かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 399

2022-01-09 18:26:52 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究48(2017年4月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【睫はうごく】P160~
     参加者:T・S、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部 慧子    司会と記録:鹿取 未放


399 秘というをきびしきなりとつくよみのひかりよりきよく訪いきしものよ

      (レポート)
 398番歌(われを赩(あか)くしてしまいたるほほえみにそっと体重へらされてゆく)に続き恋の歌と解した。二人の恋をまだ秘めていて、それを「きびしきなり」と相手は言う。きびしきを精神的に研ぎすまされた状態とそんな意味に味わった。いずれにせよ、恋の相手を月の光よりきよく訪いきしものよと神秘的に詠いあげていよう。(慧子)


    (当日発言)
★「きびしきなりとつくよみの」というのが分からないのですが、これはどういうことですか?
   (T・S)
★「つくよみ」は月の古名です。「つきよみ」とも言います。「きびしきなり」は慧子さんは相手
 の言葉ととられたんですが、やってきた相手が言ったともとれますが、まあ、ふたり共通の認識
 なのでしょう。すごーく下世話な解釈をすると前にひとの嬬(つま)を思う歌があったので、そ
 れだと秘めないといけないのでなかなか厳しい状況だと。「二人の恋をまだ秘めていて」という
 慧子さんの解釈の方がきれいですが。(鹿取)
★ところで、万葉集に湯原王という人の「月読の光に来ませあしひきの山きへなりて遠からなくに」 
という歌があります。湯原王は志貴皇子のお孫さんで、女性に成り代わって詠った歌だというこ
 とです。「月の光を頼りに逢いに来てください、山が隔てるほどの遠い道のりではないのですか
 ら」って意味で、やってくるのは男性ですね。松男さん、この歌作るとき、湯原王の歌が片隅に
 あったのではないでしょうか。松男さんの歌の場合やってくるのが女性で、現代だから月光を頼
 りに来るわけではない。だから「つくよみのひかりよりきよく」です。美しい歌ですね。この下
 句からすると、恋は秘めないといけないという古代的な恋愛観にも繋がって、やっぱり慧子さん
 の解釈の方がよさそうですね。(鹿取)
★「月よみの光を待ちて帰りませ」って良寛の歌がありますね。(慧子)
★あれも、湯原王の歌の本歌取りではないですか。下句は「山路は栗の毬のおほきに」(山道には
 栗の毬がたくさん落ちているから)ですね。(鹿取)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする