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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第三部闘龍孔明篇 第11章—5 生態系の死

2019-03-15 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「やさしさを学ぶ・・・・・・愚かな人間にそんなことが可能なの?」
「さて、どうじゃろう。人は弱い。だが、弱い故に学ばねばならぬことを知らぬ者のなんと多いことよ。性善説と性悪説ということばがあるが、儂に言わせれば、生弱説と生強説とでも言いたいものじゃ」
「しょうじゃくせつとしょうきょうせつ?」ゼルゾラがセクシーな声で言った。
「生弱説とは、人は生まれながらにして弱い存在だと言うこと。弱い故に、簡単にゆがむ。人を悲しみ、妬み、怒り、あげくは逆恨みをして誹謗中傷するようになる。生強説は、人には考える力があり成長できる強さがあるということ。強さとは、誰かを倒す力があるということではない。自分自身に負けないこと。努力して自ら選んだ道で高見を目指し、過去を反省して誤りを繰り返さないこと以上の強さがはたしてこの世にあろうか?」
「おじいちゃん、人間にしておくにはもったいないわね」カズームが言った。
「たいした褒めことばじゃ。ありがとう、お嬢ちゃん」
 青龍は、自分が夢魔の女王の血を引いていることは言わずにおくことにした。夢魔たちも深層心理の中のペルソナに過ぎない青龍では、まさかこの老人が自分たちの兄であるとは夢にも思わなかったに違いない。
「『迷いを捨てよ』と師はのたまう。儂なら『欲を捨てよ』と言いたいところじゃ。物欲、名誉欲、出世欲、愛欲。コンプレックスならプラスに働けばバネになることもあるが、欲にはキリがない。人に必要なのは矜持なのじゃ」
「矜持?」享楽的に生きる夢魔たちには、分からないことばだった。
「矜持とは、自負。つまり、自分の能力を信じ、それを誇りとすることじゃ」顔を引き締めると、青龍は続けた。「たとえどんなに強く生まれようとも、人は周りの影響を受ける。悪しき人間たちのエゴによって生態系の寿命が近づいておる。たとえば、過去半世紀で全世界の海洋プランクトンは3割も減少した。世界中が『原因不明の不漁』と騒いでおるが、これ以上わかりやすい説明などないではないか。現状、英国、ロシアを始めとした国々の公海での原発からの汚染物資廃棄、東南アジアと中国を中心としたプラスチックなどの永久不滅なゴミの垂れ流し、先進国工業地帯からの汚水の影響、さらに温暖化ガスが海水に溶け込むことによる海水温の上昇。魚の餌になる海洋プランクトンが減れば、当然取れる魚の量も減る。急激な減少は、加速度化しつつある。海洋プランクトンが半分以下になれば、一気に世界の漁獲高も減少する。海水だけではない。大気と河川の汚染、気候変動によって全生態系が死に絶えようとしている時、いまだにアメリカでは国際競争力の確保が優先とか戯言を言っておる。笑えるのは、海洋プランクトン激減を知ったあるジャーナリスト崩れの学者は、生態系基盤の消滅? そんな先の話より自分は今、起こりつつある金融危機の方がコワいと言いおった。見た目は同じに見える環境汚染よりも人間様のサイフの中身が減ることがコワいのじゃ! 人間など、しょせんは自分だけがよければ他人などどうなってもよい、今日が無事なら明日はどうなってよいというエゴの固まり。孫を育てたのは世界に何カ所かあるニュートラルゾーンじゃったが、悪い地場にとりつかれた場所がだんだんと増えておる」

     

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