メガトン級の水爆実験は可能か、放射能漏れの恐れは?

 今年9月9日、北朝鮮は5回目の核実験を行い、核弾頭の爆発実験に成功したと初めて発表した。同日の北朝鮮の朝鮮中央テレビは、「今回の実験では放射性物質の漏出現象は全くなかった」とし、「国家の核兵力の質・量的な強化措置は継続される」と表明している。北朝鮮はメガトン級水爆の開発配備まで核開発を行うのであろうか、その目的は何か、北朝鮮にそのような能力はあるのか、放射能漏れの恐れはないのか?

 これらの問題について、米国での核実験場の事例などを参照して、努めて実証的に検証する。

1 北朝鮮の核爆弾の出力と型式

 北朝鮮が5回目の核実験で達成した出力は25キロトン前後とみられ、戦術核弾頭のレベルを出ていない。北朝鮮は、小型化、軽量化,多種化が進み、ミサイルに搭載できる核弾頭の開発に成功したとしている。また、4回目の核実験では「水爆の実験に成功した」と自称している。

 しかし、仮にそれらが事実であったとしても、対都市攻撃用の核弾頭としては出力が小さすぎる。もし北朝鮮が最小限抑止段階の核戦力建設を目指しているとすれば、テラー・ウラム型の水爆実験に成功しなければならない。なぜなら、最大数百キロトン級の出力しかない戦術核弾頭では、敵の軍事目標、港湾などの点目標に対する攻撃には使えるが、敵国の都市を攻撃して、産業や人口に「耐え難い損害」を与えることは困難である。

 最小限抑止の水準に達するには、中英仏が保有しているメガトン級の水爆の保有が不可欠である。北朝鮮が、メガトン級の水爆を保有するうえでの最大の障害は、そのような大出力を持つ水爆を製造できるのか、またメガトン級の水爆の核実験場が確保できるかという課題である。

 北朝鮮が自称する「水爆」と通常言われる水爆とは異なっているかもしれない。北朝鮮が実験に成功したと称する「水爆」とは何か、その定義をまず明らかにしなければならない。核融合反応を利用した核爆弾をすべて「水爆」と称するならば、この意味で実用化されている水爆には、少なくとも3つの種類がある。

現在一般的に水爆と称されるのは、2段階式のテラー・ウラム型の水爆である。この型の水爆は、以下の手順で爆発させる。

(1)1段目としてまず原爆を起爆させ、それにより大量に発生するx線をケースに反射させる。
(2)そのエネルギーを利用して、2段目の核融合物質に核融合反応を起こさせる。
(3)その核融合反応のエネルギーで核分裂物質の核分裂を引き起こさせる。

 これらの分裂―融合―分裂という過程を通じて、従来の原爆の数百倍から数千倍の出力を発生させることができる。一般に、1段目の原爆にはプルトニウム239を使用する。2段目の核融合物質としては、重水素化リチウムなどが使用される。

 2度目の核分裂物質としては、核分裂の連鎖反応の起こりにくいウラン238を使用するが、出力を上げるためにウラン235を使用したり、鉛を使用して出力を半減させることもできる。

 X線のエネルギーが核融合物質にどのように伝わるかについて定説はない。X線の圧力によるとの説、X線によりケース内のポリスチレンなどの充填物がプラズマ化してエネルギーが伝わるとする説、緩衝材のタンパ―などが剥がれてエネルギーを伝えるとする説などがある。この中では、タンパ―剥離説が最有力である。理論的にはテラー・ウラム型水爆の場合は、50キロトン以上の出力で初めて効率的に出力を発揮できる。各国の最初のテラー・ウラム型の水爆実験の出力は、米国が10.4メガトン、ソ連が1.6メガトン、英国が1.8メガトン、中国が3.3メガトン、フランスが2.6メガトンと、いずれもメガトン級である。

北朝鮮の4回目の核実験の出力は7キロ~10キロトンであり、テラー・ウラム型水爆の最初の核実験の出力としては、2桁低すぎる。北朝鮮の自称する水爆は、テラー・ウラム型の水爆ではあり得ない。仮に実験場の制約などから意図的に出力を低下させたとしても、数百キロトン級にはなる。テラー・ウラム型水爆では、理論上50キロトン以上の出力でなければ効率的に機能しないとされている。

