雨の日にはJAZZを聴きながら

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渡辺貞夫 『 Goin' Home 』

2005年11月04日 19時19分14秒 | JAZZ

僕のジャズに対する思いは,欧州の叙情性豊かなジャズに夢中になっていたかと思うと,ある時には米国ハード・バップの熱い興奮を感じてみたくなったりと,ちょうど,欧州とアメリカとの間をゆれる振り子のように行ったり来たりです。ですから,最大加速度で通り過ぎる日本のジャズに関しては,ほとんど興味がなく,当然知識もありません。そんな僕もわずかながら愛聴しているミュージシャンがいます。辛島文雄,本田竹広,そして渡辺貞夫らです。最近,欧州ジャズに夢中になっていたせいか,今日は渡辺貞夫を聴いてみたくなりました。早速レコード棚から3枚ほど取り出してきてきました。

まずは,1966年の 『 Goin' Home』を聴いてみましょう。バックバンドは宮間利之とニューバードが8曲,八城一夫トリオが2曲担当してます。そして選曲が凄いです。<ロシアより愛をこめて>,<アンド・アイ・ラブ・ハー>,<しそしぎ>など,恥ずかしくなるような曲をまじめに演奏してます。肝心の渡辺貞夫の演奏の方はというと,これがお世辞にも上手いと言えないソロで,このくらいなら今の有名大学のジャズ研の方のほうがよっぽど上手い。まあ,60年代の日本のレベルというのはそんなものだったのでしょうね。でも,66年というと渡辺貞夫はバークリー音楽院の留学から帰ってきたばかりですよ。もう少し上手くなっていてもいいんじゃないの,と思ってしまいます。左下の写真の『 SADAO WATANABE 』は1961年の彼の初リーダーアルバムですが,むしろこっちの方が上手く聴こえます。バップ・フレーズに淀みがないし,音色も澄み切っていて美しいです。バークリーで何か迷いがあったのでしょうか。あまり知られていないことですが渡辺貞夫が留学したのが62年で,帰国が65年です。バークリーは4年生ですから渡辺貞夫は中退したわけです。留学中のことはあまり詳しく語られることがありませんが,教授と折が合わなかったのでしょうか。いずれにしても,この留学前後の2枚のアルバムを聴く限り,バークリーでの成果は見て取れません。

そして,話は20年後の1985年のアルバム『 Parker's Mood 』(右下写真)に移ります。これは,それまでフージョン一辺倒だった渡辺貞夫が久しぶりに4ビートに取り組んだ意欲作です。バックはJames Williams (p),Charnett Moffett (b),Jeff Watts (ds)らが務め,ライブならではの熱い演奏が楽しめる好盤です。そして,ここでの渡辺貞夫の演奏は非常に素晴らしく,流暢にバップ・フレーズを歌い上げ,時にあの哀愁ある貞夫節を聴かせてくれます。文句なしに上手いのです。要は,この20年間の間に渡辺貞夫は上手くなったのです。デビューした時には既に完成されたテクニックを持ち,観衆をあっと驚かせるものの,その後消えていくミュージシャンが多い現代ジャズシーンにあって,渡辺貞夫はまさに叩き上げの職人ジャズマンだったような気がします。

余談ですが,この『 Parker's Mood 』で僕は初めてJeff Wattsを意識して聴くようになりました。<Stella By Starlight>での激しく煽るドラミングは,今も色褪せることはありません。DVDも発売されています。いいですよぉ~。

  

P.S. でも,一番好きなアルバムは1988年の『 ELIS 』なんですけどね。その話はまたいつか。