美術館にアートを贈る会

アートが大好きな私たちは、
市民と美術館の新しい関係の構築をめざしています。

2021総会・講演会 議事録 (2)

2021-11-30 16:22:25 | Weblog

■講演会

「東京ステーションギャラリーの展覧会について  都市型美術館の戦略」
 スピーカー:東京ステーションギャラリー館長  冨田章氏
 聞き手:宝塚市立文化芸術センター館長 加藤義夫氏

    冨田 章 氏

 

●東京ステーションギャラリーの特徴
東京丸の内駅舎を生かした個性的な煉瓦壁の、中規模美術館。
世界一アクセスのいい美術館(東京駅改札から歩いて5秒)であること。
しかし、鉄道利用客の誘導を阻害せぬよう長い行列は作れない。

→ 集客ではなく、専門家が唸るような内容の濃い展覧会を目指す。

 

●東京ステーションギャラリーの方針(三本柱と裏テーマ)
1、近代美術の再検証
2、現代アートへの誘い

3、鉄道、建築、デザイン
4、裏テーマ

 

1、近代美術の再検証

近代美術を独自の視点から問い直し、巨匠たちの仕事の再検証や、知られざる作家の発掘など、従来の美術史に新しい光を当てる。

Ex.
「動き出す!絵画 -ペール北山の夢 -モネ、ゴッホ、ピカソらと大正の若き洋画家たち-」 
 ・・・北山清太郎に焦点を当てる(和歌山県立近代美術館との共同企画展)
「洋画家たちの青春 —白馬会から光風会へ」
 ・・・アカデミックな光風会を取り上げる
「夢二繚乱」
 ・・・美人画ではなく、夢二のグラフィックデザインに絞って展示
「シャガール 三次元の世界」
 ・・・彫刻家シャガールを日本で初めて取り上げる
「いわさきちひろ、絵描きです。」
 ・・・絵本作家ではなく、画家としてのいわさきちひろ

 


2、現代アートへの誘い

難解と思われがちな現代アートを、さまざまな作家やテーマを切り口として、その自由な表現の魅力を親しみやすく楽しめるかたちで発信する。

Ex.
「始発電車を待ちながら 東京駅と鉄道をめぐる現代アート 9つの物語」
 ・・・リニューアル開館第一弾、鉄道と東京駅をテーマに現代作家に参加して作品を作ってもらう、パラモデルなど。
「12Rooms 12Artists UBSアート・コレクション」
「アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国」
「吉村芳生 超絶技巧を超えて」
「プライベート・ユートピア ここだけの場所」

 


3、鉄道、建築、デザイン

重要文化財に指定され、日本の近代建築を代表する東京駅に位置する美術館として、駅と関連の深い鉄道・建築・デザインを随時テーマとして取り上げる。

Ex.
「東京駅100年の記憶」
「くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質」
「辰野金吾と美術のはなし 没後100年特別小企画展」
「アルヴァ・アアルト もうひとつの自然」
「開校100年 きたれ、バウハウス ―造形教育の基礎―」

 

 

0、裏テーマ

「他館がやらない」「誰も知らない」「意外性のある」「はじめての」等を好み、「二番煎じ」「よく見る」「有名な」「ありきたりの」等を避ける。

 

→ 当初渋い展覧会を続けたことで入館者数が減り、行列を作らないというミッションは達成した。しかし、集客は現在のままでも良いが収支を少し改善してほしいという財団からの要望があり、長い行列を作らない程度に入場者数を増やすための戦略をたてることになった。

  • 東京ステーションギャラリーの個性を強く印象付けることで固定ファンを増やす。
  • 集客のための展覧会ではなく、個性の強い展覧会で集客の底上げを狙う。
  • 知名度のある作家の展覧会も忌避せず、ただし、知られざる面を取り上げて新しい視点を示す。
  • 広報を強化する。広報担当を採用。

Ex.
「没後40年 幻の画家 不染鉄展」
「木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ」
「もうひとつの江戸絵画 大津絵」
 →今までは博物館で開催されることが多かった大津絵を、美術館で美術として取り上げる
「メスキータ」

「パロディ、二重の声 ――日本の一九七〇年代前後左右」

 


対談

 加藤:冨田館長はこれまで、そごう・サントリー・東京ステーションギャラリーと企業の美術館に関わっておられるのですが、3つの美術館の違いはどうでしょうか。

冨田:どこも高い志を持っている美術館でした。
そごうはデパートなので、本数も多く集客のためパッケージの展覧会が多かったのですが、年に1回は骨のある自主企画展覧会を開催していました。
サントリーでは、もともとデザインを中心にした美術館でしたがお客さんがなかなか入らない。ということで質の高いデザインと集客の両立に苦労しました。
東京ステーションギャラリーの場合は、行列を作るな、お客さんを入れすぎるなということですから、と言って全然入らなくていいかと言うと、そうではなくて、収支はちゃんととってほしいということなので、逆に難しい。

加藤:そういう意味では最も難しい美術館かもしれませんね。近代の知られざる作家とか巨匠の切り口を変えていくという点では、学芸員的には醍醐味があるところ。眠っていてまだみんなが気づかないようなところで、かなりの実力と実績を持ちながら時代に翻弄されて埋もれてしまって発掘できなかった人を取り上げるのは、非常に先鋭的で面白いと思いました。
冨田さんは、そごうもサントリーもほぼ10年ずつで、東京ステーションギャラリーも10年ですね。その中で一番自由に自己実現、表現ができる展覧会ができる美術館が東京ステーションギャラリーでしょうか。

冨田:そうですね。そごうでもサントリーでもやりたい展覧会はやらせてもらっていましたが、なかなかたくさんできませんでした。しかしここでは自由に組めます。



加藤:この30年間はバブル崩壊も経験し、全国の美術館は事業予算削減などを強いられました。企業美術館の30年間はどのように感じられましたか?