 最大出力の5回目でも25キロトン前後とみられており、その意味でも本来のテラー・ウラム型水爆とは言えない。もし目指したとしたならば、実験は失敗したことになる。北朝鮮は出力レベルから見る限り、まだ、テラー・ウラム型水爆の開発に成功したとは言えない。その他の核融合反応を利用する核爆弾として、加速型の原爆と、1段式の核融合爆弾がある。

 加速型の原爆は、現用の戦術核弾頭ではすべて採用されている方式である。原爆を起爆する直前に微量の重水素、三重水素などの核融合物質を封入し、初期段階で核融合反応を起こし中性子の発生量を増加させることにより、核爆弾の出力を約5倍以上に増強することができる。ただし、核融合物質は不安定で、保管も封入のタイミングや量の最適化も5~6回以上の核実験を行わなければ確定できないとされている。

 北朝鮮がこの加速型の原爆の開発を目指しており、これを「水爆」と称し、今回の核実験により20キロ~30キロトンの出力を得たとすれば、かなり完成度が高くなっている。今後数回の実験で完成段階に達するとみられる。南アフリカは1段階式の核融合兵器を保有していた。この1段式では、リチウム、重水素、三重水素などの核融合物質のタブレットを核分裂物質の中心部に組み込み、起爆させ、核融合を起こさせる。

 この方式で効率的に核融合を起こさせることは容易ではなく、テラー・ウラム型のような大出力は得られない。しかし、原爆よりは出力は大きく、南アフリカは、この方式により、10キロ~15キロトンの出力を60キロ~100キロトンに上げることに成功している。北朝鮮が、必要量の三重水素などを入手し金属タブレットに加工できる技術を持つことは、容易ではないとみられるが、このような1段式の核融合爆弾を開発している可能性は否定できない。

 北朝鮮が1段式の核融合爆弾を実験しており、核分裂物質の中心部に起爆用の核融合物質を封入して出力を増大させようとしている可能性はある。北朝鮮にとっても、1段式の単純な核融合爆弾の開発成功は時間の問題であり、今後数回の核実験でも可能であろう。この方式で成功すれば、百キロトン前後の出力を得ることはできるであろう。北朝鮮指導部は、核抑止が不十分な現段階での自国の脆弱性を隠し、抑止効果を少しでも高めるために、4回目の核実験で1段式の核融合爆弾開発の見通しが立ったとし、誇大に「水爆実験に成功した」と宣伝しているのかもしれない。

 北朝鮮の場合その可能性は少ないが、核融合炉の技術を水爆の起爆用に利用するという方法もあり得る。高温のプラズマを電場と磁場により封じ込めるか、または圧縮された重水素に四周から高出力レーザーを照射し、核融合反応を起こさせるという技術が研究されている。

 核融合技術は、熱核融合炉の実用化を目指して世界各国で研究が進められているが、いまだに実用化に成功していない。もしこれに成功すれば、原爆を起爆用で使う必要がなくなり、放射能汚染のないクリーンな水爆を製造することができる。しかし、北朝鮮がこのような技術突破に成功した可能性は低いであろう。ただし、北朝鮮は、1989年に金日成総合大学で重水をパラジウム電極で電気分解したときに核融合反応を観測したと主張している。

 また2010年5月12日付け韓国誌『プレシアン』は、北朝鮮の科学者たちが「核融合反応を成功させる誇らしい成果を達成した」との『労働新聞』の記事を報じている。北朝鮮が、核融合技術について研究を続けているのは事実とみられる。

2 北朝鮮に水爆の実験を行う場所があるのか?

