近頃SONYがグループ挙げて"高音質"な『ハイレゾ音源』に力を入れていて、にわかに注目を集めています。 ハイレゾはHigh-Resolution Audioの略、音源というのはCDやレコード、PC上の"音声ファイル・楽曲"の事を指します。
『ハイレゾ音源』とは、デジタルで収録・記録されている音源(楽曲データ)のうち、CDを超える情報量をもつ無圧縮の音源を指します。(ロスレス圧縮という、理論上情報の欠落のないものは数値によってはハイレゾに含みます) ただし、単に情報量が多いというのは"楽曲を入れる器"が大きいだけであり、しっかりと演奏・録音・マスタリングされていないと、簡単には「ハイレゾ=高音質」とはなりません。 それはおいおい説明していきますネ。
ハイレゾの再生に関しては、実はハイレゾという言葉ができる前からオーディオマニアは行っていた再生法でした。 が、一応音モノの老舗であり、CDなどの規格策定にも重要な役割を果たしてきたSONYが、「ハイレゾ」という名称を付けたり、楽曲のインターネット配信(mora)から音の出口(ウォークマンなど)までをグループ内で一貫する形を打ち出して、信頼感が増してきました。
しかし、そもそも"ぽっと出"の印象はぬぐえませんし、CD規格策定時にあまりにも「CDは高音質」「ヒトの聴覚を十分カバーする」という宣伝がされ過ぎたために、それを超えるデータ量を持つ『ハイレゾ』が眉唾に思われやすいのも確か。 今回は微力ながら『ハイレゾ』について解説してきます。
■ これまでのデジタルオーディオは…
最も普及しているデジタルオーディオといえば音楽CD(CD-DA、CDデジタルオーディオ)です。 CDは1980年代初頭に登場。 直径12cmのプラスチック円盤に当時最高の光学精度を、プレーヤーには高い読み取り技術と演算技術を詰め込み、PCM形式44.1kHz/16bit、ステレオ74分収録(+α)という今でも通用する規格を打ち立てました。 以後、PCでの取り扱い音声やMP3など、多くのデジタル音声はCDのサンプリング・ビット・データ量を大きく超えることなく現在に至っています。
PCM形式の仕組み、超ざっくり言うと、例えばCDではサンプリング周波数44.1kHz/16bit…つまり1秒間を44100分割し、そのポイントごとに音の波形の通過地点を16bit…65536段階を数値で記録し、読み出してアナログ波形を作っていく仕組み。
サンプリング周波数44.1kHzというのは理論上、ヒトの可聴域、音周波数20~20,000Hzを再現できるとされているので、「これで十分」という評価を受け続けてきました。 音圧の値16bitのほうはというと、コレだと、ヒトが"音"として聞き取れる空気振動の大小と自然な滑らかさを両立できない数値ですが、日常的に大音量でオーディオを聴くシーンが限られていたので不便さ・違和感は持たれませんでした。
■ ハイレゾの定義
"ハイレゾ"とは、ハイレゾリューション・オーディオ(High-Resolution Audio)の略。
特に定められていませんが(2014.6.12、日本オーディオ協会によってハイレゾが定義されました。 詳細はこちら)、広義ではCDレベルであるPCM44.1kHz/16bitを超える数値を持つデジタル音源を指します。 今回SONYでは、非公式ではありますが96kHz/24bitと、それを超えるPCM(FLAC、ALACなどロスレス圧縮音源も含む)と、DSD2.8MHz以上を、とりあえず『ハイレゾ音源』としているようです。
■ オーディオ以外のハイレゾ
オーディオ以外の分野にもハイレゾ音源(音声)はあります。 ブルーレイディスク、ホームシアターの音声の分野ですね。 デジタル処理のノウハウなどは実はCD主体の再生機よりも熟練しています。
そもそも、ホームシアター再生に用いるBDプレーヤーやAVアンプは、デジタルデータを多く扱う関係上、早い段階から高規格デジタル音声(≒ハイレゾ)も貪欲に取り込んで鍛えられてきました。 私的には、今の『ハイレゾ』への流れは、「臨場感にも寄与する」とするホームシアターの音声思想からも影響を受けていると考えています。
現在、市販ブルーレイにおける音源規格最高値は192kHz/24bit (AKIRA Blu-ray版)です。
■ ハイレゾ音源の一体何がいいのか
