自殺者が急増している。1~3月の減少傾向から一転、4~6月は3カ月連続で前年同月を大幅に上回った。東日本大震災の影響との見方もある。津波で自宅を失い無理心中した高齢夫婦、放射能汚染で野菜の摂取制限が出された翌日に自殺した農家…。ただ、震災との因果関係を示す明確なデータはなく、政府は対策に生かすため詳細な情報収集に乗り出した。
震災から3カ月の6月11日、福島県相馬市の酪農家の男性(55)が自殺しているのが見つかった。フィリピン人の妻と息子2人は福島第1原発事故の影響でフィリピンに帰っていた。「原発さえなければ…」。男性は堆肥小屋の壁にこう書き残していた。
計画的避難区域に指定された同県飯舘村では4月中旬、102歳の男性が死亡しているのが見つかった。家族が村外に避難し、離れ離れで暮らしていたことを苦にした自殺とみられている。6月下旬には「老人はあしでまといになる。お墓にひなんします」と遺書に記し、自殺した南相馬市の93歳の女性もいた。
警察庁のまとめでは、福島県内の自殺者数は4月以降、3カ月連続で前年同月を上回っている。特に5月は40%近い上昇率を示しており、震災の影響をうかがわせる数字といえる。
さまざまな相談に乗る「福島いのちの電話」の渡部信一郎事務局長(63)は「相談の内容が震災前よりも深刻度が高い」と指摘する。「親類宅に避難しているが人間関係がこじれ、悩んでいる」といった震災に直接関係するもののほか、精神疾患の人が震災の影響で病状が悪化したケースもあるという。
ただ、同様に震災の被害が大きかった岩手、宮城両県は1~6月のすべての月で前年比減少か、横ばいになっており、福島県の状況とは異なる。内閣府経済社会総合研究所が警察庁の資料をもとに5月の自殺者の住所地などを分析したが、被災者が他県の避難先で自殺しているような数字は得られなかった。
むしろ、住所地別で大きく増えていたのは神奈川や愛知、千葉などの都市圏で、男女、年齢別では30代と20代の女性が増加。動機も経済問題より健康や勤務問題が目立っていた。被災3県でも共通した傾向はみられないという。
内閣府自殺対策推進室の担当者は「震災後の暗いイメージや先行きの不安感など、震災が影響を与えている可能性も考えられるが、震災と自殺者の増加を明確に結びつけるデータはない」と話す。
このため、内閣府は6月以降の自殺者について、警察庁に対し、被災者か否かや遺書の内容など、震災との関係を示すデータを収集するよう要請している。
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