「亥子ころころ」 西條奈加 講談社 2019.6.24
武家出身の職人・治兵衛を主に、出戻りむすめのお永、
孫娘のお君と三人で営む「南星屋」。
全国各地の銘菓を作り、味は絶品、値は手頃と大繁盛だったが、
治兵衛が手を痛め、粉をこねるのもままならぬ事態に。
不安と苛立ちが募る中、店の前に雲平という男が行き倒れていた。
聞けば京より来たらしいが、何か問題を抱えているようだ。
「まるまるの毬」の続編。
確か読んだはずだが、例により記憶はおぼろ (^^;
思いのこもった諸国の菓子が、強張った心を解きほぐす。
温かいーー
「あとは切手を、一枚貼るだけ」 小川洋子・堀江敏幸 中央公論新社 2019.6.25
小川洋子さんも堀江敏幸さんも芥川賞受賞者。
堀江さんの作品は読んだことがなかった。
二人が手紙をやり取りするカタチ……
かつて愛し合い、今は離ればなれに生きる「私」と「ぼく」。
失われた日記、優しいじゃんけん、湖上の会話……
そして二人を隔てた、取り返しのつかない出来事。
届くはずのない光を綴る。
「アンネの日記」など、さまざまな作品が語られる。
初見だったのはドナルド・エヴァンズ。
架空の国をこしらえ、名づけ、その国が発行する切手を、短い生涯の間に四千枚も描いた画家。
ーーともに逃げていける箱舟ではなく、それぞれが孤独を耐えなければならない母船と着陸船。ーー
作中の「私」ならずとも、ズシンとくる言葉だ。
ーー私たちは決して、同じ船には乗れません。閉じられたまぶたの湖に浮かぶボートは、どれも一人用です。ーー
引用されている、まど・みちおの『けしき』という詩にドッキリ。
けしきは
目から はなれている
はなれているから
見えて
見えているから
けしきは そこに ある
(略)
見るものから
いつも
はなれていなければならないからだ…
自分が そこに
ほんとうにたしかり あるために…
全体的にシーンと深い。
心の奥底に染み入ってくる。