福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

クナの8分24秒

2013-11-22 01:41:22 | コーラス、オーケストラ
WIENER STAATSOPER 1936(ウィーン国立歌劇場 1936年)というレコードが届いた。
文字通り、空襲を受ける前の旧国立歌劇場に於ける1936年の演奏の記録を伝える2枚組のLPである。




オーストリアTELETHEATER 76.23589(1987年)

デ・サーバタの「アイーダ」、ワルターの「ドン・カルロ」、クリップスの「ファウスト」、ワインガルトナーの「神々の黄昏」(ブリュンヒルデ:フラグスタート)、そして、クナッパーツブッシュの「ローエングリン」「エレクトラ」「薔薇の騎士」という、すべて数シーンずつではあるが、夢見るようなラインナップである。

音質が貧しいのは覚悟していたが、ロッテ・レーマンとエリーザベト・シューマンがクナの棒の下で共演という期待の「薔薇の騎士」の音の悪さには閉口した。音楽を味わえるどころか、我慢しているのが辛いほど。

しかし、このレコードには一点の光明がある。
「エレクトラ」だ。
中学生時代に、オットー・シュトラッサーの「栄光のウィーン・フィル」の136頁にある次の一文を読んで以来、どんなにクナの「エレクトラ」に憧れたことだろう。

『リヒャルト・シュトラウスのオペラでは、音響や表現を陶酔的な激しい祭典の気分にまで高めることができた。特に彼はリヒャルト・シュトラウスの「エレクトラ」を、後のミトロプーロスやカラヤンとは全く異なった意味で、しかしそのオペラの完全な偉容を示すすべを心得ていた。「エレクトラ」の嘆きの場面で、アガメムノンのテーマが深いバスの音からトランペットの高いCまで昇ってゆくとき、クナッパーツブッシュは、すっくと背丈をのばして、指揮棒を上に突き出し、私たちの音楽もまた忘我の境地に移っていったのである』

幸いなことに、このレコードに収められた「エレクトラ」の音は、「ローエングリン」「薔薇の騎士」ほどには悪くなく、かろうじてクナの創出したであろう凄絶な音響への手がかりを伝えてくれるのである。

収められたのはエレクトラの歌う2シーン。
1.楽劇冒頭、エレクトラが登場してすぐの「ひとりだ、悲しいことにただひとりだ」からの3分10秒
2.亡くなったと思っていた弟のオレストが目の前に現れた歓喜の場面「オレストだ!」からの5分14秒

合わせて8分24秒。
まるで、小さな節穴から広大な世界を想像するような難しい作業ではあるけれど、私は束の間その至福を味わった。
今後、状態の良いライヴ音源が発掘されることは、難しいのだろうなあ・・・。

エレクトラ役のRose Pauly





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