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乱気流強度基準

梅雨真っ盛り、この時期は悪天候に伴う擾乱(いわゆる乱気流)に悩まされる時期でもあります。
擾乱の強度、つまり“揺れの強さ”は主観に負う部分も多くどうしても曖昧になりがちですが、乱気流に遭遇した飛行機の揺れ方の“震度”に相当する目安については、DIGITAL AVIATOR さんのブログ、『タービュランス(続)』に簡潔かつ的確にまとめられています。
「ど素人が出過ぎたことして」とのお怒りを覚悟の上で、関連した話題を取り上げてみました。
まず、“揺れの強さ”に対する客観的基準は無いのか、という点です。
これは(小生のブログではすっかりお馴染みとなった)ICAO: International Civil Aviation Organization (国際民間航空機関)が『航空機重心位置における加速度変化』を基に、参考とすべき基本的な判断基準を定義しています。
ICAO のそれは、以下の3段階からなります。
加速度変化を瞬時に読み取れる“加速度計”は操縦席の前面計器にはありません。
実際にどれだけ揺れたかの値は DFDR: Digital Flight Data Recorder に0.2秒間隔で記録されているのを、後から解析して(読み出して)初めて解ることになります。
※ACMS: Aircraft Condition Monitoring System や AIDS: Aircraft Integrated Data System 搭載機であれば、Cockpit 内の Maintenance Terminal から類似データを読み出すことができますが、いずれも即時性という点では満足できるものではありません。
この ICAO 基準ではあまりにも粒度が粗く、日常の運航で用いるに適しているとは言えません。
一方で、パイロットは『運航の妨げとなる気象状態に遭遇した場合は、出来る限り速やかにその情報を管制機関等に通報すべき』となっており、洋上飛行での位置通報と共に報じられる機上気象報告 AIREP: AIr REPort や随時通報する PIREP: PIlot weather REPort の書式が定められています。
乱気流に遭遇したパイロットは PIREP を報告します。
そこで用いられる乱気流の強度は、例えば FAA: Federal Aviation Administration (米国連邦航空局) では以下の6段階からなります。
航空会社では、よりきめ細かい乱気流強度基準を ICAO や FAA のそれに準拠して設定して、社内無線(カンパニー・レディオ)で通報し自社便の乱気流回避やサービス判定基準等に用いています。
例えば、全日空系では
今では会社を問わず乱気流情報を共有し、快適で安全な航空機運航のために寄与しています。
C-PIREP で定める乱気流強度基準は
ICAO の判定基準は“客観的指標”を示している、という点では有益なのであり、不幸にして乱気流に遭遇し、負傷者が出た場合などは DFDR を取り下ろしてそのデータを解析、実際の揺れはどの程度だったかを明らかにします。
ただし、これにも盲点があります。
この値は『航空機重心位置における加速度変化』であるという点です。
飛行機の揺れ具合は、重心位置付近とそこから遠く離れた後部座席付近とでは異なる場合が殆どです。
よって、DFDR の値が0.5G未満であっても、お客様が着席されている座席位置によってはそれを上回る揺れがある可能性があります。
乱気流には機上レーダにも映る対流雲に伴う乱気流だけでなく、圏界面( tropopause )やジェット気流近傍で起こる晴天乱気流( CAT: Clear Air Turbulence )もあります。
この晴天乱気流は機上レーダにも映らない、当然雲もない状況で突然の風の変化で起こる厄介なものです。

晴天乱気流は、右の図( DFDR のプロット図)のように突然、『ドン』とくることが多いので、ベルト着用サインが消灯していても、着席時には少々窮屈であっても座席ベルトを腰の低い位置で締めておくことがお客様の立場でできる最善の自己防衛手段です。
パイロットの皆さんは、C-PIREP や PIREP、Company-PIREP、Air-to-Air の無線交信などを駆使し、揺れに関する情報を共有し、安全で快適なフライトのために頑張っておられます。
お客様も搭乗して着席したらベルト着用、でその努力に応えましょう。
パイロットの皆様も自分が遭遇した気象状況が各種気象FAXや衛星画像でどのように捉えられていたのか、C-PIREP, METAR, TAF などではどのように表現されていたのか、是非“ Look Back ”されることをお勧めします。
3レグ、4レグ後で疲れた後にそんな気力は残っていないかもしれませんが、決して無駄ではないと思います。
【蛇足】
ICAO や FAA, 航空局の判定基準は良いとして、航空会社の判定基準やら DFDR のグラフを何故知っているのか?
