かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

清見糺の一首鑑賞  106

2020-12-18 18:27:43 | 短歌の鑑賞
   ブログ版 清見糺の短歌鑑賞 16  夜寒坂
                               鎌倉なぎさの会
   
106 桃のはなほほほんのりと咲きいでて密航者Qは故郷を憶う
                 「かりん」97年5月号

 近くに「ただならぬ気配にゆらぐ半島のおんなだまってキムチを漬ける」の歌があるからQは朝鮮半島からの密航者だろうか。レポーターの蓬莱さんが書いているように桃だから中国ということも考えられるし、「阿Q正伝」からの連想かも知れない。私は倉橋由美子の「スミヤキストQの冒険」を思ったのだが。いずれにしろ密航者Qは実在の人物ではなく桃の花と結びつけた空想の産物だろう。「ほほほんのりと」とぜいたくに二句め七音を使いきった平仮名表記の擬態語によって春のゆるやかな気分を伝えているのだろう。
 ちなみに「スミヤキストQの冒険」は、革命党から教化の密命を帯びて絶海の孤島の感化院へ渡ったQの、滑稽で哀れな非日常をシニカルに描いた小説である。スミヤキストからの連想だと歌のメッセージはかなり違ったものになるだろう。 (鹿取)
                          
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする