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街の散歩…ひとりあるき

01-02 患病(いたつき)なりと密かに堕胎の薬を勧め…『釋迦尊御一代記圖會』巻之2 

2024年08月09日 | 宗教

て摩耶夫人の患病(いたつき)を療(りょう)し、莫大の恩賞を得んと募(つの)りに応じて摩伽陀国へ上
りしが、憍曇弥夫人の付き人馬将軍は旧織(きゅうしき)なれば、先ず月景城へ至り馬将軍に対面
し、召しに応じて上りし旨を告げしかば、馬将軍、暗(ひそかに)悦び人を拂い、著闍(きしゃ)に謂(い)
って曰く、摩耶夫人実は妊娠なれども出産遅々におよぶが故、もしや患病の所為(わざ)かとて
諸国の名医を召(めさ)るゝ所なり。されども卿(なんじ)に勝れる者はあらじ。何卒夫人を診脈せば、
妊娠のことを押し隠し、患病(いたつき)なりと告立(もうしたて)て、密かに堕胎の薬を勧め。胎子
を血水(けっすい)となし得させよ。さらば恩賞に乞るに任(まか)すべしと頼むにぞ、素より貪欲の
著闍(きしゃ)なれば一議におよばず、是を肯(うけが)い別れを告げて朝廷を出でけるに、早、諸州
より召に応じて上り集まる医官百人ばかり相詰め居けり。星光臣、諸医官を廳中(ちょうちゅう)
に列座させて、かわるがわる医術の理を討論せしめ、その能う能うを試し見るに、誰有って
か著闍(きしゃ)が右に出る者なければ、星光臣、さては著闍こそ天下の良医なりとてその旨奏
聞す。淨飯王、聞きたまい、然らば摩耶が容躰を窺わせ、胎孕(たいよう)が患病(かんびょう)を看
定(みさだめ)もし懐妊なくば安産すべき良薬を勧め、また病ならば速やかに平癒すべき良方を
配剤せよと倫言有る。著闍(きしゃ)敬(つゝしん)で勅命を承り、心裡(こころのうち)に仕すましたりと

悦び、青龍城に至って烏将軍に面謁し王令の趣を述べければ、烏将軍も夫人の懐妊是か非を弁
じかねたる折なれば、甚だ悦び労を謝して憩わせ、さて夫人に見(まみ)え王命の赴きを告げるに
夫人驚き心中想いたまうらく、過ぎつる夜正しき夢想の告をこうむる上は妊娠なること疑うべ
くもならず、臨産のおそき事はかの道師が呪詛の所為(わざ)にして心長く降誕の期を待てよと示
したまいしに、たとえ勅命なればとて妄りに医薬を服しもし胎内の皇子に過ちあらば悔とも反
(かえ)らじ。これ如何にすべきと身独胸を痛めたまいけるが、仡(きっ)と思かえし烏将軍に向か
いて躬らが妊娠世の常に易り已に三年をふれども降誕あらざれば帝をはじめ誰々も患病(やま
い)のわざと思いたまうは理なれども、躬は皇子を孕奉ること定かに知るよしあれば、今更医
師に委ぬべきにあらず。卿、然るべく回奏して医師を回(かえ)したまへと仰せけるに、烏将軍推
反(おしかえ)し、仰せもさることにそうらえどもかの著闍(きしゃ)が申すは御懐妊ならば速やかに御
平産あるべき良薬を勧め、もし患病(いたづき)ならば頓(とみ)に御平癒有るべきの医療をなし奉ら
んとのことなれば一度診脈させたまい、その医案をも聞召しそのうえ御意(みこころ)にかなわず
んば調薬を服用したまふまじ。何を申すにも勅令を承りし者を空しく回(かえし)たまわんは違勅
の恐れなきにそうらわずと諌るより夫人やむを得ず、さらば左も右もなくもと諾(うけが)いたま
う。烏将軍やがて著闍を夫人の坐前に招き、詳しく脈察なし奉りたまえと命ず
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