「うちにはお雛様がなかったんだよね。
小学生くらいの頃、
お雛様が欲しいって言ったら、
“お雛様なんて必要ないのよ”って言われた。
でもそう言うお母さんが、折り紙でお雛様を折ってくれた事を覚えてるわ。
折り紙を何重にも重ねて着物を作る立体的なお雛様。頭はマッチ棒なの。
お雛様って、母方の祖父母が買ってくれるものなんだってね。
その頃、お母さんの両親はもういなかったから、
今思えば、お母さん、きっと辛かったんだろうな。」
何年か前にそんな話をコウさんにしたら、
「(私と妹と)女の子が二人もいるのにね。それは寂しかったね」
って、私の話を聞いて言ってくれました。
コウさんちには、義姉のお雛様とコウさんの五月人形があって、
毎年、それを飾ってお祝いしてもらうのが、子供の頃とても楽しみだったからって。
結婚した後も義母は、季節になると実家で必ず飾ってお祝いしていてくれましたし。
そんな訳で、
「今からでも遅くないから、お雛様買いに行こうよ。
せっかく、埼玉には“人形のまち岩槻”(現さいたま市岩槻区)があるんだから!」
って言ってくれたんです。
コウさんの嬉しい言葉に、
やっと自分のお雛様を買ってもらえるんだ!って、夢のような気持ちになりました。
そして、次のお休みに二人で岩槻まで出掛けました。
岩槻には駅前通りはもちろん街中にたくさんのお人形屋さんがあって、
桃の節句前には、どのお店にもお雛様がいっぱい並んでいます。
私は嬉しくなって、
次々お店に入っては、お雛様を見て回りました。
七段飾りや、親王飾り、どのお雛様も立派で綺麗なお雛様ばかりです。
なんて綺麗なんでしょう…こんなお雛様がずっと欲しかったんだよね。
でもね、
「かわいいねぇ…」って言いながらたくさんのお雛様を見ているうちに…
やっぱりこのきらびやかなお雛様たちは、
これからすくすく育っていく女の子のためのお雛様だなぁって思えてきたのです。
もう大人になった私の所に来ていただくお雛様じゃないな…って。
そして、
こうやってたくさんのお店をまわって本気で自分のお雛様を選ぶことが出来ただけで、
もう充分満足な気持ちになっていることに気付きました。
「やっぱり、やめとくわ」。
そう言って、私の気持ちををコウさんに話すと、
「ホントにいいの?」って何度も聞いてくれたけど、
ホントに、ホントだったのですよ。
その時感じた、小さい頃からの願いが叶った満足感は今でも思い出すことができるほど。
それまではお雛様の思い出のなかった私の、嬉しいお雛様の思い出です。
それから数年後の先週、松屋銀座に行った時に、
「ちょうど時期だからお雛様の展示会とかやってるんじゃない?」
ってコウさんが言うので、上階に上がってみると本当にありました。
藤原了児さんという雛人形作家さんの個展です。
そこでこの「小さきものの世界」と名付けられたお雛様に出逢いました。
ひとつひとつ丁寧に作られたお雛様がとても可愛らしく、
作った方の温かみが感じられました。
私が逢いたかったのはこういうお雛様だ…。
「気に入ったんでしょ?今買わなかったら、もう一生買わないと思うよ」
そういうコウさんの言葉に、心が決まりました。
やっと逢えた、はじめての、私だけのお雛様。
お母さんにも見せてあげたいな。
ほら、とっても可愛いでしょう?
旦那様に買ってもらったんだよ。
お母さんが折ってくれた折り紙のお雛様にちょっと似ているかも。
並んだお雛様を見ながら、
亡くなった母のことを考えたら、
ポロリと涙がこぼれました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/db/e26c6df14ba96c683be8e7896d7fa240.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/0a/e992815ab8cf9732bd46bfd1ccdc9ecb.jpg)
大正から昭和にかけて作られたお雛様のお道具を使って作られたそう。
この漆塗りの箱の中にお雛様を納められます。
雛壇は昔のお雛さまで使われていたお道具“長持ち”を使い、
布作家の方が手染め手描きをした雛壇の敷物を敷き、
小さな姫貝合わせが二組。
どれもよく考えられて、丁寧に作られています。
ずっと眺めていてもあきない、可愛らしさ。