 北朝鮮が、米中などの核大国に対し最小限核抑止能力を持とうとしているとすれば、前述したようにメガトン級のテラー・ウラム型の水爆実験が必要である。しかし、北朝鮮でメガトン級の核実験が可能だろうか。放射能汚染の問題もある。十分な広さや深さ、強度のない土質、あるいは閉鎖機構が不十分な状態でメガトン級の核実験を強行した場合、放射能の漏出、汚染拡大の恐れがある。漏出があり、大気や水質が汚染された場合、地域住民はもちろん、日本を含めた周辺国に汚染が拡大する恐れもある。

豊渓里の核実験場の河川や地下水脈が水源として使われている場合は、飲料水などに放射能汚染が広がる恐れがある。地元住民の一部に放射能汚染の被害が出ているのではないかとの報道も一部にはみられる。

 2016年9月9日の韓国のYTNテレビは、韓国内の脱北者団体が吉州郡出身の脱北者10人を対象に調査した結果、原因不明の病気に苦しむ住民が増えているとの証言が相次いだと報じている。大出力の核実験は、オフサイト施設に損害を与えないように、遠隔地で行うのが望ましい。米本土最大の地下核実験場であるネバダ核実験場は、3500平方キロの広さがあり、その中が約30カ所の区画に区分されている。

 ネバダの場合は、地下の滞水層の下に多孔質の沖積層があり、沖積層内で核爆発時に発生した水蒸気が吸収され、かつ滞水層により放射性のガスが封じ込められる。

 巨大なネバダの核実験場でも、1メガトン以上の水爆実験は、核実験場の最北西部にある、広さ435平方キロのパヒュート・メーサと呼ばれる実験場区画でのみ実施されていた。この地域では、深いところに地下の滞水層があり、700メートルに達する深さの乾燥した複数の穴の中で地下核実験を行うことができた。しかしネバダでも、1メガトン以上の核実験は、その他の実験場区画では行われていない。ネバダの数十分の1程度の広さしかない豊渓里で、メガトン級の水爆実験が可能かについては、慎重な検討が必要である。

 核爆発装置を起爆させたときの安全距離については、ネバダでの実際の核実験の結果から、出力(キロトン)の3乗根の300倍の深度(ft)とされている。1メガトンなら約3000ft(915メートル)の深さが最小限必要になる。一般的には低出力なら200メートル、高出力なら700メートル程度の深さが必要になるとされている。核実験場は、最も可能性の高い核爆発の出力規模、滞水層の有無、支援施設に近いかいった要因により概定される。選ばれた核実験場の中での細部の爆発地点を選定するに当たっては、以下の要因などを考慮する。

(1)これまであるいは現在の核実験の掘削トンネルとの近さ。
(2)基盤岩石層の深さ、爆発による破壊に脆弱な粘土や炭化層の存在の有無などの地質的特性。
(3)送電線や道路の近さへの配慮。

 核実験用トンネルの掘削方式には、垂直に掘る立て坑方式と、坑口から水平に掘ったのち、分岐点から何本かの直線的な斜め坑を掘り、その先端部で核爆発をさせる、水平坑方式がある。

立て坑の場合は、これまでの爆発地点からの離隔距離が重要要因となり、一般には立て坑の深さの半分程度離す必要があるとされている。水平坑の場合の核爆発地点の最小離隔距離は、最も近い破壊孔と予想される破壊孔の半径の合計の2倍に100ftを加えた距離とされている。例えば半径100ftの破壊孔の近くで半径100ftの破壊孔が予想される核実験を行う場合は、爆発地点の中心間で500ftの離隔距離が最小限必要になる。破壊孔の半径は土質などにより異なるが、一般には出力(キロトン)の3乗根の66倍の値(ft)になる。125キロトンなら330ft(100メートル)、1メガトンなら660ft(200メートル)となる。1メガトンの核実験を隣接した水平坑で2回行う場合は、爆発地点間では最小限830メートルの離隔距離が必要になる。

 以上から、1メガトン級の核実験を2回行うには、地表面からの深さが915メートル以上、爆発地点間の離隔距離が830メートル以上、周辺の他の爆発地点などからの安全距離も、出力最大1メガトンとみて、同様に2カ所の爆発地点からそれぞれ830メートルが必要になる。そのため、2490×1660メートル(4.13平方キロ)の広さと、深さ915メートル以上の3次元の実験場が必要になる。土質は多孔質で、上部に滞水層があることが望ましい。支援施設が利用でき、道路、送電線等から適度に離隔していることが必要である。このような条件は、広さについては、豊渓里核実験場全体の10分の1程度に相当する。平均125キロトンの低出力核実験では、離隔距離は430メートル必要になる。この程度の出力の核実験なら、豊渓里の残りの30~40平方キロの地域で数十回行うことができるであろう。その場合、必要な離隔距離を取りながら、未利用地域で2発程度の1メガトン級の水爆実験を行うことはできるであろう。

