后妃も俱に宝塔を守護し火鳳の辺に降り給えば、諸大衆、百国の王、是(こ)は恐れあ
る光臨かなとて首(こうべ)を低(たれ)恭敬礼拝す。此の時、さしも熾(さかん)なりし火気忽然として、
涼風と変じ七宝の砂(いさご)を生じ、金棺の跡には八色の仏舎利金剛の如く現わ
れたり。帝釈天も后妃も感涙と俱に玉塔の裡へ佛舎利を捃(ひろ)い納め飛行童
子に舁(かゝ)せて已に天上へ昇らんとするにぞ、四部の大衆、百王、貴賤、大いに駭き、是(こ)
は如何なる御ことぞや、火気の鎮まる七日七夜、待ち候にも何卒、佛舎利を得て滅後の如
来と拝み奉らん為なるに、尽(こと々)く捃(ひろ)い去り給うぞ。情けなさ可懍(あわれ)一粒づゝを分かち与
え給えと歎き悲しみてぞ願いける。帝釈天、衆人を顧み給い、愚かなる者どもの願いかな。伱等、
信心深く一心に皈命(きみょう)して棺諸を探らば、佛舎利あること猶無数ならん。朕が今、捃(ひろ)うこ
ろの佛舎利は如来在世の昔より固く契約し奉り、後佛出世の時節まで、南
天の鉄塔に納むべきなれば、人間の手に採らんこと可なうまじとぞ、袖を払いて昇天し給いけり。
諸人、天帝の詔命(みことのり)に伏し、各々、一心に三宝を祈念し棺所に立ちよりて見れば、
実(げに)も天帝の勅命の如く佛舎利玲瓏(れいろう)として猶数万片有ければ、皆、歓喜踊
躍し、大衆及び百国の王、八大竜王にいたるまで分かち戴きて、本国に回り各々宝
塔を造って佛舎利を安置し、生身の如来の如く渇仰し種々に供養し奉り、就中(なかんづく)夕
陽山(せきようざん)の明恵比丘尼は、如来の入滅に御悲歎限りなく阿難尊者頼みて佛舎利一片を得、
玉塔を造りて是を納め、阿難を請拓(しょうじょう)して仏舎利供養の為、百日般若を勤め給う。阿難尊
者、其の信心を感じ如来智性摩訶般若舎利経を授けられければ、明恵比丘尼深く怡(よろこ)び朝
夕に此の経を読誦し奉り、信心堅固に行いすまし給いけるが、二年(とせ)立ちて諸根(こん)を脱し終に
大往生の素懐を遂げ給いけり。且亦(かつまた)、如来遺言の如く、迦葉は鶏足(けいそく)山の室に入て法を
修し、舎利弗、可難、富畄那、羅睺羅は祇園精舎に住し、阿難は刀利天生寺に住し、目連は象
頭(ぞうづ)山に入り、各々如来の妙経を説いて素性を済度し、其の余の阿羅漢も諸国の霊場に住んで、
佛法弘通(ぐつう)ある。偖、彼(かの)八大龍王は佛舎利を得て歓喜限りなく是ぞ我が五衰三熱の苦患
を救い給う妙楽微妙の至宝成道の勸具、功徳の如来なりとて渇仰し、龍宮城裡に水晶塔を
建て、佛舎利を篭め朝暮囲繞礼拝けり。されば釈尊の功徳は天上天下にまで普く源
遠くして末益々分かり、中華、日域まで佛法伝わり、三宝に皈依(きえ)し、如来の妙法を修して生老病死
の四大苦を脱し極楽界に往生する者、世々億萬の数を知らず。信ずべし、尊むべしと云々。
釈迦御一代圖會巻六 大尾
以上にて『釋迦尊御一代記圖會』全六巻すべてを終了しました。