これほど長年にわたって愛着が持てたアルバムも見当たらない。
これは中間派ジャズの最高傑作というばかりではなく、ジャンルを超えて、「これぞジャズ!」といえるような名作である。
このアルバムはもちろんCDでも出されてはいるが、タイトルは「The Essential Vic Dickenson」となっており、2枚組レコードの中からチョイスした曲を1枚に構成し直したものになっている。
ただ私の好きな「When You And I Were Young, Maggie」がCDには入っていない。
2枚組では売れないと判断したのかもしれないが、なぜそんな破廉恥なことをするのかわからない。もっと敬意を払ってオリジナルのまま出してほしかった。それくらいこの作品は重要であり、タイトルは絶対に「ショウケース」でなければいけないのだ。
では久しぶりに油井正一さんの解説を読みながら聴いてみる。
冒頭を飾る「Russian Lullaby」だけ、その雰囲気を表現できる範囲でお伝えしようと思う。
最初に聞こえる短いイントロが終わると、もの悲しいエドモント・ホールのクラリネットがメロディを奏で始める。そしてそのメロディはサー・チャールス・トンプソンによる魅力的なピアノソロへと受け継がれ、いよいよリーダーであるヴィック・ディッケンソンが登場する。
彼のトロンボーンはまるでささやきかけるような響きで歌い出し、だんだんとその声が大きくなっていく。この辺りの組み立ては実に見事である。
その後、エドモント・ホールが再度登場しスインギーなソロを聴かせると、抜けのいいルビー・ブラフのトランペットがその後に続いていく。
そしてラストの短いアンサンブルで一気に感動が沸き上がる。このジャム・セッション的なエンディングにはいつも泣かされる。
このアルバムはもちろんヴィック・ディッケンソンのリーダーアルバムではあるが、一番の聴き所は各プレイヤー一期一会の掛け合いにあり、そこにとてつもない人間臭さを感じるのである。
人間臭さといえば、ヴィック・ディッケンソンのトロンボーンほど肉声に近い音はないと思う。
まるで下町に住むだみ声の親父が、常連客を呼び込んでいるように聞こえる。
そうだ、この作品は「ALWAYS 三丁目の夕日」のようななつかしさと感動をもらえる作品だというと、ある程度わかってもらえるかもしれない。
「え? そんな日本の通俗的なものと一緒にするな?」....はい、すいません。