北朝鮮のこれまでの核実験の爆発深度については、1回目が310メートル、2回目が490メートル、3、4、5回目が1000メートルであったとみられており、3回目以降は1メガトン級の地下核爆発でも安全な深さで核実験を行っている。今後もメガトン級の深さ1000メートル以上の核実験用トンネルの掘削は可能であろう。以上から豊渓里の核実験場でも、今後低出力の核実験数十回と数発のメガトン級の水爆実験は不可能とは言えない。また水平的には離隔距離を取れない場合でも、3次元で垂直的にも離隔距離をとることはでき、近い場所でも十分な深度に掘れば、離隔距離の安全性に問題はない。

 今後は、南坑口など、まだ使用されていないトンネルを使用してより大出力の核実験を繰り返す可能性がある。

3 放射能漏れの恐れはないのか?

 何度も核爆実験をしても放射能漏れの恐れはないのだろうか?この点については、これまでの実績によれば、北朝鮮の過去5回の核実験では、核分裂に伴い発生する放射性物質の希ガスであるキセノンやクリプトンはほとんど検出されていない。ただし3回目の核実験では、実験の55日後、日本の高崎放射性核種監視観測所でキセノン131、キセノン133が検出されている。3回目は、濃縮ウランも使われたかどうかが疑われたが、ウランが使われたかどうかは、日数を経過しすぎて同位体の比率から確認することはできなかった。

 3回目に検出された理由については、核爆発後に微量の放射性ガスが崩落した岩石層を抜けて地表に漏れたためか、北朝鮮が何らかの目的のため放射性ガスを意図的に開放したためとみられる。意図的な開放は、実験データまたは装置の回収又は再利用のため、あるいは中心部の岩石やガスの採集などの必要性から行われることがある。今回の5回目については、核実験直後の2~3日以内に実施された、日本全国のモニタリングポストによる空間線量率の測定、航空自衛隊機による高空の大気浮遊じんの核種分析調査、全都道府県の地上での大気浮遊じんの採取と降下物(降水を含む)の採取のいずれでも、人工放射性核種などは検出されず、異常はなかった。

 今年9月15日現在、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)が世界中に展開している国際監視システムからも放射性物質の希ガスを確認されていない。もし水爆実験であれば、核融合によるヘリウム3などが確認されるはずであるが、不安定で核爆発直後でなければ採取は困難とみられている。

 これらの結果から見る限り、北朝鮮はこれまでは放射性ガスの漏出の封じ込めに一応成功していると評価できる。豊渓里の地下核実験場について、2013年2月5日に韓国国防部は、豊渓里の核実験用坑道の平面構造図を初めて公開した。この構造図は、「2010年9月8日、北朝鮮の『朝鮮中央テレビ』が放映した映画『私がみた国』第4部に現れた核実験場構造図を、韓国と米国の核専門家たちが分析した結果、判明したもの」である。「水平になった核実験坑道は核爆発の衝撃を減らすために9枚の遮蔽扉を設置して10回も角度が曲がっていることが確認された」と、以下のような分析内容を発表している。

「この映画の内容や坑道構造から見る限り、2回目の核実験の坑道のものと判断され、この北朝鮮の映像は、北朝鮮の2回目の核実験の成果を宣伝して正当化するためのものとみられる」

 国防部の分析によれば、北朝鮮の核実験坑道は豊渓里の万塔山(2205メートル)の中腹に位置している。北朝鮮は大地を垂直に数百~1000メートル掘って核実験を行った他の国々とは違い、山岳地帯の腰部を水平に掘り坑道と核実験場を作った。国防部のある関係者は「このような方式は北朝鮮の高山地形を利用した固有な方式」と評価した。万塔山は花こう岩でできていて、坑道もやはり花こう岩を掘って作ったことが知られている。

