「火星の人 上下」 アンディ・ウィアー
早川書房 2015.12.15
THE MARTIAN 2011
訳 小野田和子
映画化された。
邦題は『オデッセイ』
人類三度めの有人火星探査、アレス3のミッションは、滞在六日目にして中止に追い込まれる。
猛烈な砂嵐に見舞われたのだ。
6名のクルーが火星を離脱する寸前、事故は起こった。
風邪で飛ばされたアンテナが、クルーのひとり、マーク・ワトニーを直撃。
彼は砂嵐のなかへ姿を消し、バイオモニター・コンピュータは生命兆候の信号を送ってこなくなる。
ほかの5名は彼が死亡したものと判断し、泣く泣く火星をあとにする。
しかし、ワトニーは生きていた。
バイオモニターは破壊され、本人は人事不省に陥ったものの、奇跡的に軽傷ですんだのだ。
息を吹き返した彼は、自分が置き去りにされたことを知る。
アンテナが焼失したため、地球と連絡をとる手段はない。
それでも居住施設は残っているし、物資は豊富にある。
救援が来るまで生き延びる可能性はゼロではない。
こうして必死のサバイバルがはじまる。
マークのユーモアセンスが絶妙。
どんなに深刻な状況になっても落ち着いていて、
読んでいても、じゃあどうするの?と前向きに思える。
「マークが直面する問題は、彼の置かれた状況から当然そうなるものでなければならないーーあるいは、できれば、前の問題を解決した結果、意図しない形で発生した問題でなければならないと決めた。想定を超えて長期にわたり使用された機材の故障でひどい目にあうかもしれない。でも、稲妻に打たれ、そのあと隕石の直撃をくらってはならないのだ」
と、作者が言っている、とのこと。
十分あり得そうな危機に何度も直面し、
どうにかこうにか凌いでゆく。
だから、面白い。
EVA という言葉が何度も出てきた。
想像はついたが、数十ページ目で一応確認。
やはり『船外活動』だったけど、
はじめのうちに説明があってもいいのにと読み返してみたら、
19ページの船外活動にEVAとルビがふってあった。
ルビじゃ見逃すよなぁ……
「ちゃちゃっと」という言葉が、何度もあった。
『EVAでちゃちゃっと外部装備のチェックをして』という感じ。
元の英語が、どれも同じかどうかはおいといて、
「ちゃちゃっと」って、そんなに一般的?
マークの言葉の軽いノリを表そうとしたのだろうが、
だったら「サクっと」とか。
もっとも、翻訳した時点で
「サクっと」はまだメジャーじゃなかったかな。
個人的にウケたのは『プロジェクト・エルロンド』
NASA上層部だけの秘密の会議の命名。
そう、"ひとつの指輪"を破壊しようと決めた
"エルロンドの会議"にちなんで。
"キロワット時・毎ソル"の代わりに、
マークが言い換えた"パイレーツ・ニンジャ"も
笑えた。
専門的なところもかなりあって、何度も読み返したり、
読み終えるまで、けっこう時間がかかった。
久々のSF、実に面白かった。
私は好きそうかも、と薦めてくれた方に感謝。