あいまいなものだった
まるで夜の月の時間にそれがカーテンを通してヒラヒラと泳いでいるような淡い明かりだった
リョウトはそのぼんやりとした明かりに近づこうとそれを追いかけていた
後ろの方はどうなっていたかは分からないが、前にはその明かりに続く道はなかった
ただぼんやりとした明かりに近づいて届こうとしていたが、まるで全く届かないような距離があるようにも感じていた
リョウトと明かりの間には果てしない距離と時間のズレがあり、空間自体同じ中にあるようにはないと思われるほどだ
それに近づこうとすればするほど、次第にその明かりに近づくために向かっているのではなく、何か後ろから追いかけてくる影のようなものから逃げているのではないかという不安にもかられたのだ
その後ろの影は果てしない闇で、冬の夜の海の様に静かに黒く、恐ろしい空間の広がりだった
もはやリョウトはそれから逃れることに必死であり、一度立ち止まりそこに座り込んでしまうとその影にのみこまれ、再び出てくることもなく、その一部になってしまうのを恐れた
しかし、それに気づいてしまった時にはもはや走り続けるのは困難で、その影が追いかけてくるのを拒む為に命を少し削ってはその影に放り投げてやった
けれどもいつの間にかその黒い海の一番目の波はリョウトの肩にしがみつき、次の瞬間には彼を丸ごとのみこんでいたのである
一体どれくらいの時間が彼を追い越していったのだろうか
眠っていたのか、起きていたのかも彼には分からなかったが、気がつくと我にかえっていた
そこには何か懐かしい空気の匂いが漂い、彼の肩には一匹のネズミのようなものがのっていた
それはまるで深い山の中の一本の木の足下に永遠に隠れていたかのようにひどく怯え、震えていた
それは確かに彼の肩をつかんでのみこんだ影そのものだと彼は気づく
それは恐ろしく悲しい闇の魔物ではなく、一匹の弱々しい存在で、それ自身はひどく孤独そのものを恐れていたしリョウトにはそれがとても愛おしく思えた
そしてリョウトはそれからゆっくりと歩き出しぼんやりとした月明かりのような明かりに近づいていった
今度はその一匹のネズミを肩に乗せて
福間 一
Photo by 志保