
この料理には、忘れられない思い出がある。
葉山でシェフをしていた…ある日。
いつも仲良く連れ添っている常連客の老夫婦は、店のすぐ裏手に住んでいる。
ランチタイムも終わる頃…。
おばあちゃんがひとりで店にいらした。
席にも座らず…
いつもと様子が違う。
店の奥さんが応対をしていた…。
「シェフ…ペスカトーレをお持ち帰りになりたいそうですが…」
「えっ…。ペスカトーレ?…パスタのお持ち帰りは…」
通常…パスタのお持ち帰りは、お断りしていた。
イタリアンパスタは、時間の経過と劣化が比例する。
奥さんがキッチンに入ってきて…
オイラにささやいた。
「おじいさんが、あと3日位の命で…。最後に…おじいさんが大好きだった。シェフのペスカトーレを食べさせてあげたいそうです」
「えっ…。………」
「この前、来た時…あんなに元気そうだったけど…」
「末期の癌だそうです…」
「えっ…そうだったの…」
「俺のペスカトーレなんかでいいのかな…?」
「いつも美味しそうに食べられて…
いつまで待ってでも食べたいって…。
最後にペスカトーレ…
シェフ…嬉しいですよね。そこまで言われて…」
「わかりました。作ります…家まで届けると伝えて下さい…」
複雑な気持ちだった。
嬉しいというより…悲しかった。
すべてのオーダーの料理を出した後。
おじいさんに食べて頂くペスカトーレの準備をした。
アルバイトが仕込んだペスカトーレの具材は、冷蔵庫にあったのだが…。
新たに自分で、ひとつひとつの具材を丁寧に一人前分だけ仕込んだ。
納得のいく完成度の高いペスカトーレを作ってあげたかった。
アルミのフライパンを磨きなおし…
スパゲティを茹でるお湯の塩分を確認。
オリーブオイルを注いで…
ニンニクのみじん切りを入れる…
グツグツ沸騰したお湯の中にスパゲティを投入…
タイマーの時間は、いつもより20秒早く鳴るようにセットした。
パスタが出来てから、家まで届ける時間とおじいさんが食べ始めるまでの時間を15分~20分と推定した。
アルデンテシモ(アルデンテよりかため)に仕上げれば…
食べる時には、丁度良い硬さになるはず…。
はまぐり、渡り蟹、あさり…
火が入りにくい材料から…フライパンの中へ入れる。
白ワインを注ぎ…
フタをする…全ての材料が入って…
マリナーラソースを入れる…
複雑な気持ち…
他に食べたいものは、なかったのかな…
人生最後の思い出の食事…
そう思うと…
目が潤んだ…
店が忙しい時でも、本当に楽しそうに待っていてくれた。
食べ終わってお帰りになる時は、来店したとき以上の笑顔で…
「ごちそうさまー」と夫婦で挨拶してくれた。
ある時…忙しく…
オーダーが立て込んでいる時にご来店した。
キッチンは、強烈に忙しく…
ご夫婦の料理が出来るまでには、お時間がかかる事はご来店した時に予想できたので…
「お料理が出来るまでに時間がかかりますから…。もし差し支えなければ日を改めたほうが…」
と接客係が言うと…。
「大丈夫ですよ…。寝て待っていますので…。出来たら起こしてくださいね…」
このご夫婦は、笑ってそう答えてくれた。
冗談にしか聞こえないが…
本当に寝てしまった…。
店の奥さんが…微笑んで…
「本当に寝てます…余り急いで作らなくても大丈夫みたいです」
料理が出来あがると…
「大変、お待たせいたしました…。お料理が出来ましたので…」
そう言うと…嬉しそうに起きられて…
仲良く楽しそうに召し上がられた…。
そんな思い出がスライド写真を見ているように蘇る。
そこまでして…食べてくれたペスカトーレ…
嬉しいはずなのに…
何故か胸が詰まるほどに悲しい…。
アルデンテシモにあがったスパゲティを海の幸が入ったマリナーラソースに入れる。
慎重に塩、胡椒をして皿に盛り付ける。
皿に軽くラップをかけて…
家まで届けさせた。
4日後…
綺麗な菓子折りをもって…
おばあさんがご来店した。
昨夜、息をひきとったとの事。
お通夜とお葬式は、故郷の京都で行うとの事。
おひとりになった、おばあさんは、京都にいる娘夫婦と一緒に暮らす事になった事。
「大好きだった…あのスパゲティ…本当にありがとうございました。『旨い旨い…』って言って全部食べたんですよ。本当に嬉しそうでした…」
胸が詰まって…言葉にならなかった。
1ヵ月後、おばあさんは迎えに来た娘さん夫婦と京都に行った。
追伸:この時の葉山のお店でのエピソードは、前に書いたこんなエピソードもありました。沢山のお客様から学んだ事の数々…。本当にありがとうございました。

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シェフの落書きノート 日記、記事の目次