「日々是勉強」でございます。
このときばかりは事故調が発表する事故調査報告書や重大インシデント報告書を隅々まで読むのであります。
擾乱の強度、つまり“揺れの強さ”は主観に負う部分も多くどうしても曖昧になりがちですが、乱気流に遭遇した飛行機の揺れ方の“震度”に相当する目安については、DIGITAL AVIATOR さんのブログ、『タービュランス(続)』に簡潔かつ的確にまとめられています。
「ど素人が出過ぎたことして」とのお怒りを覚悟の上で、関連した話題を取り上げてみました。
まず、“揺れの強さ”に対する客観的基準は無いのか、という点です。
これは(小生のブログではすっかりお馴染みとなった)ICAO: International Civil Aviation Organization (国際民間航空機関)が『航空機重心位置における加速度変化』を基に、参考とすべき基本的な判断基準を定義しています。
ICAO のそれは、以下の3段階からなります。
- LIGHT
- 航空機重心位置における加速度変化は0.5G未満
- MODERATE
- 航空機重心位置における加速度変化は0.5G以上1.0G以下
- SEVERE
- 航空機重心位置における加速度変化は1.0Gを超える
加速度変化を瞬時に読み取れる“加速度計”は操縦席の前面計器にはありません。
実際にどれだけ揺れたかの値は DFDR: Digital Flight Data Recorder に0.2秒間隔で記録されているのを、後から解析して(読み出して)初めて解ることになります。
※ACMS: Aircraft Condition Monitoring System や AIDS: Aircraft Integrated Data System 搭載機であれば、Cockpit 内の Maintenance Terminal から類似データを読み出すことができますが、いずれも即時性という点では満足できるものではありません。
この ICAO 基準ではあまりにも粒度が粗く、日常の運航で用いるに適しているとは言えません。
一方で、パイロットは『運航の妨げとなる気象状態に遭遇した場合は、出来る限り速やかにその情報を管制機関等に通報すべき』となっており、洋上飛行での位置通報と共に報じられる機上気象報告 AIREP: AIr REPort や随時通報する PIREP: PIlot weather REPort の書式が定められています。
乱気流に遭遇したパイロットは PIREP を報告します。
そこで用いられる乱気流の強度は、例えば FAA: Federal Aviation Administration (米国連邦航空局) では以下の6段階からなります。
- Light Turbulence
- Light CHOP
- Moderate Turbulence
- Moderate CHOP
- Severe
- Extreme
航空会社では、よりきめ細かい乱気流強度基準を ICAO や FAA のそれに準拠して設定して、社内無線(カンパニー・レディオ)で通報し自社便の乱気流回避やサービス判定基準等に用いています。
例えば、全日空系では
- LIGHT MINUS (LGT-)
- LIGHT
- LIGHT PLUS (LGT+)
- MODERATE (MOD)
- SEVERE (SEV)
- EXTREME (EXT)
- SMOOTH (SMTH; TB0)
- LIGHT MINUS (LGTM; TB1)
- LIGHT (LGT; TB2)
- LIGHT PLUS (LGTP; TB3)
- MODERATE (MOD; TB4)
- MODERATE PLUS (MODP; TB5)
- SEVERE (SEV; TB6)
- EXTREME (EXT; TB7)
今では会社を問わず乱気流情報を共有し、快適で安全な航空機運航のために寄与しています。
C-PIREP で定める乱気流強度基準は
- SMOOTH (SMTH)
- LIGHT MINUS (LGTM)
- LIGHT (LGT)
- LIGHT PLUS (LGTP)
- MODERATE (MOD)
- MODERATE PLUS(MODP)
- SEVERE (SEV)
- EXTREME (EXT)
ICAO の判定基準は“客観的指標”を示している、という点では有益なのであり、不幸にして乱気流に遭遇し、負傷者が出た場合などは DFDR を取り下ろしてそのデータを解析、実際の揺れはどの程度だったかを明らかにします。
ただし、これにも盲点があります。
この値は『航空機重心位置における加速度変化』であるという点です。
飛行機の揺れ具合は、重心位置付近とそこから遠く離れた後部座席付近とでは異なる場合が殆どです。
よって、DFDR の値が0.5G未満であっても、お客様が着席されている座席位置によってはそれを上回る揺れがある可能性があります。
乱気流には機上レーダにも映る対流雲に伴う乱気流だけでなく、圏界面( tropopause )やジェット気流近傍で起こる晴天乱気流( CAT: Clear Air Turbulence )もあります。
この晴天乱気流は機上レーダにも映らない、当然雲もない状況で突然の風の変化で起こる厄介なものです。

晴天乱気流は、右の図( DFDR のプロット図)のように突然、『ドン』とくることが多いので、ベルト着用サインが消灯していても、着席時には少々窮屈であっても座席ベルトを腰の低い位置で締めておくことがお客様の立場でできる最善の自己防衛手段です。
パイロットの皆さんは、C-PIREP や PIREP、Company-PIREP、Air-to-Air の無線交信などを駆使し、揺れに関する情報を共有し、安全で快適なフライトのために頑張っておられます。
お客様も搭乗して着席したらベルト着用、でその努力に応えましょう。
パイロットの皆様も自分が遭遇した気象状況が各種気象FAXや衛星画像でどのように捉えられていたのか、C-PIREP, METAR, TAF などではどのように表現されていたのか、是非“ Look Back ”されることをお勧めします。
3レグ、4レグ後で疲れた後にそんな気力は残っていないかもしれませんが、決して無駄ではないと思います。
【蛇足】
ICAO や FAA, 航空局の判定基準は良いとして、航空会社の判定基準やら DFDR のグラフを何故知っているのか?
