最も日本人に愛され、最も日本を愛した男だ。
過去に24回も来日したというから、ニューヨークのジャズメンの中では抜きん出ている。
それもこれも彼の持つフィーリングが、日本人のハートとぴったり一致しているからだろう。
それをひとことで「暗い」と片付けてはいけない。
重く引きづるような哀愁感は、深い情念の底から湧き出てくるものだ。
故に彼の演奏を聴くと、古寺を訪ねる時のように厳かな心境になるのである。
マル・ウォルドロンといえば「レフト・アローン」、そして「オール・アローン」が有名だ。
2枚とも奇しくもアローンの名がついた盤だが、この2枚は日本で受けたアルバムなのだ。
本場アメリカでは日本ほどの人気はないと聞く。それよりも「ソウル・アイズ」の方が圧倒的に支持されているらしい。
共にスローなバラードであり、哀愁感という点では双方とも甲乙つけがたいのだが、あくの強さに違いがあるので興味のある方はぜひ聞き比べてほしい。
この微妙な違いこそが東西の決定的な差なのである。
このマル・フォー(1958年録音)は、マル・ワンから続いたシリーズの最終章であるが、最初のトリオ作品でもある。
私はこのアルバムが大好きだ。
彼独特のメランコリックなナンバーと、絶妙なスイング感を持つナンバーがほどよく配置されているからである。
まず1曲目の「Splidium-Dow」、このノリの良さでぐいぐい引き込まれていく。私にとってはこれくらいがちょうどいいテンポで、ついつい指もそれに合わせて動き出す。
そして2曲目の「Like Someone in Love」。この曲の持つ哀愁感こそがマルの真骨頂であり、独特の「日本らしさ」なのである。この曲は当時のジャズ喫茶で大人気曲だったというが、それも頷ける演奏だ。
マルは来日したときにファンからサインを頼まれると、「あなたのともだち」とか「あなたの兄弟」といった言葉を日本語で書いたという。
私たち日本人はもっともっと彼を愛すべきなのだ。