春先にはつきものの頭痛を抱えながら地下鉄に乗る。
途端に、女性の白いコートが眼の奥をずきん、と痛ませた。
眼につく白いコートは2枚。衝動的に、修繕がきかなくなる程度にまで汚してやりたい、と思う。実際には器物損壊だったか暴行だったか、とにかく人間界上では明確な罪名がその行為には伴うはずだし、そもそも頭痛は衝動を行動に移すだけのエネルギーを奪うから、ただボンヤリと思うだけのことだ。
本来なら私は白という拒絶感漂う色に対して、普段なら触らず遠巻きに眺めて、白を白のままに留めたいと願うクチだ。白い面に向かって様々な色を --それもできることなら鮮やかな赤を-- 撒き散らしたいと願う日は、機嫌が悪いのを通り越してむしろ爽快なものだ。悪意でもいたずら心でもなく、ただ純粋なボンヤリ頭が生み出す破壊的な思惑は、あるいは幼児の性衝動に近いそれかもしれない。
白という色は、薄皮を一枚剥がしたその奥に、雲母のようなブラックオパールのようなとりどりの色を隠しているに決まっている。いや、あるいは、白はいつまで経ってもどこまでも白で、まるで入れ子のようにどれだけ皮を剥いてもその奥からは相変わらずの白が顔を出して、小さくなることも色を薄くすることもなく、その核が無くなることすらないのではないか。あるいはそもそも白という概念は幻想で、白そのものがこの世に存在していないのかもしれない。
地下鉄の振動に合わせてがんがんと鳴り響く頭で、私は飽きもせず白という存在を疑い、しかし疑い切るだけの余力が欠如しているから、それを汚すことで短絡的な解決を図ろうとする。なんと単純明快な病人の構造だ。
駅から地上に上がった私の頭上にかぶさる空の色に名前はない。
青から藍に向けて明度を落としてゆく東の空に、西から茜色の指先が追いすがる。捕らえきれない指先は藍の進行に阻まれて、追いかけっこはまた明日の夕べに持ち越しだ。
ゆっくりと、けれど鮮やかに色を変えながら空を覆う細い色の集まりの中に、私の疑う白の存在はない。
私は安心して微笑む。
空が決して白くないから、狂うことなく生きてゆける。
この狂おしい衝動とともにあっても。
途端に、女性の白いコートが眼の奥をずきん、と痛ませた。
眼につく白いコートは2枚。衝動的に、修繕がきかなくなる程度にまで汚してやりたい、と思う。実際には器物損壊だったか暴行だったか、とにかく人間界上では明確な罪名がその行為には伴うはずだし、そもそも頭痛は衝動を行動に移すだけのエネルギーを奪うから、ただボンヤリと思うだけのことだ。
本来なら私は白という拒絶感漂う色に対して、普段なら触らず遠巻きに眺めて、白を白のままに留めたいと願うクチだ。白い面に向かって様々な色を --それもできることなら鮮やかな赤を-- 撒き散らしたいと願う日は、機嫌が悪いのを通り越してむしろ爽快なものだ。悪意でもいたずら心でもなく、ただ純粋なボンヤリ頭が生み出す破壊的な思惑は、あるいは幼児の性衝動に近いそれかもしれない。
白という色は、薄皮を一枚剥がしたその奥に、雲母のようなブラックオパールのようなとりどりの色を隠しているに決まっている。いや、あるいは、白はいつまで経ってもどこまでも白で、まるで入れ子のようにどれだけ皮を剥いてもその奥からは相変わらずの白が顔を出して、小さくなることも色を薄くすることもなく、その核が無くなることすらないのではないか。あるいはそもそも白という概念は幻想で、白そのものがこの世に存在していないのかもしれない。
地下鉄の振動に合わせてがんがんと鳴り響く頭で、私は飽きもせず白という存在を疑い、しかし疑い切るだけの余力が欠如しているから、それを汚すことで短絡的な解決を図ろうとする。なんと単純明快な病人の構造だ。
駅から地上に上がった私の頭上にかぶさる空の色に名前はない。
青から藍に向けて明度を落としてゆく東の空に、西から茜色の指先が追いすがる。捕らえきれない指先は藍の進行に阻まれて、追いかけっこはまた明日の夕べに持ち越しだ。
ゆっくりと、けれど鮮やかに色を変えながら空を覆う細い色の集まりの中に、私の疑う白の存在はない。
私は安心して微笑む。
空が決して白くないから、狂うことなく生きてゆける。
この狂おしい衝動とともにあっても。
どっかの誰かが、『まあ、ここら辺の範疇に入ったら「白」と呼ぶことにしよう・・・』て、決めた感じがする。
・・・まずは、日々の頭痛が改善されるといいですね。
白を傾向とすれば、グレイも、黒も、傾向の仲間なのだろうか。
どっかの誰かにいちばん左右されそうなのがグレイとして、(スーツの「チャコールグレイ」なんてまさにそうよね!)
あくまで個人的な感情として、黒にはきちんと基準としての確固たる「黒」があってほしいとうっかり願ってしまうものであります。