 幅・高さ2~3メートル、長さ数百メートルと推定される坑道の姿は槌の姿に似ている。槌の頭部の中心に核実験装置の設置場所がある。核実験を行うには、坑道を掘り核爆弾と放射能・地震波などの計測装備を坑道の最も奥深いところに設置する。そして核実験場所と坑道の外の統制所を連結する数千メートルのケーブルを連結する。その後には土、砂利、砂、石膏、セメントなどで坑道を埋める。坑道を埋めた後に外部の統制所からの遠隔操作で核実験を行う。150キロトン以下の地下核実験場として31回の核実験が行われた、ネバダのレイニエ導水メーサでは、1カ所の坑口から水平坑が約1キロ掘られ、そこから分岐して数カ所の核爆発地点まで斜めの直線トンネルが掘られた。各斜めトンネルには並行して細いバイパス・トンネルが掘られた。

 北朝鮮が2回目と同じ坑口から3回目の核実験を行っていることは確認されており、ネバダのように坑口の水平坑から奥のある地点から、何本かのトンネルに分岐している可能性が高い。その点が、韓国国防部の分析では明確ではない。また斜め坑の存在についても明確ではない。2度目は地表面から深さ490メートルの地点で、同じ坑口から行われた3回目は深さ1000メートルで核爆発が起こったとみられており、山の中腹から分岐点までは水平に掘り抜かれ、その後は分岐点から複数の斜め坑が核爆発地点まで掘られた可能性が高い。ただし、その形状は直線ではなく、以下に分析されているようにらせん状になっているのであろう。

坑道の内部構造については詳しく公表されている。

 「核爆弾の設置場所は鋼鉄製の3重遮蔽扉で密閉される。この中には計測装備も設置されている。核爆発が生じた場合には、数百メートルの坑道と9枚の遮蔽扉(または遮蔽壁)を経てその衝撃が全て吸収されるようになっている。1~4番目の遮蔽扉までは各遮蔽扉の後から坑道が90度に4回折れ曲がっている。4番目の遮蔽扉の後には1番目の暴風・残骸吸収空間(格納容器)が設置されていた」

また核爆発の影響を緩和するため、「核実験場所から3~4番目の遮蔽扉までは核爆発の激しい衝撃が当たる所なので、坑道がすべて直角に折れている」。核爆発の影響について、国防部関係者は「1番目の遮蔽扉は3重の鋼鉄製だが、2~9番目の遮蔽扉は扉か壁かは確実でなく、材質も分からない。核爆発の超高熱で花こう岩が溶け、3~4番目の遮蔽扉までは坑道と遮蔽扉が全て崩れるものと予想される」と、遮蔽扉の約半数は崩壊すると見積もっている。

 この豊渓里の核実験場は、西坑口の施設内部の配置図とみられ、今年に入り実施された北坑口とは異なるが、北坑口も同様の構造になっている可能性は高い。韓国国防部が分析したような、9カ所以上の遮蔽扉または遮断壁が設けられたらせん状の形状が一般的とすれば、それがこれまでの核実験で放射性ガスを封じ込め、外部からのガスの検知を難しくしてきたと言えよう。ただし、「国防部は2006年北韓の1回目の核実験の時、一直線の坑道を使ったために放射性の気体が流出し、2回目の時は今回のように折れ曲がった坑道を使ったために流出しなかったと推定した」とされている点は注目される。北朝鮮は、ネバダにあった信頼性のおける閉鎖機構を保有しておらず、遮蔽扉しかなかったため、ネバダのような直線的坑道では爆風の圧力と熱に耐えられず、地下の斜め坑道をらせん状にしたものとみられる。

 北朝鮮の現在使用している核実験施設の閉鎖機構は、韓国国防部の分析結果から見る限り、核爆発時の爆風圧と高熱はらせん状のトンネル構造と9枚の3重遮蔽扉によって吸収・遮蔽するようになっているに過ぎない。韓国国防部は、3~4番目の遮蔽扉までは核爆発の衝撃と熱ですべて崩れるとみている。このような構造では、確実にメガトン級水爆の爆発に耐えられるかどうか疑問がある。地下1000メートル程度の深さにらせん状に掘られたトンネルが、爆発時の衝撃で崩落した場合に、地表まで亀裂が波及する恐れもないとは言えない。

