かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 253

2024-07-13 10:44:24 | 短歌の鑑賞
※4年ぶりに支部の勉強会を再開しました。 
 久しぶりの、リアル松男研究です。

   2024年度 渡辺松男研究2の33(2024年6月実施)
     Ⅳ〈白骨観〉『泡宇宙の蛙』(1999年)P164~
     参加者:M・A、岡東和子、鹿取未放、A・K、菅原あつ子(紙上参加)、
     司会と記録:鹿取未放


253 村びとは年取りている村はずれ大きなる穴ありて雲とぶ

    (事前意見)
 年寄りばかりの村のはずれに大きな穴があって雲がとんでいるという歌。ではこの雲はどこをとんでいるのだろう。穴の上か、それとも中か。そもそも、なぜ穴があるのか。死体でも埋まっていたのか。わかるはずもない景だけれど、イメージされるのは、初めの歌と同じ、死と空虚さとそれを突き抜けた明るさ。「白骨観」から受けた作者の心象風景か。(菅原)


    (当日発言)
★やはり寺山の映画、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』を思いだしました。寺山が
 この題を付けたら原作者の許可が下りなくて「さらば箱船」という題名にした。その
 映画でもやはり巨大な穴が空いているのです。そして、みんな年寄りばかり。その穴
 は何かというと死の国で、郵便配達夫がいて、あの世とこの世を繋いでいる。それが
 どうしたという説明とか結論は無いですね。シュールレアリスムの絵画のように理屈
 付けようとしたら駄目。楢山節考よりはあっけらかんとしている。(M・A)
★用意周到よね。村人でしょう、年寄りでしょう、村はずれで。この状況設定がすばら
 しい。(A・K)


       (後日意見)
 ガルシア=マルケスの『百年の孤独』は、近親相姦をくり返している一族に奇形児が生まれたため、新天地を目指した人々(1代目)が、新しい村を開拓。近親相姦を禁止する遺言が遺され、それを守って新天地の村は運営されていたが、7代後の伯母と甥の恋愛によって村が崩壊していく物語だそうだ。
小説から考えると、大きな穴は年寄りたちのやがて行く死の穴かもしれないが、その穴の上をひょうひょうと雲が飛んでいる。この歌に似ている歌に「穴ぼこの底から空を見上げてみよときどき雲のとおるゆたけさ」(70頁)があるが、穴ぼこの歌との関連で読むと253番歌もあっけらかんとした、案外おおらかな歌なのかもしれない。(鹿取)


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