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街の散歩…ひとりあるき

20-21…外道、摩耶夫人の五体を締縛にぞ…『釋迦尊御一代記圖會』巻1 

2024年08月02日 | 宗教

外道、空中より降り来て、千條(ちすじ)の縄を以て摩耶夫人の五躰を締縛(しめからむ)にぞ。その苦
悩耐えがたく、払わんとすれども手足動かず、叫ばんとするに声出でざれば、これは如何なる
身になりゆくことやと、恐ろしさ悲しさたとえなく、強いて一声あっと叫びたまえば愕然とし
て目覚め、これ一場(いちじょう)の夢にて、御身は錦帳(きんちょう)の裡に臥し残燈細々として御簾(み
す)もる風にまたゝき、傅(かしづ)きの女官は熟睡して臥しけり。夫人胸なで下ろし、さては夢な
りけるとやゝ心を安んじたまえども、胸の轟きはなお已まず。五体骨肉疼痛し、邪熱身を焼く
が如く神心悩乱しければ、女官らを呼び覚ましたまいて、薬湯をとらせて咽を潤しなんどした
まうほどに、夜は漸くに明けたれども、起き出でん気力もなく、唯、錦の褥(しとね)の上に衾(ふ
すま)うち被(かづい)て悶え臥したまう。左右の女官は夫人の平素に異なりなまう体に驚き急ぎ烏
将軍に斯(か)くと告げければ、これも大いに驚き、即時に宮中へ馳せ参り后妃の枕頭(まくらべ)
近く立ち寄りその容態を問いまいらする。夫人いとも苦しげに声を息のもとに引き入れ、前夜
の夢のことを語りたまう。烏将軍、諫めて曰く。それ、夢は心気の疲労より出(いづ)るところに
てあやしむるに足らず。察するに君皇子を胎(みごめ)らせたまい、起居に心を労したまえばその
疲労、凝り結んで自からかゝる竒(あやし)き夢を見たもうならめ。それ人倫の胎孕(たいよう)は天然

にて月満なば皇子安々御降誕ならん。何の疑いかそうろうべき。唯心強く思いたまえと云い諭
し医官を召し寄せ薬石を調剤させて勧めなんどしたれば、夫人、烏将軍お言葉をげに尤もと
思し召し湯薬を服し神心を鎮めたまえど、骨肉の疼痛は隠ゝとしてなお止まず。これまで
胎内の皇子時々動きたまうごとく覚えたまいしも、悪夢の後は少しも動きたまわず。心も
空になりてさながら放心せし如く、言語を発したまうも唯よそに語る心地したまい朝夕
の飲食も勧(すゝ)みたまわず。昼夜の深閨(しんけい)に悩み伏したまうぞ烏将軍夫妻大いに心を痛
め朝廷へ斯くと啓奏しければ淨飯王、大いに叡慮をおどろかしたまい、即時に宝輦(ほうれん)を
回らされて、青龍城へ幸臨したまい、后妃の帳内に入てその容姿を覧(みそなわ)すに、しばし
のほどに大いに憔悴したまう躰(てい)に愈(いよいよ)天意穏やかならず、懇ろに患病(いたづき)を問い
慰めたまい、官人に勅して、普く天下の名医を召し集えて后妃の為にあらゆる良剤を調じさ
せられ、或いは、高徳の道師・婆羅門を招き、病即消滅の秘法を修せしめ百計
を尽くして快復を需(もと)めたまえども、これぞと思う効臨も見えざりければ、淨飯さう申すに
及ばず、朝廷の群臣はじめ、百国の小王わきて后妃の父母・善覚王夫婦の憂愁
浅からず。民間あやしの末々までも、あわれとて患病平癒したまい、皇子安々誕生
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