まず私見なんですが…、ハイレゾ音源の、誰でも判別しやすい差は、ビット拡張による『音圧差の拡大によるメリハリの向上・滑らかさ』だと思います。 メリハリというと、一見「なんだ"ドンシャリ音"かよ」と思われがちですが、これはドンシャリとはまったく違い、音の大小の差が現実により近づいたことで自然な響きと繊細さが両立できるということです。 CD規格の16bitと比べて24bit(SONYの定義するハイレゾ値)は、音圧段階だけ見ても256倍細やか・滑らか・濃密になり、CD比で表現の幅も広がります。 (CDに比べて256倍の音量が出るということではありませんヨ また、実際に音声表現に使う幅は再生機器の実力、または回路など保護する目的でこれより狭いとみられます)
ビットの細やかさと並んで、高サンプリング周波数であることの利点はDAC(デジタル/アナログ コンバータ)でのアナログ変換(復調)の精度。 従来のCD規格レベルでの録音では、可聴域ギリギリの間延びしたサンプリングであるため、録音・再生時に実際の音との時間軸的・数量的誤差が出て、それが不要な音声(ノイズ)を発音させる原因にもなりました。
音の周波数の話に限ると、理論上は『サンプリング÷2=再生音声周波数上限』なので、約20kHzが上限のヒトの聴覚に訴えるには44.1kHzで十分なのですが、DACにとっては44.1kHzという精度はまだ多くのノイズを出すレベル。 録音・再生時にうまく調整しなければ、電子音のような傾向を持つ、ピーキー?でザラついた聞くに堪えない音が出てきます。 CD登場以来のデジタルオーディオの進化はこの症状の解消の歴史でもあるんです。
このノイズを低減させるには、録音・再生でいずれかでも高サンプリング化するのも一つの手。 1980年代末期以降、CDプレーヤーに『デジタルフィルター』『アップサンプリング』という名称で実装されていた機能でもあります。 なので、ヒトの聴覚の理屈は別にしても、『ハイレゾ』のように、なるべく録音から再生まで高サンプリング周波数を維持することも音質にとって肝要となってくるのです。
もう一つ、高サンプリング化によって再現した高周波を『体(肌)で感じることができる』という説も唱えられています。 ヒトの耳が感じ取れる音周波数の範囲は20Hz-20,000Hzとされていますが、それから外れる周波数の音を体の表面(肌)で"触覚・気配"として感じているというもの。 ただし、これはまだ研究段階であり、あまり大きく公言しても「またオーディオがオカルトを言い始めた」と思われる原因となるので、私はまだ否定的立場です。
■ PCMのほかには
従来からあるSACDに使われている『DSD』という規格もハイレゾ音源の一種として認知され始めています。 これは圧縮音源やPCMのようにサンプリング、ビットを数値で記録するのではなく、2.8MHzあるいは5.6MHzのタイミングで現れる1bitの多寡(濃度)で音波形の高下を表していくもの。 高規格PCMより格段に表現幅がある上にファイルサイズを比較的小さくできます。
ただし、現在の技術ではデジタルデータ時にイコライザなど音声調整が掛けにくい仕様(高コスト&手間暇が掛かりすぎる)なのが難点。 他にも未発達の面がありつつも、現在、原音にもっとも近い質感を再現できる規格(原理)として注目されています。
他に、目にしたことがあるでしょう、FLAC、AAC、ALACという文字がHz/bitの数字の先頭にありますね。 これらは圧縮されたPCMであることを示します。 これらはそれぞれ対応プレーヤー(デコーダー)でPCMに解凍された後、再生されます。 (希望の規格(形式)が再生可能かどうかは、購入前に要確認!!)
■ デジタルオーディオ(PCM)規格あれこれ
44.1kHz/16bit CD(CD-DA)レベル
48kHz/16bit DVDレベル
48kHz/24bit 音楽DVD/ブルーレイ(BD)レベル (←一般的なハイレゾはココから)
96kHz/24bit 音楽BDレベル (←SONYが定めるハイレゾはココから)
192kHz/24bit DVD-Audio、現状BD最高レベル
※ CD以外は一般的な採用例として。
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