かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 24

2023-04-13 09:58:24 | 短歌の鑑賞
    2023年度版 渡辺松男研究4【地下に還せり】
      (13年4月実施)
      『寒気氾濫』(1997年)12~
       参加者:崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、鹿取未放
       司会と記録:鹿取 未放(再構成版)


24 槻の樹皮鱗片状に剥がれいて光陰は子に父にあまねし

     (当日意見)
★お父さんといっしょに仕事している場面、ふたりで森に入って、
 身体で分かり合っている感じ。一緒に行動した後にたまたまそう
 いうような樹を目撃して、そういったところに光が照り輝いてい
 た。それを父と子が見て深く共有する時間を持ったということを
 歌っているのではないか。もちろん樹に対する思いも親子共々深
 いものがあったと思う。親子と樹の三者の関係がそれぞれ豊かな
 時間を共有している。光陰というのがここでキーワードかな。
  (鈴木)
★槻の樹と〈われ〉はここに存在していて、お父さんはここにはい
 ないってイメージしていたけど。お父さんも一緒にいてもいいん
 ですね。ただ、「光陰」の意味は①歳月 ②月の光 で、太陽光
 の意味はありません。ここの「光陰」は①の歳月でしょう。年老
 いた槻の樹皮が剥がれているのを見てその樹に過ぎた歳月を思
 い、〈われ〉と父に流れる歳月を思っている。つまりこの歌の
 テーマは歳月。(鹿取)


       (後日意見)(2020年5月)
 父ではなく祖父、槻の樹ではなく欅(「槻の樹」は「欅」の古名)だが欅と歳月について書かれたかりん賞受賞時の挨拶を引用しておく。松男さんらしいユニークな文章である。また、このかりん賞受賞作は「寒気氾濫」と題した三十首で、この松男研究4回目の樹木の歌は大方この受賞作に収められている。(鹿取)
。                            
   子供の頃、十年ほど世話になった祖父の屋敷には大きな欅の
  木があった。 これがちっとも面白くない。終始黙りこくってい
  るし、幹は呆れるほど固く、子供などは相手にしないといった
  風情なのだ。それは丁度百姓の祖父に似ていた。頑固で丈夫で
  無駄口一つ吐かない祖父は、私に声を掛けることもなかった。
  その欅も祖父も今はない。しかし、歌に夢中になりつつある私
  を軽く無視していることだけは間違いあるまい。 
                「かりん」92年10月号

コメント
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