奇、田中光二の冒険。稲見一良のロマン。全部のせ。

ソース焼きそばの謎
 ソース焼きそばから世界が見えるのだ。ソース焼きそばのことしか書いていない本。だそれでもめっぽうおもしろいのだ。大労作。