かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

馬場あき子の外国詠 230 中国⑨

2023-04-25 09:16:35 | 短歌の鑑賞
 2023年版 馬場あき子の旅の歌30(2010年9月実施)
    【李将軍の杏】『飛天の道』(2000年刊)180頁
    参加者:N・I、曽我亮子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:曽我 亮子 司会とまとめ:鹿取 未放


230 顔より大きなパンに噛みつく小さな口われと哀れむ敦煌自由市(いち)

      (レポート)
 大きなパンをほおばりながら敦煌自由市を見学してまわる作者。国内では決してありえないその行為にこだわり、人の目を気にしてしまう自分のふがいなさを思い、敦煌の人々の素朴で何事にもこだわらないおおらかさを好もしく思っている。(曽我)


      (当日意見)
★「哀れむ」といっているが、内実は楽しんでいる。(慧子)  
★そうですね、顔よりも大きなパンを囓りながら自由市を見て回っ
 ていることを行儀が悪いとかって恥じている訳ではないですね。
 「哀れむ」と言ってみせているけど、実際はそういう大胆な行動
 を楽しんでいるのでしょうね。そこにはほのかに旅情や郷愁が滲
 む。(鹿取)

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馬場あき子の外国詠 229 中国⑨

2023-04-24 21:59:17 | 短歌の鑑賞
 2023年版 馬場あき子の旅の歌30(2010年9月実施)
    【李将軍の杏】『飛天の道』(2000年刊)180頁
    参加者:N・I、曽我亮子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:曽我 亮子 司会とまとめ:鹿取 未放


229 月牙泉しづかに水は衰へて沙漠は沙漠化を深めてゐたり

     (レポート)(2010年9月)
 月牙泉(敦煌の鳴沙山の谷合に湧く三日月型の泉)は古来、決して枯渇することはないと言われてきた。しかし現在、地球環境の変化に伴いその原泉の地下水も涸れつつあり、少しずつ水量が減ってきている。そして沙漠は渇きを速め、どんどん広がってゆく…。(曽我)
 ■1970年代まで約16000平米あった湖水面積が現在3分
  の1まで減ってきているとのことだ。
  (『シルクロードの光と影』野口信彦)


     (まとめ)(2010年9月)
月牙泉は大切な観光資源なので、現在人工的に維持管理されているようだ。ほっておくと泉は水が涸れて砂で埋まり消滅してしまうのだろう。「沙漠は砂漠化を」という畳みかけにじんわりとした怖さと哀しみが滲む。(鹿取)
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馬場あき子の外国詠 228 中国⑨

2023-04-23 10:40:33 | 短歌の鑑賞
 2023年版 馬場あき子の旅の歌30(2010年9月実施)
    【李将軍の杏】『飛天の道』(2000年刊)180頁
     参加者:N・I、曽我亮子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:曽我 亮子 司会とまとめ:鹿取 未放


228 西域は老仙の国太太(たいたい)の傍らにしてをとこ痩せゐつ

       (レポート)
 西域諸国は古来翁を「老仙」と敬い大切にする国柄だが、みるとふっくらした奥方のそばにいるのは、みな元気のないしょぼくれた男達ばかり…。作者は、現代はいずこも同じ、西域にも女性上位の風が吹いているのだなあと、感慨を込めて詠っておられる。(曽我)
  太太:妻の敬称


      (当日意見)
★老仙といっても仙人ではなく妻帯している。「太太」の文字のイ
 メージと、痩せた男との取り合わせの面白さを狙っている。
   (慧子)
★ユーモアがあって楽しい歌ですよね。西域は伝説の老仙が住むよ
 うな土地柄なんだけれど、今はふくよかな妻の傍らに決まって影
 の薄い痩せた男がついている。慧子さんの言うように「太太」と
 いう文字と痩せた男の取り合わせの面白さももちろんあるんだけ
 ど、夫である痩せた男にかすかに仙人の精神性をみているのでは
 ないかな。(鹿取)
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馬場あき子の外国詠 227 中国⑨

2023-04-22 09:48:23 | 短歌の鑑賞
 2023年版 馬場あき子の旅の歌30(2010年9月実施)
   【李将軍の杏】『飛天の道』(2000年刊)180頁
   参加者:N・I、曽我亮子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
   レポーター:曽我 亮子 司会とまとめ:鹿取 未放


227 なきむしの駱駝ぐわんこの驢馬そして辛抱のよい馬ら働く

      (レポート)
 西域(中国の西方地域を中国人が呼ぶ場合の汎称)では古来、沙漠の舟と呼ばれる乗用としての駱駝、運搬・農作業用に驢馬や馬(古くは軍馬としても)、これらは必要不可欠な家畜として飼養されてきた。作者は「なきむし」、「ぐわんこ」、「辛抱のよい」等擬人化して詠うことによって、この厳しい風土に生きて過酷な労働に従事する動物たちをやさしく思いやっていおられる。(曽我)


     (当日意見)
★性質と動物名がうまく繋がっているかどうかはしらないけど、分
 からなくはない。それぞれの動物の説明をガイドさんなどから聞
 いたのかしら。それとも直感的な把握?「ぐわんこ」って旧かな
 表記が面白い味になっていますよね。まあ、駱駝と驢馬と馬の見
 分けはつくけど、驢馬と騾馬は私など分からないです。土屋文明
 の『韮菁集』(1946年)には次のような面白い歌がありま
 す。(鹿取)

  馬(うま)と驢(ろ)と騾(ら)との別(わかち)を聞き知りて驢来(ろきた)り
  騾来(らきた)り馬来(うまきた)り騾(ら)と驢(ろ)と来(きた)る
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馬場あき子の外国詠 226 中国⑨

2023-04-21 09:16:31 | 短歌の鑑賞
 2023年版 馬場あき子の旅の歌30(2010年9月実施)
   【李将軍の杏】『飛天の道』(2000年刊)180頁
    参加者:N・I、曽我亮子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:曽我 亮子 司会とまとめ:鹿取 未放


226 鳴沙山の駱駝はわれを乗せまじとかなしげに嘶(な)く嘶けど乗るなり

      (レポート)
 鳴沙山のふもとに客待ちしている駱駝は、もう観光客をかなり乗せて疲れていたのではないだろうか。「もう働くのは嫌だよー」と嘶いて、私を乗せまいとする。しかし作者は駱駝も可愛そうだが、これを生活の糧として生きる人の為にも、また作者自身も鳴沙山から望む沙漠に沈む夕陽の絶景を見るために来たのだから…等々逡巡しつつ乗ることにされたのであろう。生きとし生きるものへの作者の優しいこころが偲ばれる。(曽我)
  

     (まとめ)
 「かなしげに嘶(な)く嘶けど乗るなり」の5句と6句の間にどのくらいの逡巡があるのだろうか。それでも乗るのは非情ではなく強さだろうと思わせられる。『青椿抄』には「人間はいかなる怪異あざあざと蛸切りて食ふを蛸はみてゐる」があり、蛸が自分を切って食べる人間を見ているというのだが、それでも作者は食べるのである。また1991年の『南島』にも「水牛は強きゆゑ車曳くなれと哀しめど乗りて海瀬(うなせ)を渡る」という歌が収録されている。(鹿取)
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