知らない世界へ帰りたい(日本探求)

自分の祖先はどんなことを考えていたのか・・・日本人の来し方、行く末を読み解く試み(本棚10)。

「ダウン・ウィンダーズ」(風下の住人達)

2014年08月12日 16時50分39秒 | 戦争
ダウン・ウィンダーズ~アメリカ・被爆者の戦い~
NHK、2014.3.15放映



番組説明
 大国アメリカが「フクシマ・ショック」に揺れている。1月27日、米国である集会が開催された。「ダウンウィンダーズ(風下の人びと)記念集会」。福島原発事故の直後に連邦議会が制定した記念日だ。参加するのはネバダ核実験で飛散した放射性降下物(フォール・アウト)によって被ばくした米市民。フクシマ報道に接した住民たちは、被災者を自分に重ね合わせた。自分たちも政府から十分な情報を与えられないまま、被ばくしてしまったからだ。被ばくの影響と疑われる症状に苦しみながら、補償されないまま亡くなる住民も多数いる。フクシマを契機に「真実を知りたい」と声を上げる米市民の姿を追いながら、アメリカに残された「知られざる核被害」の傷あとをみつめる。


 今度はアメリカ国民の被爆者の現状を扱った番組です。
 「ダウン・ウィンダーズ」とは「風下の住人達」という意味です。
 なんとなくロマンチックな響きがある言葉ですが、さにあらず。
 「核実験の風下で被曝した住人達」が正確な意味なのです。



 アメリカはそれまで、核実験をマーシャル諸島で行ってきましたが、ソ連との開発競争に勝つために迅速に対応可能な国内のネバダ州へ変更しました。
 ネバダ州では1951年からの40年間に1000回(!?)もの核実験が行われたそうです。
 数が半端ではありませんね。

 その後、周辺の住民に健康被害が発生していることがわかり、放射線被ばく補償法(RECA, Radiation Exposure Compensation Act)が制定され、認定者には一人当たり500万円が支払われました。
 しかし、救済対象は20万人とも云われる被爆者のほんの一部。
 東日本大震災~福島原発事故後、被爆者の意識が高まるとともに救済地域の範囲を広げるべきだという意見が強くなり、RECA改正案が議会に提出されました。
 しかし「予算不足」というシンプルな理由で却下されました。

 RECA改正案を通すべく運動している住民達は「国は時間が経って我々が死ぬのを待っているようだ。歴史から抹消されようとしている。」という不安・不満を持っていました。
 「核実験は自国民を毒殺するようなもの」という重い言葉が耳に残りました。

 予想外のアメリカの現状を知り、愕然としました。
 日本の補償どころか自国民の補償さえ不十分なのです。

 冷戦を勝ち抜くため、アメリカという国を維持するために自国民さえ犠牲にしてきた歴史。
 これをどう評価すべきなのか?
 善なのか、悪なのか?
 私には答えが見つかりません。

 気になったのが、日本のビキニ環礁での被曝以上に「調査がなされていない、あるいは隠蔽されている」事実。
 あのアメリカという訴訟社会で、健康被害を訴える根拠がないと嘆いている住民の姿が意外でした。
 もっとしたたかな人達だと思っていたのに。

<参考>
日米におけるヒバクシャ研究の現状と課題(竹本 恵美)

 一般的に「ヒバク」は、放射線を浴びることを指す。原爆の炸裂による被害や被害者を指す場合は「被爆/被爆者」、放射線による被害や被害者を指す場合 は「被曝/被曝者」、その両者を指す場合は「 ヒバク/ヒバクシャ」と表記する。原子力燃料はエネルギーを生み出す際に、必ず放射能を持つ核分裂生成物を放出し、原子力利用は必ずヒバクとヒバクシャを伴う。原子力の軍事利用と平和利用といった区分は原子力利権者側にとっての違いであり、被害を受ける側から見れば、ヒバク源が何であれ、その恐ろしさや被害には大差がないと考える。

