リギスの唄姫の名称は、ダテではなかった。
おお、ケルベロスよ、ケルベロス
三匹の息子を人間界に送った冥界の魔犬
今日も三つの頭で何思う
今宵、四人の魔女たちが
別れた己の息子らにメッセージを伝えに
はるかかなたの人間界へ行こうではないか
おお、冥界の守り神よ、冥界の守り神
マクミラと共に生きるキル、ルル、カルの父
明日は三つの首で誰と闘う
遠く離れた息子らを汚れた世界から救うために
我らがタンタロスから煉獄界へと上っていこう
息子らに伝えたいことがあれば我らに託すがよい
我らの手で汚れた世界で生きなくてもよいよう救ってやろう
リギスの唄声と竪琴の音色に、ケルベロスもうつらうつらし始めている。
(よし。皆、今の内じゃ)ドルガが、魔犬が眠りにつきかけていることを確認する。
四人が、人間界へと通じる煉獄界へと向かおうとしたときだ。
サディストの血が騒いだメギリヌが、にやりと笑った。(お待ち! 行きがけの駄賃じゃ)それっというかけ声と共に、メギリヌがステッキをケルベロスの未来を見通す3番目の首の右目に向かって投げつけた。
グサッ。イヤな音がして、ステッキが深々と突き刺さった。
さすがはケルベロス、今の今までうたた寝をしていたのが、何が起こったかを瞬時に理解した。1番目の過去をむさぼる首と2番目の現在をむさぼる首が、必死に四人の魔女を睨みつける。
だが、脳に直結する視神経を傷つけられて、3番目の首は苦悶の表情を浮かべる。泣き声を上げるようなことはしないが、次第に冷や汗が流れていく。
(今後は片目のジャックと名乗るがよいわ。戻れ!)メギリヌが命令すると、ステッキが彼女の手元に戻ってきた。
ステッキが抜けて、三番目の首の右目からどろりと眼球が垂れ下がった。
(さあ、これで準備完了! 人間界へ降りてから、ケルベロスにいろいろ告げ口されたのでは困るからの)
他の三人は、まったくよけいなことをするとあきれ顔。
(ライムの言うとおり、お主の息子たちは汚れた世界で生きなくてもよいように救ってやるわ)と、悪びれた様子もない。
彼女たちは、メギリヌがよけいなことをしたと後に知ることになる
ケルベロスは、あたかもこの屈辱を忘れまいとするかのように、あるいは眼球を体内に戻すことで回復を早めようとするかのように、垂れ下がった眼球をガリガリと食べてしまった。食べ終わると、息子たちを送り出した時以来の冥界中に響き渡る大声でケルベロスが吠えた。
ガォーーン!
その時、ニューヨークの人々は、深夜にもかかわらず犬の遠吠えを聞いた。
アォーーン!
父ケルベロスの叫びを聞いたキルベロス、ルルベロス、カルベロスの三匹が、まだ見ぬ魔女たちに復讐の誓いを立てた瞬間であった。
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