デリー最終日である。
明日は朝4時起きで駅に向かい鉄道でジャイプルへ。
とにかく今日はデリーをできるだけ見てまわらねば、と思い若者などの多いコンノートプレイスへ。
スラムやそれに近い所を歩いてたからたまにはそういう街にも行ってみなければ。ぐへへ。
ふとスポーツショップの前にあるイラストに立ち止まった。
ス、スラムダンク!
でも何かが違う気がする......。
絶妙に高校生ではないような。
うぶでキラキラフワフワ「団結」や「応援歌」の似合う高校生をとうに通り越しているような気がする。
どちらかと言えば立派な社会の仲間入りしたしっかりどっしりもっちりの面構えである。
うーん、デリー。
著作権とかそういうのも素無視のようだ。
けれどもこれはこれで勢いが感じられて良い。
スラムダンクだが原作にはない作品だ。
「スラムダンク8年後に再会」といったイメージだ。
へたうま感満載の絵だが、なぜか心掴まれる。
流川のあの気だるくもクールなキャラクターを完全無視したピシッと決めたポーズなどなかなか日本ではお目にかかれるものではない。
花道など悪い感じが抜けきっている。
宮城などは社会の世知辛さににやりと不敵な笑みだ。
サイクルリキシャで今日行きたかった場所へ向かう。
デリーにいる間にどうしても行きたかった場所だ。
片道20分ほど、ドライバーのおっさんとあれこれしゃべりながらデリーの街を眺める。
途中、いくつもテントでの生活の場を見た。
僕を乗せてくれたおっさん。
「家族は?」と聞くと
「俺が持ってんのはこいつだけさ。」
と自慢げに自分のサイクルリキシャの座席をポンポンと叩いた。
「夜はこいつと寝て、朝起きてこいつを手入れして、眠るまでこいつと過ごすのさ。他には別に何もねぇ。」
警察は容赦なくサイクルリキシャを痛めつける。
リキシャから降りてしばらく歩くと
警察が別のサイクルリキシャに怒っていた。
「ここから先は入るんじゃねぇ!」
「でもお客が乗ってるからもうちょっと先まで行かないとダメなんだ。」
「ダメだ!この野郎!」
と、警官はそのドライバーも24時間を共にする彼の唯一といってもいいだろう彼の所有物であるリキシャを警棒で叩き付けた。
「何するんだ!やめてくれ!客が乗ってるんだ!」
という反論も周りの雑踏にまみれてかきけされ、警察はおもむろに警棒で男を殴り、リキシャをパンクさせた。
リキシャのドライバーも必死に抵抗した。
客はリキシャに乗ったままだった。
周囲の人は足早に歩いた。
リキシャの細いタイヤから空気の抜ける音がした。
それはため息のような音だった。
僕が今日どうしても訪れたかったのがガンジー博物館だ。
ここへ来る途中、17~8歳ほどのアウトカーストの少年が警察にぼこられていた。
半裸で下半身は裸。
肌は浅黒く、上半身はかろうじてぼろ切れのきれはしをまとい、髪は真っ黒で肩まで伸びぼさぼさで、棒切れのようにやせていた。
容赦なく警官は少年を警棒で殴りつけ、数匹の犬達が少年をさらに取り囲み吠え立てていた。
無抵抗の少年をひたすらに殴りつける警察官。
理由は多分街の方へ行きたいということだと思う。
少年はなんとかして人の多い街のへ入り、物乞いなりなんなりをしたいのだけどその警官はその侵入を許さなかった。
ひたすらに殴り、ただひたすらに殴られ続けていた。
多くの人が見ていた。
僕も見ていた。
けれども何もできなかった。
ガンジーはアウトカーストの人々をハリジャン(神の子)と呼んだ。
「心の中に暴力性があるなら、暴力的になったほうがいい。無気力を隠そうとして非暴力を口実にするよりは。」
という彼の言葉がある。
彼の為に描かれた絵が世界中から寄贈されていた。
中には自分の血で描いたものもあった。
彼が暗殺された後、火葬される時にできた長い長い人々の行列の白黒写真があった。
「MY LIFE is MY MASSAGE」
という言葉がガンジーの写真の横に大きく書かれていた。
僕は偶然に日本に生まれて、警官に殴られ続けていた彼も偶然にインドに生まれただけのことだった。