 ネバダの核実験場では、漏出防止のために、枝分かれ式の水平坑の場合、機械的な閉鎖機構がトンネルの内部に3重に設置されていた。爆発実験前に、トンネル内部は漏出を最小限に止めるため真空状態に維持された。バイパスのトンネルは、すべてセメントで封印され、爆発地点につながるパイプは、爆発時に拡張してガス圧を逃がすように作られていた。

 機械的な閉鎖機構としては、爆発地点の近くから順に、まず、小出力用のコルク栓のような構造の鋼鉄製の閉鎖機構、または直径2メートル10センチの穴を厚さ約30センチのアルミ合金の扉により高圧ガスで0.03秒以内に閉鎖できる鉄製の機構(MAC)、2番目はMACと同様の扉に加え高圧ガスで封印する閉鎖機構(GSAC)、3番目には、水平にヒンジで支えられた重さ9トンの鉄製の閉鎖扉が重力で落下し、0.75秒で穴を閉鎖できる総重量40トンの機構(TAPS)が備えられていた。

 MACとGSACは、核爆発時の1平方インチ当たり1万ポンドの高圧にも耐えられるように、またTAPSは1平方インチ当たり1千万ポンドの高圧と華氏1千度以上の高温に耐えられるよう設計されていた。このような装置については一部公表されており、北朝鮮の技術でも設置が不可能とは言えない。水爆実験でも同様の装置により、原理的には放射性ガスの封じ込めに成功する可能性はある。しかし北朝鮮が現在保有している遮蔽扉では、メガトン級の核爆発エネルギーに耐えて確実に放射性ガスの封じ込めに成功するかどうかには疑問がある。

北朝鮮が核実験を今後も継続するとすれば、単に制裁を加えるだけでは、放射能漏れの防止にはつながらない。日本を含めた周辺国による、放射能汚染に対するモニタリング、情報共有、警報発令などについて、国際的な協力態勢をさらに強化する必要がある。国際協力を実効あるものにするには、特に中露の協力確保が不可欠である。

放射能漏れの恐れは、出力の増大、度重なる核実験による地盤の強度低下などの要因により、より高まるであろう。核実験の安全性確保のため、核拡散につながらないように留意しつつ、北朝鮮に対し放射性ガスなどの封じ込めのための何らかの技術的な勧告を与え、あるいは必要な規制を要求すべきではないかと思われる。

まとめ

北朝鮮としては、自主独立路線を貫くために、米中などの核大国に対しても、「耐え難い損害を与える」ことのできる最小限抑止能力を保有していることを実証する必要がある。そのためには、メガトン級のテラー・ウラム型水爆の実験は不可欠である。2020年頃までに北朝鮮が最小限核抑止能力の確保を目指すとすれば、豊渓里の核実験場の能力とこれまでの実績から判断する限り、今後150キロトン以下の低出力の加速型原爆又は1段式の水爆を年間1~2回、計5~6回以上実験し小型化軽量化を進め、まず戦術核弾頭の信頼性を確認するとみられる。

 その後、2020年頃までに1~2回のメガトン級の戦略核弾頭の水爆実験を実施することになると予想される。核弾頭の投射手段はその頃までに兵器システムとして出そろうことになるとみられることから、2020年代に入っても、核弾頭の開発配備が北朝鮮にとり主要課題となる。2020年代も北朝鮮は、各種の戦略・戦術核弾頭の実験を、弾頭の性能向上、既存の弾頭の信頼性の検証などのため、続けるとみられる。豊渓里の核実験場は、数十回の核実験に耐えられる広さがあり、実験場の不足は制約にならないであろう。

 北朝鮮は、放射能汚染封じ込めの技術も保有しており、水爆実験でも封じ込めに成功する可能性はある。しかし放射能漏れ、地震による被害、水質汚染などが生ずる可能性は否定できない。特に、北朝鮮が信頼性のおける閉鎖機構をまだ保有していないとみられることは重大な問題である。

 北朝鮮の核実験による被害の発生と波及防止のための国際的な協力体制を、早急につくり上げねばならない。また核実験の出力増大に伴い、北朝鮮を国際的な核実験の安全管理面での管理レジームに入れ、放射能汚染の拡大、不慮の事故などを招かないようにさせる必要性も高まるとみられる。

筆者:矢野 義昭