オンライントーク プログラム
「都市とアートの新しい関係」
講師:高橋信也氏(京都市京セラ美術館 事業企画推進室ゼネラルマネージャー)
日時:2021年 5月29日(土) 14:00〜16:00
参加者:45名
今回のトークプログラムでは、次の3項目を中心にお話しいただきました。
1、美術業界の構造
2、美術館の機能と役割
3、京都市京セラ美術館について
※項目ごとに掲載いたします。
1、美術業界の構造
この図は美術業界の様々な機能の関係性を表している。
これらの関係性には、経済行為、交換行為が含まれる。縦軸は公共性を示す。
1) アーティスト(チャート上の真下のポイント)
・アーティストは作品をつくり、図の中心のゼロ地点に作品を提出した時点でアーティストという立場となる。
2) 作品
・作品は、(ここでは一旦)4つの異なる価値観(オーディエンス・クリティック・コレクター・ギャラリー)により評価されることによって、初めて社会的存在としてのアート作品になる。
・作品は様々な価値観で見られることで、評価されたり、批評されたりすることになる。作品や表現行為には、この段階で自由でアナーキーな性格が予め付与されることになる。
3)オーディエンス
・まずは作品を見る行為から始まる。
・オーディエンスの立場から作品を見ることが、視覚芸術が社会化する最初の行為である。
・オーディエンスから、コレクター、及びクリティックの二つ方向に分かれて進化する。両者はほぼ対極的な立場となる。
4) コレクター
・コレクターはアートに心酔することから始まる。
・作家の精神的な場所を理解し、そして共有するために、作品を所有する。作家の精神的な地平がどこに行くのかを見て、立ち会って、一緒に生きていく。
・アートが経済社会にコミットする大きな源泉である。
5) クリティック
・チャート上、コレクターの真反対に位置している。
・作品の美術、美学的背景や社会の動向や哲学に照らして、作品の見方や価値を照射する作業を行う。
・作品の性格やオーディエンスの視点を誘導する。
・知の分野での、アートの位置づけをする仕事。知の枠組みを書き換える。
6)ギャラリー
・作品を、経済的価値・交換価値に転換する装置。
アートは普通の商品と違う。例えば、コンピュータはスペックで価格が変わるが、アートの価格は究極の交換価値によって決定される。
従って平均落札価格20万の作品が、オークションで200万になったりすることもある。交換価値のみで成立している商品を、現実的で、経済的な行為・価値に転換する仕事である。
・アーティストやアートが経済社会で存在するための基本的機能である。
・プライマリーギャラリー、セカンダリーギャラリー、オークション等、相異なる原理によって偏在する、様々な分野のマーケットをコントロールする。
<1、のまとめ> 上記のことから-
経済情勢、時代背景、業界トレンドが、それぞれのパワーを複雑に絡み合わせながら、あるアスペクトを作っていくのが美術業界である。
その星雲の上に、美術館の存在がある。チャートの縦軸は公共性の軸で、美術館は公共性において頂点にあるが、価値が上位という意味ではない。
アーティストの構想段階では作品は極私的なもので、まだ客観的に見えるわけではない。アートの芽が、試行錯誤を経て作品となり、0地点に上がってくる。そこでプライベートな構想は、作品として客観化され、社会化される。
幾つもの異なる価値観で評価され、認められ、批評され、それらを受け止めながら作品となって存在する。
個人個人の立場で、異なる意見が自由に言えることが美術業界のある種のアナーキーさ、自由さを保証している。