葉山でシェフをしていた…ある日。
いつも仲良く連れ添っている常連客の老夫婦は、店のすぐ裏手に住んでいる。
ランチタイムも終わる頃…。
おばあちゃんがひとりで店にいらした。
席にも座らず…
いつもと様子が違う。
店の奥さんが応対をしていた…。
「シェフ…ペスカトーレをお持ち帰りになりたいそうですが…」
「えっ…。ペスカトーレ?…パスタのお持ち帰りは…」
通常…パスタのお持ち帰りは、お断りしていた。
イタリアンパスタは、時間の経過と劣化が比例する。
奥さんがキッチンに入ってきて…
オイラにささやいた。
「おじいさんが、あと3日位の命で…。最後に…おじいさんが大好きだった。シェフのペスカトーレを食べさせてあげたいそうです」
「えっ…。………」
「この前、来た時…あんなに元気そうだったけど…」
「末期の癌だそうです…」
「えっ…そうだったの…」
「俺のペスカトーレなんかでいいのかな…?」
「いつも美味しそうに食べられて…
いつまで待ってでも食べたいって…。
最後にペスカトーレ…
シェフ…嬉しいですよね。そこまで言われて…」
「わかりました。作ります…家まで届けると伝えて下さい…」
複雑な気持ちだった。
嬉しいというより…悲しかった。
すべてのオーダーの料理を出した後。
おじいさんに食べて頂くペスカトーレの準備をした。
アルバイトが仕込んだペスカトーレの具材は、冷蔵庫にあったのだが…。
新たに自分で、ひとつひとつの具材を丁寧に一人前分だけ仕込んだ。
納得のいく完成度の高いペスカトーレを作ってあげたかった。
アルミのフライパンを磨きなおし…
スパゲティを茹でるお湯の塩分を確認。
オリーブオイルを注いで…
ニンニクのみじん切りを入れる…
グツグツ沸騰したお湯の中にスパゲティを投入…
タイマーの時間は、いつもより20秒早く鳴るようにセットした。
パスタが出来てから、家まで届ける時間とおじいさんが食べ始めるまでの時間を15分~20分と推定した。
アルデンテシモ(アルデンテよりかため)に仕上げれば…
食べる時には、丁度良い硬さになるはず…。
はまぐり、渡り蟹、あさり…
火が入りにくい材料から…フライパンの中へ入れる。
白ワインを注ぎ…
フタをする…全ての材料が入って…
マリナーラソースを入れる…
複雑な気持ち…
他に食べたいものは、なかったのかな…
人生最後の思い出の食事…
そう思うと…
目が潤んだ…
店が忙しい時でも、本当に楽しそうに待っていてくれた。
食べ終わってお帰りになる時は、来店したとき以上の笑顔で…
「ごちそうさまー」と夫婦で挨拶してくれた。
ある時…忙しく…
オーダーが立て込んでいる時にご来店した。
キッチンは、強烈に忙しく…
ご夫婦の料理が出来るまでには、お時間がかかる事はご来店した時に予想できたので…
「お料理が出来るまでに時間がかかりますから…。もし差し支えなければ日を改めたほうが…」
と接客係が言うと…。
「大丈夫ですよ…。寝て待っていますので…。出来たら起こしてくださいね…」
このご夫婦は、笑ってそう答えてくれた。
冗談にしか聞こえないが…
本当に寝てしまった…。
店の奥さんが…微笑んで…
「本当に寝てます…余り急いで作らなくても大丈夫みたいです」
料理が出来あがると…
「大変、お待たせいたしました…。お料理が出来ましたので…」
そう言うと…嬉しそうに起きられて…
仲良く楽しそうに召し上がられた…。
そんな思い出がスライド写真を見ているように蘇る。
そこまでして…食べてくれたペスカトーレ…
嬉しいはずなのに…
何故か胸が詰まるほどに悲しい…。
アルデンテシモにあがったスパゲティを海の幸が入ったマリナーラソースに入れる。
慎重に塩、胡椒をして皿に盛り付ける。
皿に軽くラップをかけて…
家まで届けさせた。
4日後…
綺麗な菓子折りをもって…
おばあさんがご来店した。
昨夜、息をひきとったとの事。
お通夜とお葬式は、故郷の京都で行うとの事。
おひとりになった、おばあさんは、京都にいる娘夫婦と一緒に暮らす事になった事。
「大好きだった…あのスパゲティ…本当にありがとうございました。『旨い旨い…』って言って全部食べたんですよ。本当に嬉しそうでした…」
胸が詰まって…言葉にならなかった。
1ヵ月後、おばあさんは迎えに来た娘さん夫婦と京都に行った。
追伸:この時の葉山のお店でのエピソードは、前に書いたこんなエピソードもありました。沢山のお客様から学んだ事の数々…。本当にありがとうございました。

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