 放射線物理学者のアーネスト・J.スターングラスは、1978年に原発周辺住民が原子力規制委員会と政府を相手に起こした訴訟で原告側の証人として、数多くの疫学調査結果を提示した。スターングラスは、原子炉がある州で低体重乳幼児率と乳幼児死亡率が高いことを示し、ネバダ核実験の死の灰による影響で、米国で約100万人の乳幼児が死亡したと結論づけた。X線と低レベル放射線の影響に関し、米最高の権威と見なされるラッセル・モーガンは、スターングラスの論文を賞賛した。元ローレンス・リバモア核兵器研究所研究員であり地質学者のローレン・モレは、低体重乳幼児の身体・精神・知的問題を研究している。米大学進学適性試験(SAT)の点数を調査し、平均点とネバダ核実験の規模との相関関係を明らかにし、平均点下降の原因は核実験が放出した放射能の影響を胎児時に受けたことと結論づけた。また、カリフォルニア州で自閉症が核実験開始に合わせて出始め、チェルノブイリ事故や原発の発電量の増加に従って上昇していることを明らかにした。スターングラスとモレは共同研究を行ない、7~8歳の子供から取れた乳歯に含まれる放射性物質のストロンチウム90の含有量を調査し、がんを患う子供は健康な子供の2倍のストロンチウム90を有していることを明らかにし、原発の日常運転も核実験と同様に悪影響を及ぼしていることを指摘した。他にもスターングラスは、放射性物質による人体への影響調査研究を広範囲に行い、ヒバクによって糖尿病発症率や、乳がん、肺がん、白血病などによる死亡率が高まることを示し、1950~99年の間に米国で約1,930万人が死亡したと結論づけた。調査結果は米国議会でも発表され、それをきっかけとして部分的核実験禁止条約(PTBT)が締結された。統計学者のJ.M.グ ールド博士は、全米3,053郡の40年間の乳がん死亡者数を分析し、増加した1,319郡が原子炉から100マイル(約160km)以内に位置し、乳がん死亡者の死因に原子炉が 関係していることを指摘した。これらの研究により、原子力利用は事故がなくても、人類と環境に取り返しのつかない害を与えていることが明らかになったと言える。

 欧州放射線リスク委員会(ECRR)は2003年、公衆の被曝合計最大許容線量を0.1ミリシーベルト、原発労働者の場合は5ミリシーベルト以下にするよう勧告した。しかし日本は、職業上放射線を浴びる人の被曝量を年間50ミリシーベルトまで、公衆の被曝量を年間1ミリシーベルトまでと規定し、従来の規定を変えようとしない。原発労働による被曝が原因で死亡した労働者の被曝量は、ほとんどの場合が規定値以下であった。50ミリシーベルトとの規定値は、人を殺す可能性のある値であり、この規則は労働者の命を守るためではなく、産業利益を守るため、危険性の高い被曝を労働者に強いるためにあると言える。

 柏崎刈羽原発が中越沖地震によって事故を起こした際、CNNは日本で相次ぐ原発事故と事故隠しに対し,「政府と東京電力による悪質な隠蔽工作であり、隠蔽体質がなくならない限り、日本の放射能事故はなくならない」と批判 した。BBCは「世界に核廃止を訴えるべき被爆国日本が、狭い国土に原発を林立させ、自国が落とされた原爆何万発分にも相当する原子炉の危機管理ができず、原発周辺に住民が住んでいることは異常であり、それは政府が情報を隠蔽し続けてきたことの結果である」と批判した。

「水爆実験 60年目の真実」

2014年08月12日 07時32分34秒 | 戦争
「水爆実験 60年目の真実~ヒロシマが迫る“埋もれた被曝”~」
2014.8.6 NHKスペシャル



番組紹介
 1954年、太平洋ビキニ環礁でアメリカが行った水爆実験。その当時、周辺ではのべ1000隻近くの日本のマグロ漁船が操業し、多くの漁船員が放射性物質を含む「死の灰」を浴びた。しかし、それ以降の研究者やメディアなどの追及にもかかわらず、第5福竜丸以外の漁船員たちの大量被ばくは認められてこなかった。
 あれから60年、「なかったとされてきた被ばく」が科学調査や新資料から、明らかにされようとしている。立ち上がったのは、広島の研究者たちだ。長年、がんなどの病気と放射線被ばくとの因果関係が認められない原爆被爆者らを支援する中で編み出された科学的手法を用い、ビキニの漁船員の歯や血液を解析。「被ばくの痕跡」を探し出そうとしている。
 東西冷戦の大きなうねりの中で、埋もれてきたビキニの被ばく者たち。被爆の苦しみに向き合ってきたヒロシマが共に手を携え、明らかにしようとする「真実」を、克明に記録していく。


