知らない世界へ帰りたい(日本探求)

自分の祖先はどんなことを考えていたのか・・・日本人の来し方、行く末を読み解く試み(本棚10)。

「仏教のこころ」by 五木寛之

2010年04月16日 21時05分50秒 | 寺・仏教
五木寛之こころの新書シリーズ1。講談社(2005年)。

最近、仏教が気になる私です。

年間3万人の自殺者を出す先進国日本。
日本人にこころの拠り所はないのか?
仏教は悩める人々を救う力となり得ないのか?
「オウム真理教」など奇をてらった徒花のような新興宗教に救いを求めることしかできないのか?

著者の五木寛之さんは作家として有名ですから説明の必要はありませんね。
私は昔から彼の小説が好きでした。
初期の「こがね虫たちの夜」から東欧を題材にした連作や「戒厳令の夜」という映画もお気に入り(アマリア・ロドリゲスの歌が良かった~)。
彼の視線は年表に書かれる歴史ではなく、いつも名も無き人々の営みを見つめています。
そこが魅力的なのです。

近年、宗教に関する本を書き、活動・発言もしています。
「百寺巡礼」は話題になりました。
この本はその流れで書かれたものです。

日本人は古来の神道に仏教が混じり合った節操のない宗教観をもつと批判される一方、万物に神の姿を見る「八百万の神」という概念が根底にあり他の宗教を排斥しない美徳もある、とも云われています。
実際、我々の生活は結婚式は神前で(神道)、お墓はお寺(仏教)、でもクリスマスやバレンタインデーも盛り上がります(キリスト教)。

世界では一神教のキリスト教とイスラム教がいがみ合い、殺戮が行われています。
一神教は他の宗教を認める寛容さを持ち合わせておらず、ときに危険な思想となり得ます。
また人間中心の宗教には「地球を守る」という視点からみると限界があるのではないか。
万物に神が宿るという日本の「アニミズム」という考え方は原始的と評されがちですが、実は先進的な思想となり得るのではないか、と著者は記しています。

21世紀のキーワードは「寛容」と「アニミズム」。
現状では焦臭い時代に再突入しそうな雰囲気を感じるこの世界。
果たして人類は思想・発想の転換ができるのでしょうか?