またたび

どこかに住んでいる太っちょのオジサンが見るためのブログ

BUTTERFLY-6

2009-02-24 12:30:03 | またたび
 外の工事の騒音で目が覚めた。
 アパートから百メートル先で古い建物が壊されていた。
 コンクリートの砕ける音がいやな目覚めを誘った。
 財布の中から、昨日撮ったプリクラを取り出した。僕は全部口が半分開いていて、半笑いの同じ表情になっていて、一方とも子は満面の笑みでピースサインをしていた。
 プリクラを眺めながら、昨日のデートのことを思い出していた。
 場所は入念に下見をした雰囲気のあるイタリアンに決めた。
 料理を食べた後は得意のビリヤードに誘い、何とか自分の弱い部分を見せずに済んだ。
 僕なりに順調に思えていたし、会話は思いのほかスムーズに運べた気がする。とはいえ会話は彼女の質問攻めのようだった。
 「博之くんは正社員とアルバイトの違いって何だと思う?」
 「博之くんは彼女に何を求めたいの?」
 「彼氏以外の男友達と遊んだりしたら、どうする?」
 数ある質問を僕は考慮しながらも自分なりの答えは言えたと思う。
 あと、驚いたことはビリヤードのときに気づいたのだが、彼女の背中に大きなバラのタトゥがあったことだ。
 「ねぇ、とも子さん聞いてもいい?そのタトゥは本物?」
 彼女は8番のボールに力強く当てた。
 ビリヤード独特の乾いた音が響いた。キューを構えたまま彼女は僕に振り向いた。
 「3年前くらいにね…色々あってさ。タトゥは嫌い?」
 「別に好きでも嫌いでもないよ。初めて見たからさ。何でしたの?」
 「秘密」
 即答だった。
 これ以上聞いて、機嫌を悪くさせたら嫌だったので、聞かないことにした。
 人間には聞いてならないことはたくさんある。
 ゲームを終えると帰りにプリクラを撮った。
 「今日はたくさん質問しちゃたけど、何か私に聞きたいことある?」
 帰りの駅のホームで彼女は別れ際に言った。
 僕は少し考えて、はみかみながら聞いてみた。
 「うーん…今日は楽しかった?」
 「楽しかったよ」
 「また遊んでくれる?」
 「都合が合えばね」
 黒のコートにピンクのマフラーのとも子の後姿は眺めていた。
 とも子は時々振り返り何度も手を振った。僕も照れながら振り返るたびに手を振った。


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