冨田:今から30年以上前に、世田谷美術館館長の大島清次さんが『美術館とは何か』という本を書いていて、そこに書かれている国内の美術館の問題点は今も全く変わっていません。つまり公立美術館は予算はあるが自由度は低く、私立美術館は自由度は高いが、基盤は脆弱。バブル崩壊後、消えていった私立美術館も数多くあります。


加藤:全国の公立の美術館は地域性にこだわることを言われますが、東京という地域性はどうお考えになりますか?

冨田:あんまり意識はしていないですね。東京にこだわることはなく、全国で面白い作家がいればどんどん取り上げたい。国内に限らず、海外もそうですね。東京にあるということは地の利がとても大きいことだと思います。

加藤:東京ならではというか、東京でしかないということですね。

冨田:東京はすごいところで、このご時世でも図録がよく売れます。多いときは5〜6人に一冊という場合もあります。

加藤:事業予算はどうなっていますか?

冨田:もちろん予算はありますが、うちは予算で考えてなくて、つねに収支で考えています。人件費や水道光熱費、建物の維持管理費などは別にして、借用料や展示にかかる費用、会場施工にかかる費用、広報など、展覧会にかかる直接経費を入場料で賄い、かつ1年間を通して若干の利益が出るようにしています。


加藤:日本の美術館の行く末というか、ビジョンをどう描いたらよいのか、お考えを教えてください。

冨田:大島さんの本に書かれた提言が生かされていません。もっとひどくなっている状況だと思います。
良質なコレクションを持ってそれらを中心に活動していく美術館は今後も安泰だと思います。そういうところは基盤もしっかりしているし、企業にとっての美術館の位置付けもはっきりしています。
そうじゃない場合は、私立、公立を問わず、状況の変化によっては、もっとひどくなる可能性が大きいと思います。そういう中で存在意義をどうやって示していくのかは課題だし、東京ステーションギャラリーの場合は、東京の地の利を最大限に生かしていくのが私の責務だと思います。
美術館というものが我々の生活にとって絶対的に重要なものだという意識を市民も行政も持たなければならない。だけどいまだにそうなっていません。だから市民の美術館に対する気持ちを育てていかないとなりません。そういう意味でもこの会の活動はとても重要なことだと思っていますので、この活動をどんどん続けていってほしいと願っています。

 

美術館の存在意義をどう示していくか。
地方過疎化、人口減少の中、美術館が私たち市民、行政も必要なものだという認識がこれから必要となる。



<事務局のまとめ>

具体的な数字もストレートにあげていただきながらお話いただきました。これからの展覧会のことや人材のことなどについてもチャットで質問が多く投げかけられ、東京ステーションギャラリーへの興味がより高まったように感じます。冨田館長、加藤館長ありがとうございました。


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◆冨田 章 氏(東京ステーションギャラリー館長) プロフィール 
慶應義塾大学、成城大学大学院卒。(財)そごう美術館、サントリーミュージア ム[天保山]を経て現職。専門は、フランス、ベルギー、日本を中心とした近現代美術。担当した展覧会に「梶田半古の世界」展(そごう美術館)、「ロートレック パリ、美しき時代を生きて」展(サントリーミュージアム[天保山])、  「シャガール 三次元の世界」展、「幻の画家 不染鉄 展」、「夢二繚乱」展、  「吉村芳生」展、「メスキータ」展(以上、東京ステーションギャラリー)な ど。著書に『偽装された自画像』(祥伝社)、『ビアズリー怪奇幻想名品集』  『ゴッホ作品集』(東京美術)、『印象派BOX』(講談社)、『初老耽美派 よろめき美術鑑賞術』(共著、毎日新聞出版)、訳書に『クリムト』『ゴーガン』  (西村書店)などがある。


◆加藤義夫氏 (宝塚市立文化芸術センター館長) プロフィール
1954年大阪生まれ。グラフィックデザイナーや現代アートのギャラリーの企画運営ディレクターを経て、展覧会の企画制作や美術評論を仕事とする。
現在、加藤義夫芸術計画室主宰、宝塚市立文化芸術センター館長、美術評論家連盟会員、朝日新聞大阪本社「美術評」担当。芦屋市文化振興審議会委員長、泉大津市文化芸術振興会議委員会会長、一般社団法人現代美術振興協会理事、一般社団法人デザインマネジメント協会理事、民族藝術学会理事、美術館にアートを贈る会理事。
大阪芸術大学客員教授ほか、神戸大学・放送大学・武蔵野美術大学で講師をつとめる。

 


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