 “核”に関する番組を見る度に暗澹たる気持ちにさせられます。
 このNHKスペシャルもしかり。

 ビキニ環礁における水爆実験で、付近で漁業を営んでいた第五福竜丸が被曝したことは歴史的に有名です。
 しかし、第五福竜丸ほど近くではありませんが、周囲で操業していたマグロ漁船は約100隻にのぼり、無視できない被曝と健康被害があったことが証明されたという内容。
 
 アメリカの水爆実験は2ヶ月半の間に6回行われたことをはじめて知りました。
 一回一回に台風のように名前まで付けるご丁寧さ。
 水爆1つはヒロシマに落とされた原爆の1000倍の破壊力があります。

 当時水爆実験場所から1300km離れた位置で操業していた第二幸成丸の乗組員だった老人の話;
「あるとき黒い雪のようなものが降ってきて甲板に1-2cm積もった。それが“死の灰”であることを後で知った。」
「水爆実験による被曝を疑いつつも、小さな漁村では水爆に関する話題はタブーだった。それがわかってしまうと漁ができなくなる、するとこの漁村は生きていけない。」
「そのうち漁師仲間が若くしてたくさん死んでいった。心の中で被曝による病気と感じつつも、誰も口にできなかった。」
 ・・・悲しい裏事情です。

 過去の被曝を評価・測定する方法をヒロシマの原爆関連研究者が確立しています。
 歯のエナメル質は代謝されないので正確ですが入手しにくい。
 血液は入手しやすいが正確性に劣るそうです。

 ビキニ環礁から1300km離れた場所で操業していた第五明賀丸の乗組員の歯が検査されました。
 すると、319mSv という測定結果が得られました。
 国際基準の許容範囲は100mSv以下ですから、異常高値と判定されます。
 ヒロシマ原爆に例えると「爆心地から1.6kmで受ける放射線量と同じ」という驚異的な数字だそうです。
 爆心地から1.6kmの被爆者は、被曝健康手帳が交付され、医療費が全額免除されるレベル。

 血液検査では染色体が調べられました。
 ビキニ環礁から1300km以内の乗組員18人中13人が高い染色体異常率を示しました。
 計算によると、18人中8人が100mSv以上の放射線を被曝したことになるそうです。

 日本政府は前項で記したように第五福竜丸の調査をしましたが途中で打ち切りました。
 その他の漁船乗組員の調査も行ったものの異常が検出されるとそれも打ち切り、こちらは公表さえされずに闇に消えました。
 おそらくアメリカの圧力があったのでしょう。
 密かにアメリカには測定データが報告され、一方日本では“なかったことに”と封印されたのでした。

 第五福竜丸による被曝が問題になり、反米・反核運動が盛んになった1950年代後半の日本。
 当時のアメリカの文書が開示されました;
「日本における“放射能パニック”が共産主義勢力にアジアで勢力を伸ばすチャンスを与えており危険である」
「対策として“核の平和利用”をアピールすべきである」(アイゼンハワー)
「日本で原子力の活用を推進することは、被害を最小限にするもっとも効果的な方法である」

 なんてことでしょう!

 アメリカは冷戦相手のソ連との水爆開発競争で頭の中がいっぱいで、日本人の被爆など目に入らなかった様子が見て取れます。
 さらにアメリカは、ヒロシマ/ナガサキ原爆+第五福竜丸の被曝による日本の反核感情を、“核の平和利用”を推進することにより抑え込もうと画策したのです。

 つまり“毒をもって毒を制す”という構図。
 そのしたたかさに日本はイヌのように従い、今日に至りました。
 “核”に関するマイナスデータは、原発も含めて“隠蔽”する体質ができあがったのでした。

 まあ、日本政府だけを責めることはできません。
 戦争に負けると云うことはこういう事なのでしょう。
 もし水爆実験をアメリカが停止してその開発でソ連が優位になり、アジアに勢力を伸ばして共産主義国家が乱立したら、今の日本はなかったかもしれないのですから。

 当時被曝した漁船員が厚労省相手に調査と補償を求める映像で番組は終わりました。
 しかし、この手の番組でいつも釈然としない感覚が残ります。

 水爆実験をしたのはアメリカ。
 誰が考えても諸悪の根源はアメリカ。
 日本政府に責任を求めるのは、黒幕に手をつけず中間管理職や請負業者を訴えるようなもの。

 「原爆による被曝」
 「水爆実験による被曝」
 これらに対して国際裁判所にアメリカを訴えるのが筋ではないでしょうか。

 「大国の論理」を振りかざして相手にされないことは目に見えていますが・・・。