「日々是勉強」でございます。
このときばかりは事故調が発表する事故調査報告書や重大インシデント報告書を隅々まで読むのであります。
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« GE社 CF6-80A2... | オーダー・ミス » |
座席によって揺れ方が違うように感じます。
縦ゆれは飛行機全体に共通かと思います。
横揺れについて、どの辺の座席が揺れが少ないものでしょうか?
ご指摘のように座席位置によって揺れ方は随分と違うものです。
一番安定している(揺れ方が少ない)のは、飛行機の重心位置付近で、機種やその便の運航重量にも依存しますが、概ね主翼付近になります。
飛行機の揺れ方(挙動)については、その重心位置を中心に前後・左右・上下のそれぞれ直交する架空の三軸を基に表現します。
“縦揺れ”は左右軸を回転させておこるPitchと呼びます。
> 縦ゆれは飛行機全体に共通
とありますが、乱気流に遭遇し機体姿勢を立て直そうと昇降舵を操作し高度維持する場合などは機体重心から遠い後部などは激しくなります。
“横揺れ”は飛行機の胴体を前後に走る前後軸を回転させておこるRollと呼びます。
これは主翼の補助翼(エルロン)を左右に操作することで主翼が上下します(飛行機が傾く)。これは前後軸を中心とした動きなので、着座位置による差異は少ないです。強いてあげれば、ワイドボディ機では窓際より真ん中の方が少しマシな程度です。
この他に“偏揺れ”という上下軸を回転しておこるYawと呼ばれるものがあります。これは垂直尾翼にある方向舵(ラダー)の操作とでも起こりますし、機体特性(安定性)が悪くて起こる場合もあります。
この揺れはやはり機体重心付近が少なく、遠く離れる後部は大きい傾向にあります。
これらの揺れは単独で起こるよりも複合的に起こることが多く、例えば横風を受けるとRollがおこり横滑りするので、同時にYawも生じることになります。これを回復しようと舵をあてると逆方向にも同じ現象がおこり、蛇行運動が繰り返されることになります。いわゆる“ダッチロール”です。これを最小限に防ぐために、Yaw DumperやRudder Trim, Pitch Trimなどで機体の安定性を向上させるシステムが備えられているので、今日の旅客機はスムーズな状態下では地上にいるかのように揺れません。
乱気流に遭遇した場合、どのような力(主として風の変化)が働くかによって揺れ方は多様であり、一律には言えませんが、それでも一番揺れが少なく安定しているという点では飛行機重心位置付近ではないでしょうか。
前方座席も重心位置からは離れているのですが、Boeing747を除くと機体最前部にいるのはパイロットであり、パイロットが機体を安定させようとその着座位置を基準に操作をしますので、機体後部よりは揺れ方が少ないように思います。
直接の回答にはなっていないかもしれませんが、ご参考になれば。
>>>了解しました、行ってらっしゃい。
日本語なのに、初めのうち全く意味不明だったなあ(笑)カンパニーのエンルート。
私もいつもいっしょに
『行ってらっしゃい!』って小声で言います。
コメントありがとうございます。
小生もカンパニー聞きま(傍受しま)したねぇ[今も傍受してますが....]。
小生は(田舎で地上局が聞こえないからですが)パイロットからの『See on ground.(地上でお会いしましょう)』にジーンときたものです。
さて、Wichさんがさり気なく書かれた“オケージョナルライトマイナス”の“オケージョナル”ですが、これは乱気流に遭遇した場合、その乱気流域を通っているとき全体の「どのくらいの割合で」揺れが継続するかを示す共通尺度になっています。
・Occasional ... 全体時間の1/3未満
・Intermittent ... 全体時間の1/3以上2/3未満
・Continuous ... 全体時間の2/3以上
コテコテの左脳(しかも硬直化したスポンジ状)派の小生から、右脳派飛行機大好きWichさんへのトリビアでした。
今後とも遊びに来て、気が向けばどんどんコメントをお願いします。