ビートは鼓動のように広がり
ベースは骨肉のように自由に動く
ギターとピアノは隅々まで流れ、行き届く赤い血
そのど真ん中には音に共鳴する歌
波紋の広がりと視界を越えたその先のイメージ
いっせいに噴出
広がっては噴き出して
噴き出してはどこまでも広がる
想像の遥か向こうまで
音の調和は続く
何を得ても何も満足できないのは
とっくに失ったからだ
そうだとしても
またあの懐かしい匂いがしたなら
私はいつだって白い雲が季節を運んでくるようなあの世界の広がりを自由に感じることができる
「あいつなんか黒猫っぽいよなぁ」
と誰かが横で言われていた
まるで褒め言葉でないみたいにね
それを言う者の顔をじっと見てみた
それを言う者の横で相づちをうつ者の顔をじっと見てみた
それを言われる者の顔をじっと見てみた
拳をにぎりしめないとあなたはあなたの色さえ失ってしまうよ、というのは確かに確かに
が、切羽詰まる
それはね
握ったその拳は
ぶん殴るんじゃないよ
ふりかざすんじゃないよ
強く握りしめて
言葉で負かされても
その覚悟で
負かされるのを知っている弱い強さで
そんな風にして闘っているその人を
とても笑えない
がさつに笑えないだろ
そんな風にして闘っているその人は
笑顔で
ただ笑顔で
涙さえ出る
.....................
状況とニュアンスさえ違えば私は褒め言葉とすら思う。
またいつか会えたらなぁ
晴れた日に
雨降る日に
またいつか会えたらなぁ
緑の島
静かな月明かりの下
咲く花のその横で
またいつか会えたらなぁ
作り上げた記憶の色に似た場所で
きっと本当は見たことのあるその場所で
また会えたらなぁ
だからその手を
古い赤煉瓦で組まれた電灯のない細く背の低いトンネルを抜けると黒い野道が真っすぐと続いている。
そのトンネルの中でさらさらと音が響くのは足下に敷いてある石畳の下に一本の細い川が流れているからで、ところどころ隙間のあるその石畳の合間からゆるやかに流れる水の音が誰知ることなく変わらずにその空間で反響し続けているのである。
トンネルを抜け、野道を歩き始めるとまもなく右に石を積み上げて作られた井戸がある。
立ち寄り、覗き込むことはないが確かにその井戸の中には何かの種類の魚がいる気配がある。
また少し先に進むと左にはきつねに追われた野うさぎが逃げ込むのにはかっこうの膝ほどまでの高さのいばらの原が広がっていた。
きっとこの夜の間の安心を手に入れる為に野うさぎの群れがこのいばらの下で身を寄せているには違いない。
きつねはそこにうさぎがいるのをよく知っている。そして決して侵入できないこともまたよく知っているため、そのいばらの野を脇から囲む山の中腹からうさぎの群れを見下げ、真夜中にぎぃぎぃと鳴くのだ。
その先にはまた古いトンネルがある。
今度は赤煉瓦ではなく打ちっぱなしのコンクリートで固められている四角い形をした天井の高いトンネルだ。
やはりここにも電灯はついておらず、目をいくら凝らしてもいよいよ視界には閉じきった押し入れの中で見るあの黒以外の色はなく、まるで目を閉じて歩いているようなのである。
まだその足下に流れる小さな川の流れの音だけは聞こえている。
いったい四角だったのかどうだったのかさえ、トンネルの中だったのか実は夜空の下だったのかもわからないその静かな空間を抜けたことを風が身にぶつかることで気づく。
そこには微かに風があり、星を食べに行く虫たちがちかちかと飛んでいた。
薄桃色の背の高い花がいくつも咲いていた。